作:ちーこ
「彷徨!」
わたしが彷徨の部屋に駆け込んだとき彷徨の手にはケータイが握られていた。
「知ってる…。水野先生…だろ?」
わたしはこくりと頷いた。
□黒須三太
□3/28 9:07
□全員集合!
―――――――
もう知ってるかも知んないけど…。水野先生転勤だってさ。
やっぱ、相当お世話になった身としてはお別れ会…とまでは行かなくても…最後に挨拶ぐらいしたいなぁと、オレ的には思うわけですよ。
だから明日、四中離任式らしいしさ。集まれるやつ集まろうぜ!
…って言ってもオレも明日高校の離任式だから午後になるけど。ん〜1時に校門前。来れるやつは返信プリーズ。
風がだんだん暖かくなって街が華やいできた。
春がきた。
中学を卒業して…もう2年になる。
とりあえず無事進級もできて…ほっとしていた矢先。
新聞の人事一覧で、よくよく見知った名前を見つけた。
それで慌てて彷徨の部屋に駆け込んだのだ。
「行くだろ?」
「うん。」
ちょっと間。
わたしは…中学の頃を思い出していた。
たぶん彷徨も…同じだと思う。
先生に連れられて入った教室。
転校なんて初めてで…すごく不安だった。
「さぁ、ここがわたし達のクラスよ。みんな、あなたを待ってるわ。」
その言葉でほっとした。
「わたし達」の中にわたしもちゃんと入っているのが感じられたから。
「花束かなんか…買ってった方がいいかな…」
「そうだね…なんか実感わかないなぁ…」
「だよな…先生あってこその四中って感じだし。」
「だよね…」
ホントいろいろあったけど…いや…いろいろあったからかな…。
先生のこと…大好き…なんだよね。みんな。
彷徨だって…中学のときは…いろいろツッコミながらも結局全部一緒にいたし。
先生が担任じゃなかったら…どうなってたんだろう…なんて考えるとちょっとどきどきだったりする。
「久しぶり〜vv元気だった?」
わたし達が校門の前にはクラスのメンバーがほとんどそろっていた。
「綾ちゃん〜こっち戻ってきてたんだ〜。」
「ホントは明日戻ってくるつもりだったんだけどね。予定早めて来ちゃいました。」
「おっせーぞ、彷徨。ぎりぎりじゃん。」
「文句があるならこいつに言え…。出がけにばたばた始めたんだから。」
ちょんちょんとわたしをつつきながら彷徨が言う。
「しょうがないでしょ!服が決まんなかったんだから。」
「出かけるときぐらい前もって決めとけよな。こないだだって30分近く待たされただろ。」
「あのときは…」
「『ごめーん彷徨。なかなか服が決まらなくって…』『オレのために選んでくれてんだろ。』『もう、彷徨ってば』『似合ってんぞ。』そぉして手と手をつないでラブラブデェト。」
後ろから聞こえてきた…耳慣れた不吉な音…。
「定番のコースをぐるっと回って最後は夕日の見える公園で…『未夢』甘くささやく彷徨くん。それに目を閉じて答える未夢ちゃん。ふたりの唇が…ふれ…ふれふれふれふれふれふれふれ…ふしゅ〜…」
「はいはい、ノロケは後で聞いてやるから。彷徨も花束もってきたのか…。」
かくいう三太くんの手にも花束。
周りを見回すと結構みんな…持ってきてるみたい。
「まぁ…いっか。さぁてそろそろみんなそろったし。行きますか。」
久しぶりの校舎。
懐かしい感じがする。
トントン。
三太くんが職員室のドアをノックする。
「しっつれいしまーす。」
開いたドアからデスクに座っている水野先生が見えた。
「あら、みんなそろってどうしたの?」
こっちを振り向いた先生の笑顔は…全然変わっていなかった。
「どーしたのじゃないっすよ。先生が転勤されるって聞いたから、みんなこうやって集まったんですって。」
先生の目が広がった。
みんなが三太くんの言葉に頷いた。
「…なんか…ここじゃぁ話しづらいから…オレらが使ってた教室って今あいてないんすか?」
「…あいてるわよ…なんだか先生びっくりしちゃって。こんなにみんなが来てくれると思わなかったから…」
そう言って立ち上がると、水野先生は教室に向かって歩き始めた。
懐かしい教室の中で話しはじめると、いくらでも話すことは出てくる。
本当に…いろいろあったなぁ…。
「先生。これ、オレらから。」
