全ては黄昏となりて外伝

恋人

作:しーば

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私が今吸い込まれているのは、本当に時空の歪なのかな?

時間と空間に「ひずみ」がうまれ、別の時間と別の空間を繋げてしまい。
その「ひずみ」に吸い込まれたら何処に飛ばされるのかが分らないはずなのに。

私や彷徨の過去にしか飛ばされてない。
しかも、私幽霊なのに・・・。


うーん。ひょっとしたらこれは時空の歪じゃなくて、人が死んじゃった後の世界なのかな?


私は何処までサマヨイ続けるの?







わぁ・・・綺麗。


オレンジ色に変化した海の向うに、太陽が沈み込む瞬間だった。

太陽が完全に沈み込み、私の居る砂浜と、空のてっぺんから少しずつ暗く変わっていく。

海と空の境界線が暗くなるまで私は何も考えずにその光景だけを眺めていた。

太陽が隠れたはずなのに、波が砂浜に打ち寄せるのが薄っすらと蒼く見える。

どうしてなんだろう?と、空を見上げて見ると満月が見えた。


私は何も考えず、何もしないまま、宙に浮いた状態で蒼く光る月を眺めていた。


満月の夜と砂浜か・・・また私と彷徨の過去なのかな?


今度はどんな彷徨なんだろう?と少し期待をしながら
海と砂浜の境界線に沿ってふわふわと移動した。


途中で砂浜から小高い丘のような岸壁に変わる場所があった。
私は宙を浮きながら丘の上に向かう。
そこは草原になっていて、丘の一番海寄りに大きな木が一本あるのを見つけた。


そのまま、停まらずに木の下まで行き、木に寄りかかるような体制で海を眺めた。
満月の光りに照らされて、海と周りの景色が薄っすらと蒼く見える。

満月の明かりでゆらゆら揺れている夜の海から、それを照らし出す満月と視線を変える。


あっ・・・、思い出した。


私は振り返り、後ろにあった木を見上げる。


恋人達の木にはジンクスがあって…


『月食の夜にこの木の下でキスをした男女は永遠に結ばれる』


私の持っている記憶だったら、この場所でクリスちゃんが暴走してこの木を投げて
下敷きになりそうだった私を彷徨が守ってくれた時、彷徨の唇が私の頬に触れてしまって

ちょうどその時が月食の瞬間だった。


もし、この場所で私ではない別の誰かと彷徨がキスをしたら、彷徨はその人と結ばれる。
そうなれば、未来の私がどうなろうとも、彷徨には関係の無い事、知らない事になる。


私は、満月を見上げながら一つのお願いをした



『彷徨が永遠に結ばれる人と、幸せになれますように』


私はこれ以上サマヨイ続ける事は出来ないのだから・・・。



この日の私は、みかんさん・クリスちゃん・ももかちゃん・ルゥ君・ワンニャーそして彷徨とキャンプに来ていたんだよね。


確かこっちの方向に。
私は、恋人達の木よりも高い処までふよふよと登って、私を探した。


ちょうど、夕食を終えた後みたいで、この世界の私はクリスちゃんと2人で食器洗いをしていた。


恋人達の木の話題でウキウキしているクリスちゃん。
その隣で、表面だけで笑っている私が居た。


この時代の私には、幽霊の私は乗り移れるのかな?



軽い気持ちで、ここに居る私に触れてみようとした。
私の指が触れそうになった時、私は吸い込まれてしまった。


今までの時空の歪のような感覚ではなく、触れようとした私に吸い込まれてしまい
洗っているお皿を一枚落っことしてしまった。
割れる事は無かったけど、落ちたお皿を拾って洗う手の感触が伝わってくる。
そして、心配してくれたクリスちゃんに「ありがとう、大丈夫」と私の意志とは別に、口が動いていた。


今回もなんとか乗り移れたみたい。


洗い物を全て終わらせて、クリスちゃんと別々の方向に歩き出し、クリスちゃんは恋人達の木の場所、私は皆の所に一人で戻る途中にもう一つの私の声が聞こえてきた。

(クリスちゃんは、恋人達の木に彷徨に告白する。私はそんなクリスちゃんに応援するから頑張ってね、何でも手伝うから。と言ってしまって、これから彷徨の所に行き、恋人達の木の所に来て貰うように頼まないと・・・、うーん。どうやって彷徨を誘えば良いのかが分らないよ〜。)

『あらら、悩んでるみたいだね』(うん、だってあの彷徨だよ)
『意外と簡単に頼めちゃうでしょ?』(え〜どうやって?)


『あら・・・何で私の思っている事が通じるの?』(うーん、何でなんですかね?)


過去の私が足を止める。

『・・・・・・』(えっと、今更黙っても駄目ですからね?)

ちょっと、なんで〜!?過去の私に幽霊になった私が乗り移ってるのがばれてるの〜!?


急いで今乗り移っている身体から逃げようとするが、宙に浮く感覚が無く、身体から逃げられないまま、地面に着いてる足だけが動きだした。

(ちょっと、待ってください。逃げようとしても無駄ですからね)
動かしていた足が、私の意識に関係無く強制的に止められる。

『・・・どうして?』


(私の身体に乗り移って、何かしようとしてませんか?貴女が私の身体に入って来た瞬間から気付います、それにどうして彷徨の事を知っているのですか?)

