ちいさな診療所。より

あけましておめでとうございます

作:ちーこ

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ご〜ん



用意していた108枚の整理券も意外と早くなくなってしまった。
そして鐘楼の前に並んでいた長蛇の列も短くなって残りは指で数えられる程度になった。
そして、今年もあとわずか。



ご〜ん。



わたしはというと、甘酒係としてなべの見張り。
卓上コンロで温めているやわらかい香の甘酒は彷徨のお手製だ。
…わたしには作らせてくれなかった…作れないけど。



ご〜ん。



こんな大晦日を迎えるなんて、考えたことなかったなぁ。
こたつの中で、紅白見て、行く年来る年見て、とか。
アクティブにいけば…それこそ鐘をつきに行くとかね。



ご〜ん。



それが今年は受け入れる側ですよ。
自分でもちゃんと鐘ついたことないのに。
不思議なこともあるもんですなぁ〜。



ご〜ん。



鐘をつき終わってきた人に甘酒を配る。
なべの中身も大分減ってきた。
…わたしが飲む分あるかな…。



ご〜ん。



吐き出した息が白い。
火の目の前にいるせいでそんなに寒さは感じないけど。
でも…足はちょっと冷えてきた…かな。



ご〜ん。



彷徨と鐘をついた人が鐘楼から降りてくる。
今のが最後の鐘だったらしい。
こっちへ歩いてきた。



「これ、どーぞ。」



甘酒を渡して彷徨と見送る。
もう二杯甘酒を紙コップよそって彷徨に渡した。
彷徨は受け取ってくいっと持ち上げた。



「乾杯。甘酒だけど。」



鐘の音も止んで、人気もなくなったせいであたりはとても静かだ。
甘酒を一口飲む。
じんわりと熱が身体に染み込んでいく。



「手伝わせて、悪かったな。ホントなら親父が帰ってくるはずだったんだけど、連絡つかなくて…。」



パパもママも仕事でいない。
おじさんも修行中でいない。
ふたりだけの年越し。



「他にすることもないんだし。いよ。気にしないで。こういうの嫌いじゃないし。」
「そっか。」
「そろそろ12時?」



彷徨が腕時計を見た。



「ナイス タイミング!あと30秒。」
「おぉ…。今年ももう終わりだねぇ…。」
「今年もいろいろあったな…。」



もう一口甘酒を飲む。



「はい、10・9・8・7」
「「6・5・4・3・2・1・0!」」
「「あけましておめでとうございます。」」



新しい一年が始まった。



「あっ…また…雪。」
「今年は結構振るなぁ…また雪かきか…。」
「今年の初雪だよ。」



新しい雪を捕まえようと思い切り上に手を伸ばす。



「…初雪はシーズンごとじゃねーの?」
「だから、『今年』の初雪なの。」
「あっそう。」



手のひらに冷たい感触。



「年の瀬に〜 鐘がなるなり〜 西遠寺〜」
「もう年明けたじゃん。それに柿食えば〜だろ、それだと。」
「う〜ん。 年明けに〜 雪が振るなり〜 西遠寺〜」



彷徨が笑った。



「センスねーの。」
「明けました〜 今年もよろしく〜 お願いね〜」
「こちらこそ どうぞよろしく 頼みます。」



挑発するようにこっちを見ている。



「来年も 一緒にいたいよ その先も」
「…………………お前なぁ…突然そういうことゆーな。」
「えへへ。」



自分でも恥ずかしくなった。



「うち来たら、毎年大晦日はこれだぞ。」
「うん。」
「紅白なんか見れねーぞ。」



彷徨の顔もまだ赤い。



「いいよ。」
「あ〜もう…なんで……そろそろ家、入るぞ。」
「うん。」



せっかくのお正月だし、一年に一度ぐらいは素直になったっていいかなって思った。



心から
あふれるほどに
君が好き


大好きよ
いつも君だけ
想ってる



えと…お久しぶりです。
更新休止期間4ヶ月くらい…なので。
無事に年が明けました。





今回は…素直な未夢ちゃんで。
途中で気に入らなくて書き直して間に合うかどうか微妙なラインだったんですが…。
なんとかね。
短いしね。





これからも よろしくお願い いたします。(笑)

(初出:2004.01)

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