作:ちーこ
「なぁなぁ、赤と青どっちがいい?」
「はぁ?」
「だから、赤と青。」
「……んじゃぁ…青」
「よし、青な。はいこれ。あっ、今は開けちゃダメだぞ。開けるのは明日会場に行ってから。」
「そろそろ行くの?」
「うん。」
「そっか…がんばれ!けんとーをいのる」
「ん。じゃぁ行ってくる。」
「あっそうだ。これ持ってって。」
「なに?」
「内緒。会場についたら開けてもいいよ。」
受験票と机の上の番号を見比べ、彷徨は席についた。
余裕を持って出てきたため、まだ試験が始まるのには時間がある。
重い空気が肌に刺さるような気がする。
彷徨は今朝送り出してくれた恋人の笑顔を思い浮かべた。
ほぅっと息が漏れて自分も緊張していたことに気がつく。
何もしないでいるから緊張するのかもしれない。
彷徨は参考書でも出そうとかばんに手を入れた。
その指の先に触れたのは参考書とは違う紙の感覚。
未夢と三太から差し出された紙袋のことが頭をよぎる。
ふたりとも試験会場で開けろと言っていた。
触れたほうの紙袋を取り出す。
赤のチェックの紙袋は朝、未夢から渡されたものだ。
彷徨はテープで止められた袋の口をゆっくり開けた。
チョコレート菓子、スナック菓子、ガム、柑橘みかんよりは大きいから、いよかんだろうか、それから鉛筆。
きちんと削ってキャップがしてある。
これらの関連性はなんであろう、と彷徨は添えられた手紙に気がついた。
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親愛なる彷徨さんへ
これを見てるって事は始まる直前か…休み時間なのかな。
大丈夫?緊張してない?
はい、大きく深呼吸。
もう一度深呼吸。
どう?落ち着いた?
大丈夫。君なら大丈夫。
はい、気合いれてがんばりましょう!
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深呼吸をしてみる。
大きくもう一度。
それだけで落ち着いたような気がするから不思議だ。
手紙は2枚につづられている。
彷徨は2枚目に目を移した。
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ついしん。
袋の中にわたしが見つけた『ゲンカツギ』グッズなり。
さて、どんなゲンをかついでいるでしょう。
…ごめん、そんなこと考えてる時間ないよね…。
KIT KAT→きっと勝つと!
カール→うかーる
キシリートールガム→きっちり通る
いよかん→いい予感v
んで、この鉛筆は五角なので『ごうかく』なのだ。
お弁当にはとんかつ入ってます。
応援してるぞ。
がんばれ!!
愛をこめて 未夢より。
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これを書いている未夢が容易に想像できて彷徨の口元が綻んだ。
三太からも紙袋を貰ったことを思い出して彷徨はもうひとつの紙袋をかばんから出した。
茶色の紙袋は未夢のものよりも一回り小さい。
中を見てみるとペットボトルが1本とメモ用紙が一枚入っていた。
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いろいろ考えたんだけど、
やっぱ彷徨に一番効くのはこれだろ。
ホンモノ持ってくわけにもいかないだろーから
これで我慢しなさい。
…なんちゃって。
がんばってこいよー。
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中に入っていたのは青いペットボトル、ミウ。
ただし、ロゴのところに黒のサインペンで『Y』が付け足されている。
あのやろぉ、小さく彷徨が呟いた。
しかし言葉とは裏腹にその顔は笑っている。
これを渡す時ににやりと笑った親友はこんなことを考えていたのかと思ったらふつふつと笑いがこみ上げてきた。
もう緊張はしていない。
だからといって完全に力が抜けてしまったわけでもない。
彷徨はペットボトルを開けた。
一口ふくむ。
時計を見る。
まもなくだ。
赤い箱のチョコレートを手にとった。
パキッと折って一本分だけくわえる。
大きな封筒を持った男が歩いて来る。
あまい味。
飲み込む。
はじまる。
袋の中から五角の鉛筆を取り出す。
程良い緊張感に体が包まれている。
男が封筒を開けて準備をはじめる。
配られる問題。
響く時計の音。
鋭くなる空気。
チャイムの音が鳴り響く。
ぐっと鉛筆を握り締める。
解答用紙に名前を書いた。
またまたお久しぶりです。
忙しいわけではないはずなのに…なんだか忙しい。
国公立の前期試験が始まったのでそれにちなんで。
ちーこ的設定では未夢ちゃんは私立に推薦で決まってる感じで。
文章書くのちょっと久しぶりなんですよ。
だめですね。書き方が全然わからないししっくりこないし。
バレンタイン前は…書こうと思ったんだけど…やっぱりダメで。
とりあえずやりたかったMIUネタもできたし。(笑)
半年ぐらい考えてたんですよ…。
誰に『Y』を入れてもらおうかって。
彷徨だとなんか普通だし、未夢だとやりづらいしって。
しかし、最近の受験生はいろいろ考えるものですね。
ちーこ的願掛けは栗を食べることなんですが。
なんか「カチグリ」?
よくわからないけどウチではそうやって試験の前とか必ず栗食べてます。
今のところ結構効いてる模様。
(初出:2004.02)