ちいさな診療所。より

ねこ〜学校編

作:ちーこ

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高い空にはウロコ雲が浮かぶようになった今日この頃。西遠寺には変わらぬ朝が訪れたようだった。
「おはよー。ルゥくん、わんにゃー。あれ、彷徨は?」
「まだお会いしていませんが…。」
おいしそうな目玉焼きをのせた皿運びながらわんにゃーが答える。
「…はよ」
気だるげに彷徨が食卓につく。
「おはよー。どうしたの?なんか顔色悪いよ?」
「ちょっと風邪気味。熱はないんだけどなんかだるくてさ。」
ぴょんと彷徨の膝にみゅうが飛び乗った。
「にゃぁぁぁん」
彷徨に身体を擦り付ける。
「どうした?」
きょとんとした目で見上げてくる。
「きっと彷徨のことが心配なんじゃない?よかったね〜彷徨、かわいいみゅうちゃんに心配されて。」
「そっか。ありがとな、みゅう」
のどもとを撫でると気持ちよさそうにごろごろとのどを鳴らす。
「だいじょぶ?学校休む?」
「今日は委員会だろ?休むわけにいかねーじゃん。一応薬飲んでく。」
みゅうを膝からおろすと薬箱から風邪薬を取り出した。
「もう残りないな。今日未夢買い物だよな?ついでに買ってきて。」
「うん。わかった。」


…………ねむい。
先生の声が呪文か子守り歌みたいにオレの意識を引っ張っていく。
………………ねむい。
寝ちゃダメだとは思うけどすでに身体は理性の支配下にはない。あの薬のせいだ…。
…………………………………………………むり…げんかい…



あっ…かなた寝てる…。そういえばあの薬眠くなるんだよね。
やっぱり今日休ませた方がよかったかな。でも、自分で行くって言ってたんだし。
「じゃぁ次の問題を光月さん。」
…水野先生…いつもいつも私がボーッとしてる時に限って当てないで下さい。心臓に悪い上にわからないです…。
「やぁっぱり聞いてなかったのね。確かに西遠寺君が授業中寝てるのは珍しいけど、ボーッとするのはいけないわ。」
すみません…。だって、気にならないわけないよ。
だって…彷徨が…彷徨が寝てるんだもん。
「ほら。34ページの問6。黒板に解いて」
「そーですわね。『彷徨が寝てる。最近疲れてたのかしら。疲れてるならあーんなことやこーんなことなんかしなきゃいいのに』なーんてなーんて考えは全てお見通しですわよ。」 ……クリスちゃん?あの…あーんなこともこーんなことも身に覚えはないです…。
「お風呂上りの未夢ちゃんに後ろから抱きつく西遠寺君。『…未夢、部屋行かないか?』『えっ…でも。』西遠寺君はためらう未夢ちゃんを抱きかかえると部屋へ入り戸を閉める。そして…」
ちょっと待ってよ。私は一体なにされたの?っていうかクリスちゃん?
「真夜中の部屋から漏れる甘い声『未夢』『彷徨』」
ちょっとみんなそこで息を飲まない!!
「はぁい、そこまで!!まったく最近の中学生はそんなことまでやってるのね。はい光月さん問6黒板に」
…先生否定はしてくれないんですね…。
私はとぼとぼと黒板まで歩き出す。好奇心とか同情の視線にさらされながら。
ちょうど私が問題を解き終わった時タイミングよくチャイムがなった。
「はいじゃぁ、これまで。」

「未夢ちゃん。大変だったね…。」
真っ先に綾ちゃんが声をかけてくれた。
「しかしなんだって未夢も西遠寺君の寝顔なんか見てたわけ?家で見飽きるぐらい見てるんじゃないの?」
ななみちゃん…それ誤解かも…。
「こーづきさーん。彷徨が光月さんのこと呼んでるんだけど。」
彷徨の脇にいる三太くんが私を呼んだ。…彷徨寝てるじゃん。あの騒動の中、起きない所はさすがだと思う…ある意味。
「なんで?」
「いや、オレはよくわかんないけど寝言?」
一瞬教室が静かになった後、嬌声って言うのかなぁ、なんかものすごい声が響いた。彷徨ぁ…無意識に煽んないで欲しいなぁ。いやうれしいけどね。
「ねぇ、光月さんてば!!」
三太くんがしつこいので彷徨の方に行ってみた。ちょっといいわけだったりして。
「彷徨。どうしたの?」
ちょっと寝顔が赤い感じもする。やっぱ熱でてるのかなぁ。
「彷徨っ起きて…じゃぁちょっとゴメンネ。」
少し頬とおでこに触る。やっぱり少し熱い。
「…みゆ?」
寝起きの顔も結構好きだったりするからもう重症だね。私も。



