作:しーば
暗闇に吸い込まれた未夢。その先にあった世界は?
暗闇の遠くに見えた一筋の光りが一瞬にして私の場所を通り越し、暗闇から光りの世界になった。
私の場所を中心にして真っ白な空間に色が付き始める。
つま先から伸びる色は、灰色。左右には土の色。後ろには桜色。
広がった色が上に登り、下に降り、周りに景色が出来上がった。
その景色が完成した時、私はゆっくりと後ろを振り返る。
遠くになるにつれて、桜色が平行して見る視線から下の方に斜めに降りていた。
桜色の正体は、下へと続く石段の両脇にある桜の木だった。
満開を過ぎた花が風に押されて揺れている、押された力に耐えられない物はそのまま風の流れに乗って飛んでいく。
私は石段から桜を見下ろしていた。
あれ?ここって石段の最上部だよね?
闇に飲まれる前は縁側に彷徨と居たのに・・・それに季節も変わってる?
さっきまでは初雪が降った12月、だけど今は桜が満開な季節。
何が起こったのかな?
石段から境内に入り本堂を見てみる。
何も変わった所は無いよね?
首をかしげながら、家屋の方へ進み玄関を通り越して縁側まで移動した。
ここに来る前に彷徨が居た場所を見る。
う〜ん、いつもと変わらない様な気がするけど、何かが違うんだよね。
視線の先にあった柱を見た時、それに気づいた。
えっと、ここには彷徨が小さい頃、背の高さを彫った傷があったはず。
なのに、今私が見ている柱にはその傷が無い。
それに、床や壁がいつもより綺麗に見える。
もしかして、私がさっきまで居た時と時間が違うのかな?
そうだ、カレンダー!
見に行けば今がいつなのかが分るかもしれない。
私は、縁側廊下を通って自分の部屋の前まで来た。
障子を開けようと手を伸ばすが、その手は何にも触れる事が無くすり抜けた。
ここでも私は幽霊なんだね。
私は障子を開ける事を諦めて、そののま通り抜ける事にした。
あっ・・・。
部屋の真ん中に小さな布団があり、その上には小さいシーツを一枚だけかけた赤ちゃんが寝ていた。
私は、その子にゆっくり近づいて寝顔を覗き込んだ。
この子は・・・
ワンニャーが居た時に、彷徨が子供ビスケットを食べて赤ちゃんになった時があったけど
その時の彷徨と瓜二つ・・・
なら・・・彷徨って事だよね?
じゃあ、赤ちゃんの彷徨が寝ているから・・・過去?
暗闇が時空の歪で、私が吸い込まれて過去の西遠寺来た。
そうなれば、つじつまが合うけど・・・まさか幽霊になっても吸い込まれるなんて・・・。
時空の歪に吸い込まれる前の彷徨大丈夫かな?
あんなに熱あるのに縁側に倒れたまま・・・どうしよう・・・。
私は赤ちゃん彷徨を見ながら悩んだ。
時空の歪に巻き込まれたから、自由に戻れるって訳じゃないし・・・。
もし、元の世界に戻ったとしても死んじゃった後の私には何もできないでしょ・・・。
トタトタと廊下から何かが近づいて来る音が聞こえた。
その音が私の居る部屋の襖の向こう側で止まる。
誰かな?
しばらくしてから、ガタガタと音を立てながら襖がちょっとだけ開いた。
その小さな隙間に体を押し込みながら、ここに居る彷徨と同じぐらいの赤ちゃんが入ってきた。
どうして彷徨の他に赤ちゃんが居るの?
その子はハイハイをしながら彷徨の所まで来て、寝ている彷徨をじーっと見ている
あれ?なんだか何処かで見たような・・・?
入ってきた赤ちゃんの真正面に座って、目をしかめながら顔立ちを凝視した。
やっぱり、赤ちゃんの時の私だ・・・。
小さい頃にパパに見せて貰ってた、赤ちゃんの時の私の写真。
その写真に写っていた赤ちゃんが、今の私の目の前に居る。
なんだか、不思議な気分・・・だけど、ちょっと嬉しいかな。
赤ちゃんの頃から、私は彷徨を知っていたんだね。
えへへ、記憶には残ってなかったから、なんだか得しちゃった。
赤ちゃんの私は、寝ている彷徨の周りをうろうろしながら、彷徨を気にしていた。
はぁ・・・私ってこの時から彷徨の事好きだったとか・・・?
あのね、この彷徨はね
ちょっと意地悪な所もあるけど、本当はとっても優しい男の子だからね・・・。
その事にいつか気づく時がくるけど・・・、だけど・・・。
聞こえるはずの無い、私の声。
私は赤ちゃんの私に話しかけていた。
だけど、この子が今の私みたいになったら・・・そう考えてしまい、それ以上出て来る言葉は無かった。
私が考えている間に、赤ちゃんの私が寝ている彷徨と向かい合うように横になっていた。
あらら、そのまま寝ちゃってるのかな?
かわいいな。
隣に何かがやってきた気配に気づいたのか、寝ている彷徨が目を覚ました。
おっ、彷徨が起きた。
赤ちゃんの私を見たらどんな反応するのかな?
彷徨が、赤ちゃんの私を不思議そうに見ている。
手を伸ばしてたりして可愛い彷徨。
あら、またすぐ寝ちゃった。彷徨の反応をもうちょっと見たかったな。
「あら?」
私の背中から、女の人の声が聞こえた。
「未夢ちゃん、居ないと思ったら彷徨の所に居たのね」
振り返ると、彷徨と同じ瞳の色をした髪の長い人が居た。
彷徨のお母さん・・・。
私は、彷徨のアルバムで、彷徨のお母さんの写真を見たことがあったのですぐに分った。
その人は、彷徨だけに掛かっていたシーツを手に取り、赤ちゃんの私にも掛けた。
一つのシーツの中に彷徨と赤ちゃんの私が眠る光景。
「良かったわね、彷徨。未夢ちゃんと一緒で」
私は、その言葉を聞いてこの部屋から出る事にした。
部屋を出る時、後ろから彷徨のお母さんのこの言葉だけを聞いた。
「将来、大きくなったら未夢ちゃんはとっても美人になるから、彷徨頑張ってね」
はぁ・・・。
嬉しいけど、本当は凄く辛いよ・・・。
私は西遠寺の石段の一番上に座って、夕方になって来た空をぼーっと眺めていた。
死んじゃって、幽霊になって、過去に来て、赤ちゃんの頃の彷徨を見て・・・。
どうしてこんな所に居るんだろう。
私、何をすれば良いのかな?
いつ消えるのかな?それともこのまま?
やっぱり、まだ何かあるみたいだね。
突如目の前に現れた、時空の歪。
私は迷うことなく、前に踏み出して、その中に進んで行った。
続きは一応創り中です。