全ては黄昏となりて外伝 (別エンド)

未夢

作:しーば

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全ては黄昏となりて外伝の「彷徨」の続きです。

全て未夢視線でお送りします。


今の私は2人居る。
一人は、今存在している中学生の私。

もう一人が、未来から来た大人の私。


最初会った時はその辺りに居る幽霊だったと思ってた、未来から来た私だったんだって。
未来の私って、すぐ死んじゃうんだって・・・。


私が中学2年生で彷徨と西遠寺に居た時、彼女は一時期姿を消した事が有った。
西遠寺の幽霊に対する結界が強くなって、西遠寺に近寄れなくなったって。


その後、パパとママが日本に帰って来て、私は西遠寺から実家に戻る事になった。


その時何彼女も私の実家について来て、
今、私の目の前でぷかぷかと浮いて寝てる。


最初会った時は、彼女が傍に居た事に気付けなかった。
でも、私と長く一緒に居て、私に乗り移った事が原因で、彼女の姿を見れるようになった。

彼女の姿は、今の私と同じぐらいの年齢で、容姿は鏡を見てるぐらいそっくり。
だけど、彼女の方が大人びた所があって、ちょっと悔しい。


そんな彼女。
私の部屋の真ん中でふわふわ浮きながら寝てる。

浮いていてもしっかり仰向けになってるし、。
空中に板が在るかのように、髪まで綺麗に横になってる。

不思議だよね〜。

彼女曰く、
『やろうと思えば、人や物に触れることが出来るし話し掛けたりもできるけど、凄く眠くなるの』



実は、私もその眠気をつい最近知る事ができた。


彼女が私の身体に乗り移り、身体を使うことが出来るのと同じで
私が彼女に身体を預けて、身体の外に出る事も出来る。

もちろん、外に出ずに一つの身体を2人で共有して使うこともできるし、美味しいお菓子を食べる時は必ず2人一緒に食べる協定もできた。

身体を抜け出すと、何処でも行ける。
それが楽しくて長い間身体から離れた時があったんだけど、その後凄く眠くなって
私は3日ぐらい眠り続けた事があったらしい。

大丈夫、私が寝ている間は彼女に身体を任せてある。


代わりに学校に行って貰った時、意外な事もあった。

彼女はとても頭が良い。
大人だからって理由だけでは無く、普通に頭が良かった。

信じられない、本当に未来の私なのかな?と今でも疑ってる。


今は、私と恋愛話をする事もあったり、友達のような存在だね。

ある日、身体を2人で共有していた時。

何処からか、私の声が聞こえる事があった。
それが段々とハッキリ聞こえるようになって、・・・この人・・・もしかして私なのかな?
と思うようになった。


彼女は、私には『幽霊です』としか言って無い。
名前なんて教えて貰った事も無い。


でもね、考えてる事が私に筒抜けだから、すぐに分かっちゃった。




今の私は彼女のおかげで何処にでも行ける様になった。
部屋の天井をすり抜け、家の屋根をすり抜け、私の家が小さくなるまで空に登れるし。
時間をかければどんな遠い所にも行ける。

実は彼女に内緒で彷徨の所に行く事もある。
私が伝えたかった彷徨への気持ちを、ずっと心の中にしまったままだからね。


私が彼女に身体を預ける時は、まず彼女を買収する為の賄賂が必要なの。

町で1番有名なタルト屋さんの1番人気の白いちごタルトを買って来て。
目を輝かせている彼女に「一緒に食べましょ」と言って、2人で身体を共有して1つの白いちごタルトを食べる。

食べてる途中で、「後お願いします」と言って私が身体から出てしまう。


不思議な事に、身体はカラッポには出来なくて、必ずどちらかが身体に入っていないと駄目みたい。
私が身体に戻るまで、彼女は私の身体から離れる事は出来ず、仕方なく?過ごしている。


ちょっと目を離すと、お菓子ばかり食べてしまう彼女。
う〜ん、体重大丈夫かな?






私は家の屋根が周りと見分けが付かないぐらい高く空に登ってから、彷徨が居る方向を目指して、空の中をぐんぐんと飛んで行く。

初めての頃は、飛んでる飛行機にビックリしたり、渡り鳥を追いかけていたら陸地が見えない海上だったり、方向が判らなくなって迷ったりもした。


だけど、曇りや雨の日でも、雲を突き抜けるぐらい空に登れば、蒼い空が見れる。


今日は彷徨の様子を見に行く事に決めていた。
クラスメイトだった彩ちゃんやクリスちゃん達とは何度か会った事はあるけど、彷徨とは会ってない・・・。

久しぶりだけど、ちゃんと覚えてるかな?
会った瞬間「誰だお前?」とか言われたりしたらどうしよう。?
って、彷徨は今の私の姿見えないんだっけ。


西遠寺に到着したのが夕方、夏という事も有って6時過ぎだけどまだまだ明るい。
少し緊張しながら彷徨の姿を探す。

一応、玄関から入ろう・・・。
「おじゃましま・・・」言い終りそうになるこの言葉を止めて、私は言い直した。

「ただいま」

誰かの返事を期待して言った訳じゃないけど、こっちの言葉の方が良いと思った。
私は、そのまま彷徨の部屋の前まで行く。

「彷徨居る?」

そーっと、彷徨の部屋の襖を通り過ぎて中を伺う。

部屋の中には誰も居なかった。
その後、西遠寺の何処を探しても彷徨が居ない。

あらためて玄関に戻り、彷徨の靴を探してみる。
彷徨が通学時に使っていた靴が何処にも無い。


うーん、やっぱり彷徨まだ帰ってきてなかったか・・・。
よし、学校まで行こう〜!




