-Never give up for MICHIRU-

音色

作:little star

←(b) →(n)



「たとえ雨降りでも、 雪が降り続いても、
  やまない日はない ぼくたちには、『希望』という名の傘もある
  傘を使って、 晴れる日をゆっくりまとう」

ソプラノボイスの日向の声によって、歌われた歌声が3人を圧倒した。
…きれい、でやさしい声。
本当にみちる望が持てる。そんな気がする。
最近はやりの『激しい曲』ではない、この歌声の魅力ってなんなんだろう。

「ど、どうかな。一葵ちゃんの歌詞、周哉君の曲はとってもいいとおもうんだけど、
僕の歌声で…台無しに…。」
そういいかけた日向に対し、

「そんなことない!!すごい。日向の声ってこんなに魅力的だったんだ。昔から慰められた
きたけど、ずっと気づかなかった!!私、日向の歌声のとりこになりそう。」
私は、思わず日向の手を握り、思うがままに表現した。

「すごい、素敵に声だったわ。日向くん。私の作った詞にあった歌い方をしてくれてる。」
一葵も感心している。

「すごいじゃんか。日向。やっぱり、俺が見込んだことだけはあるな。」
と、周哉も感心している。

日向は、
「僕、歌はめったにうたったことなかったんだけど、叔父さんが寺の住職で、よくお経をきいて
それの真似をよくしてたんだ。だから、発声とかはまあまあ自分でもできていると思う。
でも、声が、僕はソプラノ系の声だから…。声代わりしてもこれだからね。
だから、人前で歌うのが嫌だった。だけど、三人に褒められると…なんか自信がでてきた!!」
そういうと、三人に握手をした。

「よし、これから練習に入ろう!!」
そういう周哉に対して、
「ちょっと、練習ってここ、病院!!声だしたり、楽器をひいたら苦情がきちゃうよ。」
日向がいった。
それに対して周哉は、
「俺がそんなこと考えてなかったと思うか。4Fの大講堂、2時間毎週木曜・土曜に借りたんだ。
ここなら、なにしてもいいってさ。高橋先生と境看護士長の許可も経ている。」
自信満々にいう、周哉に、
「すごいね。さすが、入院暦8年。だてじゃないね。」
日向がなにも考えずにそういうと、
「あほ、こんなの威張れるこっちゃねぇ。でも、入院長いと融通利くこともあるわけよ。」
そう周哉は、日向にいった。


☆☆☆

何ヶ月ぶりかな。ピアノに座るの。
しばらく、病気が悪化していてまともにひけなかった。
日向のさっきのサンプルも、周哉の友人寛君がDTMで作成してくれたデータを使って
いたのだ…。それを私がピアノで弾けるのだろうか。
ちょっぴり、心配そうにしていた私に、日向は、
「大丈夫だよ。みちるのピアノはピカイチなんだから。」
そう勇気付けられた。

「♪♪♪」
そう、こちらも日向の声におとらずすごい。優しいくて、でも、力強い感じだ。
これに周哉は、
「うまいね。みちるちゃん。僕のギターで台無しにしないように頑張るから。」
そういうと、周哉も引き出した。
しかし、日向は一つ気になることがあった。
それは、一葵は確かに作詞はしているが、肝心な本番ではぜんぜん姿をださないこと
だった。

「ねぇ、一葵ちゃん。折角一葵ちゃんが作詞した曲だからさ、一葵ちゃんも歌わない??
僕、一葵ちゃんの声、すきだな。ちょっとでもいいから…。」
そうさそう日向に、
「みちるは脱水が…。」
周哉がそういいかけたところ、みちるは、
「私も歌ってみたい!!脱水なら大丈夫。今落ち着いてるし、だめかな。」
周哉に尋ねる。周哉は、
「無理すんなよ…。」
そう赤い顔をしながら一言いうと、一葵は満面の笑顔で
「うん。」
と頷くのだった。


☆☆☆
練習が終わると、周哉は、
「実はさ、来週の土曜日、この大講堂で、コンサートをやることにしてるんだ。
ここ、毎月一回、外部のボランティアの人が演奏会をしてくれるんだけど、患者である
自分たちが奏でる。それもいいんじゃないかなぁ?って高橋先生にいってみたら、
『いい案だ』て褒めてくれて…。とまあ、そういうわけだから、日向も練習サボらない
ように!!」
そういうと、
「もちろん、こんなに楽しいこと…サボるわけないじゃんか。喜んで参加するよ。」
日向は大きな声でいった。

日向の本当の笑顔ってこんな感じなんだ。
私にみせてくれた笑顔とはまた別の…。

私は、前の大谷総合病院にいるときより、ずっと充実している。改めてそう感じた。
もし、日向がいってくれなかったら、あのままだったんだろうな。
そう感じると私は日向に対して…感謝の念で一杯になった。

