全ては黄昏となりて外伝

帰宅

作:しーば

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うーん、どうしよう。

恋人達の木のあの事があってから、時空の歪が発生しなくなって、私はこの時間帯に留まったままになっている、行く場所が無いから過去の私を追って西遠寺まで来ている。

幽霊の姿だと、彷徨なら私の存在に気付くかな?と思っていたけど、何度すれ違っても彷徨は私に気付く事はなかった。

普段は2人の何気ない生活を見ているだけだったけど、どうしても我慢できない事があってね。




起きている時に乗り移ろうとしても、乗り移る事が出来ずに跳ね返されていたんだけど
ある時、過去の私が寝た後に乗り移る事に成功した。

久しぶりに乗り移りに成功した私は、机の中に隠しているお菓子類を漁り始める。
「やった〜。このお菓子もう一度食べたいって思っていたんだ〜」とあれこれと食べ始める。

少しして、そういえば冷蔵庫にプリンがあったはず


台所に移動して冷蔵庫を開けて飲み物を探し始める。
プリンを出してテーブルに座って食べる。
うう、美味しいよ〜、食べれて良かったよ〜。


なんだか喉が渇いちゃった…何か飲み物無いかな〜?
冷蔵庫の中を探って、中にあった飲み物は牛乳パック一つだけ。
その牛乳パックをテーブルに置いて、食器棚からコップを取ろうとした時に

「おい、なんで未夢が俺の飲んでるんだ?」
振り返るとパジャマ姿の彷徨が居た。


あれ?なんで彷徨が私の存在に気づけるの?私って幽霊のはずじゃ・・・・・・あっ!
そういえば今、乗り移っていたんだ・・・。
どうしよう・・・


「あれ?これ彷徨の…?ごめん。なんか寝ぼけちゃってるんだね私。あはははっ」
牛乳パックには「未夢は触るな」と張り紙がしてあるのに気づく。

そっか、前はこんな風に彷徨と私の物を分けていたっけ・・・。

「まったく、こんな時間に物音がするから見に来たら・・・未夢が冷蔵庫漁ってたなんてな」
彷徨に鼻で笑われたよ〜。
だってしょうがないでしょ、幽霊になっている間何も食べてなかったんだから。

「今日の食事当番未夢なんだから、きちんと寝坊せずに起きろよ?」

へ?今日?明日の間違いじゃないの?
時計を見るともう少しで午前2時になる時間だった。

「もう、こんな時間だったの?」
そっか昔の私が寝た後、いろいろ考え事してたからこんなに時間が経ってたんだ。

「じゃあ、部屋に戻るね」
私が壁に寄り掛かっている彷徨の前を通り過ぎようとした時、違う部屋からボーンと言う振り子時計の一回目の音が聞こえた。
すると私の身体が動かせなくなり、強制的に身体から追い出された視界が2人を見下ろす位置まで浮き上がる。
2回目の音が聞こえた時、支えを失った私の身体が彷徨に倒れ込んで行くのを目撃した。

彷徨が倒れる私を上手く抱き留める。
身体から追い出された私は、2人の様子を見守る。
最初は焦っていた彷徨、でも、身体を持つ私は静かな寝息を立てているだけだったので、大きなため息を一つつき、私を抱きかかえながらその場を立ち去った。
残されたのは、テーブルの上にある口の開いた牛乳と私が戸棚から取り出したコップ。

片付けなきゃ・・・コップを掴もうとするが、スッっとコップをすり抜ける。
牛乳の方を取ろうとしても、身体がテーブルごとすり抜けてしまう。



やっぱり、この状態じゃ取れないよね。
なんで追い出されたんだろう?


しばらくすると、彷徨が戻って来た。
彷徨はテーブルに置いてあった牛乳とコップを元の場所に戻す間、私を何度もすり抜けて通過して行く。
最後に電気を消して廊下を歩いて行った。

私は真っ暗な中に漂うだけだった。


朝になって過去の私が時間通りに起きて来た。
でも、何か変で、私の場所を見えているかのように、浮いている私を避けている。


その過去の私が、浮いてる私の目の前まで来てこう言った。
「ねぇ?貴女誰・・・?」
私の姿が見えるの?そんな訳ないよね。と横方向に移動する。
でも、視線も一緒に追ってくる。


