作:ちーこ
「これお礼。」
クリスマスから数日後、彷徨からちいさな箱を渡された。
「そんなにいいもんじゃないけど。」
彷徨はそう言い残して部屋へ戻ってしまった。
あけてみると中には細いシンプルな指輪が入っていた。
はめてみる。
右の薬指…左は将来にとっておきたい…なんてね。
サイズはぴったり。
似合う…かな?
未夢に…指輪を渡して逃げるように部屋に戻ってくると、緊張していた体から一気に力だ抜けてため息が出た。
未夢は喜んでくれるだろうか…
一人でいると、気がつけば指輪を眺めていたりする。
顔がにやけている。
「未夢ー行くぞ。」
彷徨の声が聞こえて、コートを羽織って部屋を出た。
今日は、年末年始の用意を買いに行くのだ。
彷徨を追いかけて外へ出る。
街にはクリスマスに降った雪がまだ残っていて、道は滑りやすい。
「お前トロいんだから気をつけろよ。」
そう言いながら彷徨は手をつないでくれた。
左手が…あったかい。
「これで未夢がコケたらオレもコケるんだからな。」
「わかってる。気をつけっきゃ!」
言ってるそばから滑って、ふたりでしりもちをついた。
「み〜ゆ〜」
「ごめんー。」
立ち上がってコートについた雪を払う。
「…ほら、行くぞ。」
怒ったように彷徨はそう言ってまた歩き出す。
それでもつないだ手は…離れないんだね。
「みかんも買ったし、もちも買ったし…何かほかに買わなきゃなんないものあったか?」
必要なものを思い出しながら指折り数える。
こんなことならメモを作ってくればよかった。
「ん〜ガラス拭く洗剤は?」
「買った買った。おせちの材料も買ったし…あっそば…」
「さっき、買ったよ〜。んじゃあ…終わり?」
「だな。帰るか。」
ふたりで買い物袋を両手にぶら下げて歩きだす。
「今度はこけるなよ。荷物がつぶれる。」
「わかってるもん!」
雪が降り始めた。
また積もるのだろうか…。
ふと誕生日の夜を思い出した。
今も首にまかれているマフラーがあたたかい。
「ただいまー。」
玄関に両手の荷物を置いた。
右手に目が止まる。
薬指。
ない。
彷徨が不思議そうにわたしを見ている。
「ちょっと出かけてくる!」
わたしはまた外へ飛び出した。
いつまであった?
わからない。
さっきとおった道をわたしはまたきょろきょろしながら歩き始めた。
なにがあったのだろう。
荷物を置いた瞬間、未夢の顔色がサァーッと変わった。
雪はどんどん強くなっていく。
さっきの未夢の表情が頭から離れない。
オレは脱ぎかけたコートを着なおして家を出た。
ない…ない…みつからない。
いつもは好きなはずの雪が今は邪魔で仕方がない。
どこ?どこにあるの?
涙がこぼれた。
そのひとしずくが堰を切ったかのように後から後からあふれてくる。
探さなきゃいけないのに。
そう思っても涙はとまらない。
視界がぼやけてうまく見えない。
「未夢!」
後ろから彷徨の声がした。
オレが呼び止めたとき、未夢は泣いていた。
一体なにがあったというのだろう…
どうしていいかわからなくて、とりあえずなだめようかと未夢の肩に手を置いた。
「彷徨…ごめん」
しゃくりあげながら何度もそう繰り返す。
最初はそれだけだったのが、だんだん言葉が増えていき、オレは理解した。
そこまで、あの指輪を大事にしてくれてるなんて…思っても見なかった。
あたりはもう暗くなり始めている。
「なぁ、話はわかったけどさ…今日はもうこんな時間だし…明日にしよう、な?」
「やだ…。」
未夢は涙をぬぐって言った。
「ばか、こんなとこにいたら風邪引くだろ。」
「ばかだもん。わたしばかだもん。」
また泣き始める。
「明日、オレも探すから。な。帰ろう?」
オレがそう言った瞬間、ばしんと胸に衝撃がきた。
未夢が俺の胸を両手でどんどんと殴っている。
コートの所為でさして痛みは感じないものの、未夢がこんなことをするのを初めて見た。
「ばかぁ…」
座り込んだ未夢に視線を合わせる。
「…あのさ…大事なのはモノじゃなくてキモチだろ?
指輪なんかさ…あってもなくても…オレの気持ちに…変わりはないわけでさ
…いや…こんなことオレが言うのもおかしいけど
…だから…つまり……
好きなんだよ…」
未夢がぽかんとした顔でオレを見ている。
「ほら…それに指輪は…もう少ししたら…あー…だからその…とりあえず帰ろう。」
なんだか自分でもよくわからない。
未夢に手を差し出す。
未夢がその手をつかんだ。
引っ張って立ち上がらせた時、凍っていた地面に足が滑った。
「ってぇ…」
またふたりでコケた。
立とうとして、手をついた地面に…ちいさな硬いものがあたった。
「あっ!」
取り出してみると…細い指輪。
なぜか笑いがこみ上げた。
ふたりでひとしきり笑った後、彷徨は厳かな顔をして…わたしの右の薬指に指輪をはめた。
「…左手は…とっとけよ。」
あっ…おんなじ事考えてる…。
なんとなく、自然に唇が重なった。
照れくさそうに彷徨が笑った。
まだ泣いた跡の残る顔で未夢も笑った。
ふたりでしっかりと手をつないで、歩き出す。
今夜もまた、雪だけがそれをやさしく包み込んでいた。
44444ヒットの春香さんからのリクエスト「指輪」「告白」「雪」がテーマでした。
最近リクをちゃんとこなせてない気がするんだよなぁ…
これは…見てわかるとおり時期外れ。
クリスマス企画に投稿したのの続きです。
ホントはお正月の前にUPしたかったんだけど…原稿が消えて…探してたらいつのまにか1月も終わりでした。
これを書き始めた頃から私もなんかまわりの環境がおかしくなっていっちゃって…
自分でもよくわかんなくなっちゃってます。
確実にいえるのは…これを私のお相手さんに見せたら怒るだろうなぁと…。
キスどころか…手をつなぐ…触られることすら嫌がっちゃいましたからね…。
だって怖かったんだもん。
一応ちゃんと謝ったんだけど…ね…かなり微妙な状態です。
ってか…なんか空気が重いんだもん。
こうやって小説書いてるときは…なんともないけど…
実際にこれをされたら相手殴って(蹴って…私足癖悪いんです)逃げますね…。
そういうこといってるから微妙なままなんだろうけど…。
やっぱり…憧れとかもありますよ…そりゃね…女の子だもん。
でもさ…自分的ボーダーっていうか…
この人とはここまでみたいなのがありましてね…。
あぁ…もういいや…
ん〜愚痴ってしまって申し訳ありません。
…最近こんなのばっかりだ…
精神を鍛えねば…
(初出:2003.03)