「だめ、頭がくらくらする…。なんか、気分が悪い…。」
白血球除去の第一回目の治療を終えての私のの気分は…最悪だった。
この治療では、一時的に血液を外にだすため、このような貧血や低血圧による
副作用は稀ではないそうだ。
「大丈夫??みちる。」
心配そうに見つめる日向に…。
「うーーん。あんまり…。でも、なんとかなるでしょ。」
本当はそんな状態じゃなかったが、これ以上日向に心配させるのも気が引ける…。そう考えて
私は、そう答えた。
「日向君、私、前にも白血球除去をやってた患者さんをみていたんだけど、最初は皆こんな
感じ。大丈夫よ。時間とともに回復するから…。」
一葵は、そう日向に優しく話しかけた。
「うーーん。わかったよ。みちる。僕は、今日ちょっとはやめにかえることにするよ…。
周哉との約束の件もあるし…。」
そういうと、私は
「頑張ってね。」
といった。
日向と周哉君との約束というのは、日向の実際の歌唱力を知るために、周哉君が指定した
曲を録音してくるというもの。それで、作曲をするらしい。あと、作詞は一葵が担当する
らしい…。何でも、彼女は詩を書くのが上手だそうだ。(周哉君談)。
「うーん。でもやっぱ。しんどいな…。一葵は、病気になって、何で自分だけって、
思ったことないの??」
私は一葵にそうたずねた。一葵は、
「たしかに…そうかんがえたことがないといったら、嘘になるよ。でもね、
私、病気になってから、少しずつだけど、心がやさしくなれたっていうか、暖かくなれた
っていうか…。そんな感じがするときもあるの。だから、病気に感謝しきゃいけないところ
もあるのかも知れないね。」
微笑みながら、私にいった。
「一つ、きいてもいいかな。」
私は、一葵に尋ねた。
「周哉君との出逢い…のこと、聞かせてくれる??」
そういうと、一葵は顔が一瞬真っ赤になったが、
「そうね…。あれは、4年前。私がクローン病になったときだったかな。」
☆☆☆
「そーやってないてばっかじゃ。しょうがないだろ。かずき。」
周哉は一葵の肩をたたいて、励ました。
「だって、だって、今日は学校の林間学校で…。前から楽しみにしてたのに…。」
一葵は、だだをこねていた。
「俺は、もう6歳のときからこの病気なんだけどさ、俺も殆どの学校行事に出たことねぇ。
出たかったけど…。やっぱでれなかった。」
周哉はつづけて、
「でもさ、現実はそうなんだけど…いつも、自分自身がみちる望をもって行動すれば、きっと
いいことがあるはずだよ。例えばさ、俺の些細な幸せって何だと思う??」
周哉は一葵に訊ねる。
「よ、よくわからない…。」
周哉はにこりと微笑んで、
「きみに出会えたこと、そしてたくさんの同じ病気の人に出会えたこと。病気にならなかった
ら、きみにも出会えてなかった。健康じゃないからこそ、めぐり合える「奇跡」ってあるって
俺は思うんだ。ヒトだけじゃない、いろいろな経験が…。そこで、自分自身が成長できる…。
強くなれる…。優しくなれる…。そう考えれば、病気も悪いもんじゃないぜ。」
そういう周哉のしぐさ、言葉一つ一つに一葵は感心してしまった。
そんなふうにかんがえるのね。
びょうきになったことは、ふしあわせじゃないってこと。
そうか。そうよね。
そうだきっと、だから、信じる私、あなたの台詞を。
「それに」
周哉は、一葵に真剣のまなざしで、
「俺はおまえのこと…。好きだ!!」
そう一葵にいうのだった。
一葵は動揺して、
「・・・そっそうやって女の子をナンパしているの??」
怪訝そうに周哉に訊ねた。
周哉は、
「そうじゃない。俺は、きみの優しさ、あのお袋さんの前で作り笑顔。あれってさ、
お袋さんを心配させないためにだろ。でも、一葵は俺にたいしては、前から泣いてばかり
だよな。きみはお袋さんに精一杯笑顔でいる。つまり、優しいんだ。俺、そういう
きみが大好きなんだ。」
周哉は赤くなりながらいう。
一葵はその言葉をきくなり、なきじゃくり、いつのまにか、周哉の袂で泣いていた。
「わたしのこと…。もっときいて…。わたしもあなたのこといっぱいしりたい…。
わたしも、いつのまにかたよっててた。あなたに。」
いつまでも、周哉は一葵の手は離さず、泣きじゃくる彼女肩をさすりながら
きいていた。
☆☆☆
「っということ。それから、私は周哉君とつきあい始めた。私も周哉君も一年に5回は入院
生活していたから…。ほとんど病院でデートって感じになってしまうのよね。」
一葵の言葉に私は、
「ふーん。10歳のときからか…。けっこうやるね。一葵。じゃさ、ファーストキスっていつ(?)。」
調子に乗りすぎか(?)そうも考えたが、一葵は、
「…えっと、じゅういちのときかなぁ。」
一葵の発言に私はびっくりしてしまって、
「11歳??」
と大きな声を上げてしまった。
一葵は
「そんなに大きな声でいわないで…。」
私は一葵の言葉に、「ごめん」と静かに謝った。
「あれば、冬だったかな。周哉君の具合が悪くなってきて、たしか、みちるちゃんみたいに白血球
除去を始めるときだった。」
☆☆☆
「おれ、なんか最近自信がなくなったきた。」
そう、一葵に周哉はいう。
「なんで??」
一葵は訊ねた。
「・・・もう、3ヶ月入院してんだよ。それなのに全然思うようにいかねぇ。なんか…。」
普段見たことのない周哉の形相に、一葵は、
「あのね。周哉君、私周哉君にいっぱい感謝してるよ。だから、私にできることは何でも
したい。私じゃ、頼りないかなぁ。」
不安そうにいう一葵に、
「あ、あのさ、その、キスしてもいいかな。」
「!!??」
一葵は混乱状態に陥ったが、周哉は、
「不安なんだ…。俺から一葵が離れていってしまうんじゃないかって。実は俺んち5人兄弟
だろ。だから、俺がだめでも、他のやつが…ってそう考えてるの…耳にしちまったんだ…。
そうなると、もし、一葵もいなくなったら、俺、どうしたらいいのか…。そんなこと考えて
た。だから、キスしてもいいかな。」
周哉の言葉に一葵はコクリと頷くと、やがて二人の影が重なった…。
「・・・だいじょうだよ。私は、ずっと周哉君と一緒。離れたりしない!!」
☆☆☆
「というわけで、ファストキスは実は病室で、隣の506・・・。」
一葵の言葉に、
「なんか、周哉君も私と似ているのかもしれない…。私も、家族からは放置されてるみたい
で不安で…。そんなとき、日向に助けられた。私も日向がいなきゃだめだったのと同じよう
に周哉くんは一葵がいなきゃだめだったんだね。」
一葵は私の言葉に頷き、そして、
「じゃ…。みちるちゃんのファーストキスはいつ(??)」
・・・。いわないわけにもいかないよね。ここまで、きて。いわないのはフェアじゃないよね。
「わたしは、3日前。この病院に転院する前に…。」
真っ赤になった私に一葵は、
「そうか。日向くんもやるね。私、みちるちゃんと日向くんって実はそこまでいってなかった
とおもってたんだけど…。」
やっ、やられた。
そうか、「してない。」ていえば、それですんだんだ。
ぼっと赤くなる私にみちるは。
「わたしたち、幸せよね。」
そう一葵はいった。
私も静かに頷いた。