「えっと、通りすがりの幽霊です。」

「やっぱり・・・」
その後ろで味噌汁の鍋がガタガタ言い始めていた

「えっと・・・後ろの鍋きちんと見ないとだめよ?」

鍋を止めた時、作っている物がカボチャだと分った。
私が「ほほぅ・・・朝からカボチャとは、ほほぅ・・・」と突っ込む。

「えっ?何かおかしい?冷蔵庫の中かぼちゃぐらいしかなくて、まあ彷徨だったらかぼちゃなら何作くても文句は言ってこないし」
少し動揺する過去の私。

「ねぇ?とっておきのカボチャ料理があるんだけど・・・作ってみない?」

私は私が作れる料理の中で彷徨が一番お気に入りのカボチャ料理を過去の私に教えた。






朝食になり彷徨の目の前に、そのかぼちゃ料理が並ぶ。
「えっ?何だこれ?もしかして失敗したのか?」
新しいかぼちゃ料理を見て彷徨が驚く。

まぁ、本当は作り方を途中で間違えて出来た料理だからね・・・


「・・・意外と美味いな・・・コレ」
彷徨はぺロっと食べてしまう。


うゎ・・・彷徨がこんな急いで食べたの初めて見たよ。

「ね?まだおかわりあるけど食べる?」
過去の私が嬉しそうに彷徨を見ながら、おかわりを薦める。
彷徨は照れたようにそっぽを向きながら皿を差し出してきた。

(昔の私達って、外から見るとこんな感じだったんだ・・・ちょっと妬けちゃうかも)
その2人を邪魔したくないから、縁側まで移動した。

中からは2人の会話が聞こえてくる。

あっ!今の料理を教えた事でこの時代の私の未来って変わるかもしれないよね。
もう変えちゃったから良いよね・・・もうちょっと先の未来も変えても・・・。

それに、恋人達の木での事も、本来の私とは違った事になってるし。

しばらくしてから、過去の私が縁側に居る私に近づいて来て。
「彷徨があんなに喜んで私の料理を食べてくれて嬉しかったよ」と本当に嬉しそうに言った。

私も本当はあんなに喜んで食べる彷徨初めて見たから凄く嬉しかったし、それよりもそんな2人の姿を見れた事が一番うれしいよ。


縁側から一緒に部屋に戻る。
そこで、机の中に隠し置いてあったお菓子が全て無くなった事に気づかれた。
「嘘?なんで無いの?昨日まではたくさんあったのに・・・」


そ〜っと壁の中に逃げ込もうとしたけど、過去の私に手を掴まれる。


「ごめんなさい、私が食べました・・・」

「やっぱり、夜に私の身体に乗り移って食べたんでしょ〜?」
ずいっと、身を乗り出してくる過去の私。

乗り移ってたのバレてたの・・・?


「結局食べた事になったのはこの私でしょ?凄く美味しかったから少しずつ食べてたお菓子だったのに?」

「ねぇ?私が食べてた時の味覚とかまったく感じなかった?」

「うん、まったく感じなかったよ。だって身体に入られると私は追い出されちゃって
その辺りにふよふよ漂っていたような感じだったから・・・」


あれ、おかしいな?
恋人達の木の時は、一つの身体を2人で共有できたのに、今度はどちらか片方のみ身体に入れる状態みたい・・・あっ!それに幽霊姿の私に手を過去の私が掴む事が出来てる。
なんでだろう?なんで乗り移りの状態が変化しているのだろう?

そうして、私と過去の私は仲良くなり色々な相談もされるようになった。
今日の彷徨はこんな態度だったから悔しい、今日の彷徨は酷いとか。

私が普段してきた、彷徨に関する話は、第三者から見ると単なる惚気話だった事に初めて気付き、凄く恥ずかしいかったと、今になって自覚する事ができた。

過去の私にも幽霊って事を説明して分って貰えたし、本当に生きているように過去の私は幽霊の私と話をしてくれていた。

そんな中、私は過去の私に全てを話す事にした。



「ねぇ?お姉さんはどうして西遠寺に来たの?」


私最初はね。
私が死んじゃった事に気づけなくてね、いつも通りに自分の家に帰ってたの。
だけど、家族に話かけても全く気づいて貰えなくてね。
ちょっと前に喧嘩したから、その時は単に意地悪をされているだけだと思ったの。

私はちょっとふてくされちゃって部屋に戻った。
少しすると家の電話が鳴って、彼が慌てて出掛けて行った。

お腹が空いてきたので、台所に行ったらテーブルの上に私の大好きなプリンが置いてあったの。
それを見た時に、彼が買ってきてくれた事に気づいて、出来るなら仲直りしてから一緒に食べたいって考えて、その場でずーっと彼の事を待ち続けた。
ちょっとは「もう先に食べちゃっても良いよね?」って考えたけどね。

だけど、彼はその日に帰って来なかった・・・。
彼が帰って来ないから、私は段々と物事を悪い方に考えちゃって・・・。
今まで何度も喧嘩してきたけど、今回のは仲直りできそうにないのかな?

とうとう振られちゃったかな〜私?

本当は私なんかずっ〜と前から、振られていて。
本命の彼女の元にいってしまったのかな?

色々考えて泣いて、その場所でいつの間にか寝ちゃてて・・・。

起きたら、テーブルを挟んで向こう側に彼が居て・・・彼の姿を見た時は、本当に嬉しかった。
やっと帰ってきてくれた、早く彼に謝ろう・・・。


でも、その時初めて気づいたの。


彼の手に触れれない事に・・・。

触れようとしても、感触が無いまま通り過ぎてしまう。
あれれ?どうしてだろう?