校舎の入り口に来た。
ちょっと前までは毎日通っていた場所。
だけど、長い間見ていないと記憶の中の雰囲気とはちょっと違う。



私はわざと下駄箱の場所から、地面を歩いて校舎の中を移動する。
一歩一歩歩き、階段もしっかりと一段一段踏みながら3年生の教室に向かう。
私にとっては初めての3年生の階。


あれ?彷徨って何組だったっけ?
そういえば聞いてなかった・・・。


私は、3年生の教室を1組から順番に回って行く。
3組に入ろうとした時に、隣の4組から女の子の話し声が聞こえてきた。



話の内容は、何組の女の子が何組の男の子が好きだとか、誰が恋人になったとかの話題だった。。
知っている子の話も出てきたのを境に、2人の声がもっと聞こえるようにと、2人の居る教室に壁をすり抜けながら移動した。

次は誰なのかな?と期待を膨らませて2人の間でほお杖を突くような格好で寝そべった。
時たま、膝から下の足を交互に上げたり下げたりしながら聞いていた。


「ねぇ、知ってる?未夢ちゃんに初めての恋人がでたんだって。」
「ええー!本当に!未夢ちゃん最近急に大人っぽくなって噂があったよね。それが原因だったの?」

えっ!?私に恋人が出来たって?
ウソ、ウソそんなの嘘だよ〜。
あれ・・・でも大人っぽくなったって事は、もしかして・・・。
私じゃなくて・・・。


「うん、でも・・・私てっきり、未夢ちゃんの恋人って西遠寺君だと思ってたのに」
「・・・そうだよね〜、どうしたんだろうね」

あれ?
今何か人の気配がしたような?


私は、立ち上がってその気配がした入り口の扉に向かう。
扉を出た所で、扉に隠れるように話を聞いている彷徨を見つけた。

顔を下に俯かせている為、彷徨の表情は見えない。
私には恋人なんて居る訳が無い・・・だって、今私の目の前に居る彷徨をずっと想い続けているのだから。


だから、この瞬間が私にとって衝撃的な出来事だった。
この場に身体を持った私が居たら、言葉を伝える事はできるけど、今の私はどうする事も出来ない。


ねぇ、彷徨?・・・今の嘘だよ。


今の私じゃ彷徨に触れる事は出来ないけど、彷徨に伝えたくて、恐る恐る彷徨の腕を掴もうとした。
でも、彷徨は私の手から逃げるように、隣の教室に行ってしまった。
2人の話が終わり教室を出ようとしたのに彷徨が気付いたからだった。


彷徨を追いかけて隣の教室に入る。
彷徨は廊下から見えない位置で、黒板の方を眺めながら立っていた。



私は彷徨のこんな顔は初めて見た。
落ち込んでいるような、悲しんでいるような、寂しいような表情。

私には見せた事の無い表情。

「彷徨」


私の声は届かない、だけど少しだけ宙に浮きながら彷徨に近づく。
彷徨と鼻と鼻が触れそうなぐらい真正面に立った。

どうして、そんな顔をするの?


どうして、今の彷徨がこんな風になるの?


・・・もう終わりにしたはずなのに・・・。



私が西遠寺から、私の実家に引っ越す数日前、私は彷徨から告白をされた。
私と言っても、その時彷徨が告白した相手は、未来の私・・・。


その時、私は彼女に身体を預けていた。
彼女から「どうしてもやりたい事がある」とお願いされて。



未来から来た彼女は、彷徨が告白するタイミングを知っていた。
私の方は、彼女の答えが気になったので、気づかれない様に覗き見してたの。



彼女の答えは「好き・・・じゃない」だった。






未来の私は、生きていた世界で彷徨と幸せに暮らし続ける事が出来なかった。
この世界なら、最初からやり直せるチャンスはあると私は思っていた。
今ここで、彷徨からの告白に素直な返事をして、別な未来を作っていけば、別れの無い未来が来るだろうと予想していた。


でもね、現実はそう上手くはいかなかった。


彼女が彷徨と死別してしまう原因を避ければ大丈夫だろうと・・・
彼女は過去を変える事に専念した。


時空の歪を使って何度とそのタイミングを防ごうと努力したが、結局失敗。
その度に、彷徨の悲しむ姿を何度も見てきた彼女。


彷徨を好きだから・愛しているから。



だからこそ、彷徨の告白に答えてはならないと決めていた。
彷徨には私の事を「キライ」になってもらい、私と関わりの無い未来を過ごせば、彷徨は悲しむ事は無い。

彷徨からの告白の返事は彼女に任せようと、心に決めていた。


だって


未来の私は


「西遠寺未夢」


なんだもん


今の私がかなうはずないよ・・・。



でも・・・、私にだって彷徨を想う気持ちはあるよ。



私は彷徨の頭を胸で包み込むような形で、彷徨を抱きしめた。
触れる事は出来ないけど、これぐらいの事はさせて、ねっ。

良いでしょ・・・私にとって、最後の・・・・・・。







窓の外では黒い雲が発生し、校舎の窓に大きな雨粒を落とし始めていた。


もうちょっと続きます。


最近WEB拍手を頂きました、ありがとうございます。8月26日修正行ないました。

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