過去の私から質問攻めを受ける。
『いや〜実は、貴方達がキャンプに来た時から見てて、面白そうだなと思って未夢ちゃんの後を追っていたのよ。そしたら、いつの間にか乗り移れちゃってビックリしたんだよね〜あはは・・・』
どうしよう、どうしよう、過去の私に未来から幽霊になって来た私です。なんて言えないよ〜。


止まっていた足が動き出した。

(ねぇ?お姉さん。私達がキャンプに来た時から面白そうだから付いてきたんでしょ?だったら手伝って貰えませんか?)

『えっ?何を手伝うの?』

(今夜の月食になる瞬間に、彷徨とクリスちゃんを恋人達の木の下でキスしてもらう事です)

あれ?おかしいな?本当にここに居るのは過去の私なのかな?
まだ、彷徨の事気にし始めてなかったのかな?以外にもあっさりと言うんだね。


『おお、楽しそうだね。でも、未夢ちゃんはそれで良いの?彷徨君の事何とも思ってないの?』


(・・・・・・)
過去の私からの返答は返って来ない、代わりに彷徨の居る所へ歩く速度が速くなった。





「ねぇ彷徨、後で大事な話しがあるの一生のお願いだから一緒に来て貰えない?」


その後、何故か私は過去の私を怒らせたみたいで、彷徨への誘いとクリスちゃんとの打ち合わせも全て、私が主導でする事になった。
過去の私は何も言わないので、私自ら乗り移った身体を使って彷徨やクリスちゃんと話をしていった。

そして、私は今恋人達の木へと向かっている、すこし後ろからは彷徨が渋々付いて来ている。

クリスちゃんとの打ち合わせはこう。
私が恋人達の木の場所に彷徨と一緒に行き。
クリスチャンは最初から恋人達の木の所で待っている。
そこで彷徨とクリスちゃん2人だけにして私は居なくなるだけ。


恋人達の木にたどり着いた。
海風が吹き、私の髪が風で揺れる。

『ねぇ?本当に良いんだよね』
今の身体の持ち主である過去の私に問い掛けても、なにも返事が無い。
『返事してくれないならやめちゃうよ?』(駄目です・・・続けてください・・・)
弱い擦れたような返事が来た。

私は彷徨側からは見えない恋人達の木の裏側に移動する。
そこには緊張したクリスちゃんが頬を赤らめさせながら待っていた。

クリスちゃん可愛い、頑張ってね。

クリスちゃんに、彷徨を連れて来た事を伝え。
「応援してるから、頑張ってね」
と、今居る恋人達の木の裏側から、彷徨の居る表側に送り出した。

ここからは、反対側の様子なんて見えない。
私は、恋人達の木に背中を預けるように寄りかかって、満月を見上げた。
月食まであとどのぐらいだろう?

そう考えた時、私の頬に何かが触れる感触がした。
頬を触って見ても何かが付いている訳でも無く、もう片方の頬にも同じ感触が伝わった。

『ねぇ?未夢ちゃん。これで本当に良いんだよね?』
私は、身体の持ち主である過去の私に最後の質問をした。
言葉は返って来ないけど、それは感情で返って来た。

頬を伝わる涙の量が増し、胸の奥から詰まる様な感覚がはっきりと伝わって来た。
頑張って声を押し殺そうとしても、その感情には勝てなかった。

(ごめんなさいっ!)
過去の私が一言呟き、海側に向かって走り出した。
『駄目!未夢ちゃん!』
身体の持ち主の動きを止められる事も出来ず、勢いだけで走り出したその身体は海に落ちてしまう。
その瞬間に、私は身体から追い出された。
意識を失い海中に居る過去の私に、もう一度乗り移ろうと身体に触れようとしてもすり抜けてしまう。
それでも、どうにかして助けたいと思って何度も手を差し伸べていると、私の身体をすり抜けて、別の手が海中に居る過去の私の手を掴み、そのまま岸まで運び出した。


意識の無い私を助け出した彷徨、過去の私を仰向けにして何度も呼びかける。
それでも反応は無い。

私も、今乗り移って水を吐き出させないと!
気を失っている過去の私にもう一度乗り移った。

でも、意識があっても苦しくて苦しくて何もする事が出来ない。
水を吐くことも、指一本動かす事も。
しまいには、強制的に身体から追い出されてしまった。

追い出されたあと、意識の無い過去の私から彷徨が直接口から水を吸い出している光景を見た。
何度も呼びかけながら繰り返す彷徨。


そんな中周りが暗くなり始めた。

私は月を見あげると、少し欠け始めていた。月食が始まった。

完全に暗くなってた後に、過去の私が咳き込んだ。
安堵の表情を見せた後に、怒り出す彷徨。
過去の私は、色々と言い訳をしていたが、最後はきちんと謝っていたみたい。


そして、2人の会話が始まり。
過去の私が「そういえば、クリスちゃんは?月食は?」と聞くと。
「全部終わったから気にするな」と答える彷徨。
その後、どうしたこうした。と2人の会話を正面から見る私。

彷徨が表情を隠そうと、過去の私から顔を背けても今の私には全部丸見え。


ああ、この時から私は彷徨の事を好きだったけど、彷徨の方もそうだったんだよね・・・。

今の2人幸せだな・・・。


でも、この2人が幸せの最高潮を迎える辺りで、運命のいたずらでもう2度と逢えない別れをしてしまう。

結婚までは行ったのに、永遠に結ばれなかったよ・・・。


もしかしたら、私はほっぺにキス、この2人はきちんとした口と口とのキスだから結ばれるのかな?




続きます、オイラも幽霊になって時空の歪旅がしたいです。


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