よく見ると、私はテーブルにもイスにも触れてなかったの。
夢でも見ているのかな?って思っていたけど、彼と反対方向に振り返ったら、私が居たの。

最初見た時は、あれ〜?何で私がこんな所で寝てるんだろう?
しかも、何で真っ白な格好で寝てるの・・・って。

早く私の身体に戻って、彼に謝らないといけない。
寝ている私に触れようとしても、同じようにすり抜けてしまう・・・。

あれれ?おかしな?


どうして戻れないのかな〜?


私の身体のはずなのに・・・。


ねぇ?私はここに居るのに。


いつの間にか、彼と同じように泣いていたの・・・。
どこかで、思っていたんだよね。


私はまだ死んでいない・・・早く彼の元に帰りたい・・・って。
そこで現実を突き付けられてしまって、どうすることもできなかった。

人は死んでしまったら、新しい命に生まれ変わるって言う人も居るけど。
私の場合はそれとは違ってた、私の身体が居なくなっただけでその場に居続ける事ができた。
彼の側に居続ける事は出来たけど、段々私の方が耐えられなくなった。

私が死んだ日、彼は私と仲直りしようと、私の大好きなプリンを買って帰りを待っていてくれた。
でも、帰って来たのは身体をなくしてしまった私だった。

その後、病院から電話があって彼が急いで行き。
彼が家に帰って来た時、もう動く事の無い私の身体も一緒に帰ってきた。


一番辛いのは、その時だけだと思っていたのに・・・。
その後の方が耐えられなかった。


彼が私の事を想っていてくれたその想いが、どれほど強い物であったのかを、その時初めって知った。
彼と、私が出会った後。
彼の中で私は、彼の側に居る事が当たり前になって、そのうち側に居てくれないと駄目な存在になってた。

私が、悲しんだり悩んでいたのを隠していた時。
彼はすぐに気づいてくれて、いつの間にか私の事を励ましてくれていた。

今まで気づくことも出来なかったけど、私は彼に支えられながら生きていた。




彼に支えられて来たのは私なんだけど、支えだけあっても駄目だったみたい。
何度も何度も私の名前を呼びかける。

ここに居る彼は本当に彼だろうか?
そう思ってしまうほど、もろく弱く泣く彼が居る。


ねぇ?私はここに居るよ?
あなたの側に居るから大丈夫・・・もう泣き止んでよ・・・。
どうして、私の事でそんな姿になってしまったの?


凄く後悔したの・・・。
今は何も出来ない、こうなるんだったら…・・・。



「ごめんなさい…こんな事聞いてしまって・・・。ごめん・・・なさい・・・。」
説明する事に集中していまって、今私の目の前に居る私が泣き出しているのに気づく事も出来なかった。
幸い彼女には私の存在だけが分かるので、顔の表情までは見られることは無かった。

「私が出来る事なら何でも協力するから・・・」
大丈夫、この事についてはもう決着が付いたし。
と、この場の雰囲気を押さえるために、私は彼女に嘘を付いた。



夜になり、彼女が寝静まった後、私は縁側に居た。
何かをする訳でもなく、ただ時間を過ぎるのをじっと待つだけ。


何をすれば良いんだろう・・・?
人が死んじゃった後、未練とかが残って居ると成仏出来なくて、ずーっと漂い続けるって聞いた事もあるけど
今の私って、そんな感じなのかな?
でも、笑っちゃうよね・・・幽霊になってまで時空の歪に飛ばされて過去に来ちゃうなんて・・・、しかも私達の居る西遠寺に。


これが夢だったらどんなに良かったかな・・・?


「未夢・・・?」

ふいに声の方を振り返ると、彷徨が居た。

「あれ・・・?おかしいな?今誰か居たような気がしたんだけどな?」

首を傾げながら私の方を見てくる彷徨。しかし、その目線は私の存在を捕らえることは無かった。

彷徨は少し考え込んで縁側に座り込んだ。
最初は星空を眺めていた彷徨。その視線が彷徨の隣の場所に移る、そこはいつも私が座っていた場所・・・。
やさしい表情でその場を見つめる彷徨。私は縁側の外からその横顔をみつめる事しか出来なかった。


…悲しむ彷徨はもう見たくない…。
彷徨を悲しませるのは誰? 彷徨を悲しませた人物それは私・・・。
なら、最初から私が居なければ・・・私と彷徨が出会わなければ・・・私が彷徨を好きにならなければ・・・悲しむ彷徨は存在しなかった。

そう想うしかなかったの
でも、私が今居るココには、私では無い別の私と、その私の事を想っていてくれる彷徨が居る。

私が過去に来て私や彷徨と出会ってしまったから、私の進んできた未来の世界とは異なる世界を向かえるかもしれない。
でも、2人がどんな未来を作っていくかはまったく分からない、だけど、私の進んだ未来のような世界には絶対にさせない・・・。



φ(・ω・ )よっしゃー、終盤まであと少し、頑張るぞ!
注意:急いでいる為誤字脱字チェック未です。(≧≦) ゴメンヨー

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