☆☆☆
日向の家、
日向は家中でいつもあの一葵のつくった歌を口ずさんでいた。
「あのさ、日向…。なんか、不気味なんですけど…。」
そういうのは日向より4つ上の姉、未来だった。
「そういわないでよ。僕、とっても充実してるんだから…。」
そういうとまた、歌い始めた。
「本当に、好きなもの見つかったのね。……ってそれはいいけど、そんなに歌われちゃ
こっち来週模試なんだから、もう少し静かにしてよね。」
と、いう未来に、
「すみません…。きをつけて歌うようにします。」
と日向はいった。
『・・・・・・。わかってのか、わかってないのか・・・。』
未宇はそう思ったが、あえて言葉にせず、その場をたった。

☆☆☆
「春日さん、CRP(*1)の値が10から0.5に下がりましたよ。白血球除去療法がきいてきた
みたいですよ。」
そう、主治医の高橋先生がいった。
私は、
「たしかに、あれから3回治療しましたけど、最近、調子よくなってきて…。」
そう高橋先生に告げた。
「この病気はね。こころの問題が大きいんだよ。ききましたよ…バンドやるだってね。
星河君からきましたよ。私も楽しみにしますからね。」
そう告げると私のベットからはなれた。
 そうよね。たしかに、私は以前のわたしじゃない。
 いままでずっと、受験で失敗したこと…なげいてたけれど、
 なんか、この病院にきてから、時がたつのが早いというか、
 そんなこと考える余裕もないっていうか。
 これも日向や、一葵、周哉君のおかげだね。
 でも、
 私は一つ気になることがあった…。


☆☆☆
 コンサート当日。この病院中の患者さんが集まってる。人数としては200人くらいだろうか。
 もちろん高橋先生や、その他医師、看護士も参加していた。
 ボランティアに引き続いて…いよいよわたしたちの出番だ!
 高鳴る緊張。私大丈夫かな。…そうあのときも、緊張から…問題が真っ白になっちゃって
 受験のトラウマを脳裏にほののめかしたが、
 日向は、
 「絶対大丈夫だよ!!」
 一葵は、
 「あんなに一生懸命頑張ったんだもの。絶対平気。」
 周哉は、
 「まあ、間違えても俺の演奏でごまかすからさ・・・。緊張しないで・・・。」
 と皆が励ましてくれた。
 私、頑張ろう!!
 そうして、前奏を弾きだした。
 が、途端。私は、とちってしまった。一音だけど…。でも、約束とおり周哉君が
 カバーしてくれて、日向も一葵もあわせてくれた。
 わたしもそれ以外とちることなく、ひくことができた。
 最後のサビに、
 「(日向)たとえ雨降りでも、 (一葵)雨が降り続いても、
 (日向・一葵) やまない日はない ぼくたちには、『希望』という名の傘もある
  傘を使って、 晴れる日をゆっくりまとう」
が歌われると、客からは盛大な拍手が響いた。
 「やった…大成功だ!!」
 わたしたちは4人で一緒に喜んだ。
 
 そうして、コンサートは無事終わったのだった。
 けれど、
 ☆☆☆
 「5回の治療で、大腸カメラの検査もほとんどよくなりましたよ。今週中には退院できるね。」
 と高橋先生が私に告げた。
 「そ、そうですか…。」
 私は何気なく暗い声でいったのが、高橋医師に伝わったのだろうか。
 「きみはあの子たち、日向君や星河君、牧野さんから離れるのが嫌なんだね。」
 そう優しくつげた。
 私は、コクンと頷いた。
 「でも、大丈夫…。あの子たちも、春日さんのこと大切におもってるから…退院はさよなら
 じゃない。「これから」なんだから…。」
 そう自信をもたせてくれるのだった。
 
 「あっ、みちるちゃんお帰りなさい。検査結果どうだったて…。」
 一葵の質問に、答えず私は、
 「あ、あの。一葵。これからも、私がこの病院を退院しても、ずっと友達でいてくれる
 よね。」
 おそるおそる聴く私に、一葵は、
 「もちろんよ。私もね。実は、この病気になって…退院すると、周哉君とお別れするのが
 嫌で…。結構泣いたな。でもね。わたしたちはずっと一緒。だって、私、みちるちゃんや日向
 君、もちろん周哉君と一緒にいてとても楽しかったもの。これからも、HOPES続けていこ
 うね。今度はさ、病院の講堂じゃなくて、もっと大きなところで。」
 一葵はあかるくいう、
 「俺もだよ。みちるちゃん、日向なしでの『HOPES』はありえないんだから…。安心して、
 みちるちゃんって都内だよね。俺と一葵は千葉だけど、電車で行き来できるだろ。だから
 安心して・・・。」
 周哉も続けてそういった。
 「僕もだよ。みちる。僕がひょっとしたら一番それを望んでいるのかも知れない…。
 だって、こんなにいきいきとした時間をすごせたのもみんなと一緒だったから…。
 だから、僕らはずっと離れない。ずっと一緒だよ。」
 やさしくいう日向に、みんなに
 「ありがとう。」
 そういったのだった。

 そして、私の退院の日がやってきた。


*1 CRP・・・ 炎症性の度合いを調べるための検査。

←(b) →(n)


[戻る(r)]