…突然だった。身体をぎゅっと…



「よかった。いなくなったかと思った…。」
彷徨の吐息が耳にかかって私の心臓は壊れそうなぐらい動いてる。

「…ほんとよかった。」
彷徨の重さが体に伝わってくる。

「…み…ゅぅ」

私は思わず彷徨を突き放していた。
「彷徨のバカ…」
教室から出た途端、涙があふれてきた。



なにが起きたのか全然わからなかった。
気が付いたら未夢が泣きそうになりながら走っていった。
よくわからないまま、オレも教室から飛び出していた。



わかってたけど…
わかってたけどさ。あんなふうに言われたら立ち直れないよ。
いくら寝ぼけてるからって
…なんで彷徨なんか好きになっちゃったんだろ。
あんなやつ
イジワルで、オレ様で、何でも出来ちゃって…時々やさしくて…かっこよくて…
なんで好きになっちゃったんだろう。



「未夢!!」
校舎中を走り回って屋上でやっと未夢を見つけた。
息もあがって汗かいてて、余裕がないのが自分でもわかる。
「…未夢…オレ」
「来ないでよ!!来ないでよ!!…そんな思わせぶりなことしないでよ。」
…未夢が…泣いてる…おれ…なに…したんだ…
あの時は夢をみてたんだ。
置いていかれる夢
暗闇に…ひとりで…
…怖かった…
そのとき光が見えたんだ
やわらかくて
あったかい…
目の前が真っ白になった



「ちょっと…か…なた…彷徨っ…どうしたの?ねぇ」
突然彷徨が膝をついた。
「ねぇ…彷徨ってば」
駆け寄って彷徨の顔を覗き込む。
彷徨が私に腕をまわした。
「オレさ、目さめたとき…お前が目の前にいて…ほんとほっとした。」
…彷徨?「目の前にお前がいてほんとよかった。」
…そんなこと言うと、私…期待しちゃうよ?
彷徨が腕に力をこめる。
彷徨の体温が服越しに伝わってくる。…そう服越しに。
…なのに…なんでこんなに熱いのよ!!
「彷徨、熱あるでしょ。」
「ないわけないじゃん。お前探して校舎中走り回ったもん。」
…それは私が悪いけど…。
「…ごめん…。」
「オレ帰るけど?」
「どこに?」
「家。お前他に帰るとこあるわけ?」
「なら、私も帰る。」
だって彷徨ひとりで返すの心配じゃない。
…いいわけです。ただ一緒にいたいだけ。




彷徨の部屋に入るとさっそくみゅうが彷徨の隣を陣取っていた。
こんなことにまで嫉妬するなんて私人間小さいなぁ。
彷徨は…寝てる。さっき飲ませた解熱剤が効いてきたみたい。
「みゅう」
みゅうを抱き上げる。
「ねぇ…ちょっと出ててくれない。」
…私イジワルかも…みゅうが私の顔を見上げてくる。
「…好きな人の看病ぐらい…やりたいじゃない…。」
みゅうはぴょんと私の腕の中から飛び降りると部屋の外へ出て行った。
わかってくれたのかな




あのね、みゆかわいいいの。
みゆがね、「すきなひと」っていったときのかおね
とってもかわいいの
ねぇ、るぅきいてる?ねぇるぅってば!!
みゆいっぱいうれしそうなの。
それでねかなたねむってるのにみゆのこえきくとかおやさしくなるの
かなたはみゆにすきっていったのかな
みゆはかなたにすきっていったのかな
たぶんいってない…きがする
だってあのふたりだもん
だったらなんで…?
あたしにはまだよくわかんないや



やっぱりややこしい名前を付けた彷徨がわるい。…きっと。
えっと…途中で自分でも何かいてるんだかよくわかんなくなりました(爆)
はい。風邪ネタです。(一応)やっぱり好きなんだよなぁ。
そしてクリスちゃん…ごめんなさい何であんなことになったんだろうねぇ(遠い目)
ねこシリーズこれで終わりにしようかと思ってたはずなのに…
まだ続きそうです。(苦笑)
(発出:2001年)

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