全ては黄昏となりて外伝

役割

作:しーば

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私が幽霊の姿で彷徨の目の前に居ても、彷徨は私の存在には気づいてくれなかった。

どんなに呼びかけても通じない、頑張って触れようとしても触れる事が出来ない。

いつも一人で悲しく辛い表情を見せ、時折り私を呼び空を見上げる。


気づいてくれない、触れない・・・。そんな事には慣れてきたけど・・・。

でも・・・、私を呼んでくれる彷徨の声に答えられないのが、辛かった。


ごめんなさいっ・・・。


泣きながら、何回彷徨に謝ったのだろう・・・。


そしていつの日からか、思うようになった。


なんで、私なんかが彷徨の傍に居たんだろう・・・。


段々。彷徨が私を呼ぶごとに、私は私自身を責めるようになってきた。


そんな私にチャンスがやってきた。


ここに居るのは幽霊の私と、過去の世界の私。


ほんの少しの間だったけど、私はこの世界の私に乗り移る事が出来た。


スヤスヤと眠り続ける過去の私を見る。


この子の未来も途中までしか無いのかな?


あなたはこれから、私と同じ様に成長して。


気づかないうちに彷徨の事を好きになる。



でも、あなたの未来は私と同じところまでしか辿り着けないなら。



この子は今の私と同じになる。


私が、過去の私に何か教えても、助かる事は無い・・・。


私が幸せになれる方法は。もうこれしか無いの。


ごめんなさい






こう決心した今の私の表情はどうなってるんだろう?

喜んでいるの? 悲しんでいるの? それとも泣いているのかな?





あっ・・・また時空の歪が出来た。


何の前触れも無く、私の目の前に出来る時空の歪。

神出鬼没のはずなのに、どうしてこうも幽霊になった私の前にばかり現れるのだろう?

今までは、引っ張り込まれるぐらい強かったのに。

今回のは少し控えめなんだね。


分ってる、今行くから。もう少し先の未来へ・・・。


私は時空の歪へ一歩近づいて自らその先の世界へ進む。



早く連れて行ってよ。


私が迷ってしまう前に・・・。










時空の歪から「ぽいっ」って感じで投げ出された。


着いた先は・・・えっと・・・何処?


辺りは暗くなり始めた夕暮れ時。


私が居たのは知らない住宅地の中。


日本なのは確かだけど、こんな場所来た事あったかな?



場所が分らなくて悩む私は、適当にさまよって公園にたどり着いた。


公園は大きな三角形の形をしており、半分がグラウンド、残りが遊具の広場になっている。


私は、その中心部にある木製模様のベンチに座った。



ふう、


って本当は座ってる訳じゃなく浮いてるだけなんだよね〜。


グランドでは小さな男の子達がサッカーをしてて。


遊具のエリアには中学生ぐらいの男女が隣同士でブランコに座ってた。


私は、両手で頬づえを付いて、その光景を交互に見ていた。


日が沈んだ後、サッカーをしていた子供達の親や兄姉が迎えに来た。



一人、また一人と人数が減っていく。


ブランコに座っている男女2人は、公園の外まで一緒に行き、その後名残惜しそうに何度も振り返り手を振りながら別々の方向に帰って行った。




いいな・・・。



ころころ。




私が見ていた方とは逆のグラウンドからボールが転がってきて。



私の座っていたベンチに当たって止まった。



そこに真っ暗なグラウンドから子供一人が向かって来た。


その子は、ボールを両手で抱きかかえるように持ち、私の隣に座った。



公園の出口には、最後までこの子とボールで遊んでいた男の子と、その母親と思われる人物が手を繋いで出て行く後姿があった。


公園には男の子と私の2人になった。


・・・いや、私は幽霊だから一人かな?



真っ暗な公園。


男の子がベンチの上で私の居る方を頭にして仰向けに寝転がる。


男の子の表情を間近で見て、彷徨だと分った。



だけど・・・さっき土管で会った時の彷徨より小さい。


私は、膝の位置をもうちょっと下げて、彷徨を膝枕するような姿勢に変えた。



彷徨は最初、目を瞑っていた。


でも、様子がおかしい。


顔をしかめて、まぶたを必死に腕で押さえつけた。



持っていたボールが彷徨の手を離れ、ベンチの横に転がり落ちる。


同時にまぶたから溢れた物が彷徨の両頬を少しづつ伝って私の膝に落ちて来た。




彷徨は一言だけしか喋らなかった。


震えた声で「かあさん・・・」とだけ言い、右袖で涙をぬぐう。




私の知っている彷徨は、彷徨のお母さんを亡くしても強い彷徨だった。



だけど、最初からあんな強い彷徨は居なかったんだよね・・・。


大丈夫、彷徨はこれから段々と強くなるからね。



私は、頭を撫でてあげようとするが、触れる事無く彷徨をすり抜けてしまう。


それでも、私は止めようとはしない。


彷徨が落ち着くまでずっと、触れない彷徨をなで続ける。





私の心の中では、こんな私がもどかしく思う。


彷徨が必要としているのに、何も出来ない。あの時と同じ。


でも、こんな状態だからこそ思ってしまう。


ああ、やっぱり。


彷徨には幸せになって貰いたい。なって欲しい。


私が隣に居ちゃ駄目だね・・・と。


彷徨が悲しんでいる時・落ち込んでいる時・隣に誰か居て貰わないと・・・。



私じゃ駄目なんだよね・・・。


そう考える様になってしまっている。


必要な時に私の存在が居ないのが辛い。







はぁ・・・。


もうちょっとこの彷徨の傍に居たかったんだけどな。


ため息を付く私の後ろで、小さな時空の歪が出来ていた。


どうする?入らないの?と言っているように、ゆらゆらと揺れている。


ねえ?次はどんな所に連れて行ってくれるの?



どうせだったら、彷徨が私に惚れちゃった場面の時間とか無いの?


過去の私が居なくちゃ、今の私が乗り移って未来の世界を変えられないでしょ?





そこに、公園の入り口に一つ人影が現れ「彷徨」と呼ぶ声が聞こえた。


ほら、彷徨にも迎えが来たから早く帰ろうね。


彷徨は涙の雫をゴシゴシと拭ってから、その影に小走りで向かって行く。




私はまだ後ろでゆらゆらと揺れている時空の歪に向かってこう言った。



ありがとう、彷徨の知らない姿も見れてなんだか得しちゃった。


次も御願いね。

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