彷徨が花束を差し出した。
「これ、わたし達から。」
次々にみんなが先生に贈り物を手渡していく。
「なんだか、先生お花屋さんが開けちゃいそうね。みんなありがとね。」
先生は両手で花束を抱えて言った。
「ホント、ありがとうね。みんなは、これからどんどん大人なって…社会で、世界で…宇宙で活躍していくことになるけど…どんな時でも「夢」は忘れないでね。かなうわけがないなんて思いながら何かをしてもうまくいきっこないじゃない。夢は絶対かなうんだ。そう思って…そう信じて…自分の道を進んで欲しいな。」
先生の目にうっすらと涙か浮かんだ。
「あんまり…先生っぽくない先生だったけど…みんな…やさしくしてくれてありがとね。」
「は〜い。ここであたし達から先生へ、愛を込めて。」
ななみちゃんがみんなの前に立った。
「指揮 天地ななみ 歌 みんな でおくります。『贈る言葉』」
くれなずむまちの ひかりとかげのなか
さりゆくあなたへ
おくることば
かなしみこらえて ほほえむよりも
なみだかれるまで なくほうがいい
ひとはかなしみが おおいほど
ひとにはやさしくなれるのだから
さよならだけでは さみしすぎるから
かざりもつけずに おくることば
涙がこぼれた。
声が出ない。
さみしいとか、かなしいとか、どの気持ちが一番強いのか、自分でもわからない。
ただ、体の中から涙が湧きあがって一気に流れ始めたような気がした。
先生も泣いていた。
「先生、本当に、ありがとうございました。」
「先生のこと忘れないからねっ」
「いつでも、先生はオレらの先生だからさ。」
「また、みんなでなんかしようぜ。」
「先生の生徒で、先生と過ごせて…本当によかったですわ。」
「せんせっ…ホントに…ありがとう…ございました。」
しゃっくりあげながら言ったわたしの頭に彷徨がぽんっと手を乗せた。
「ありがとう、みんな。本当にありがとう」
「泣かないでベィビィ。先生が笑顔じゃないと僕達まで悲しくなるじゃないか。」
「そうよね…。別れは出会いの始まり。次の学校でも、精一杯がんばります。」
先生はニッコリ笑った。
「先生も、みんなに出会えて本当によかったよ。ありがとうね」
別れは出会いの始まり。
ひとつひとつの出会いがわたしを少しずつ大人にしていく。
離れてしまうのは寂しいけれど、決して会えないわけじゃない。
それぞれ自分の道を進んでいくのだ。
どこで誰と交わるか、そんなの誰にもわからない。
だったらどうして、今が別れだと言えるのだろうか。
次に出会えるときには…もっと大人になれていたらいい。
もっと自信をもてたらいい。
もっと素敵になれたらいい。
また会う日までのお楽しみ。
春は出会いと別れの季節です。
去年は…卒業の話を書きました。
今年はちょっと大人になって…高校生です。
今年は…結構お世話になった先生が…転勤なされて…非常に寂しい限りです。
クラスの先生。嫌いだった物理の先生。そして中学のときの大好きだった先生。
クラスの先生は…授業でもHRでもお世話になりました。
一年間一緒にいて…得にすきってわけでもなかったけど…
いなくなると思ったら寂しくて…先生のお別れの言葉のときにちょっとうるっと来ちゃいました。
物理の先生は…わたしの授業態度にも問題あるんだろうけど…
多分お互いにニガテで…。
やっと最近なじんできたなと思ったらお別れです。
みんなと一緒になって…先生のことなんだかんだ言ってたけど…
結構好きだったんだなぁと…
もうおじいちゃん先生で…退職にならない限りいなくなることはないと思ってたんですから…。
あと数年なのに…転勤でびっくりです。
そして…中学のときの先生。
わたしはその先生が大好きで…2、3年の間、その先生の教科の係やってました。
本気でがんばってました。
これから中学に遊びに行っても…もう会うことは出来ないんだなぁと思うと悲しくなります。
久しぶりに会いに行ったら…先生は…前よりちょっと痩せてました。
わたしは…4月から…受験生と呼ばれるものになります。
新しい先生にも出会うだろうし…
新しい友達も出来るかと思います。
…そして…こんな風に遊んでばっかもいられなくなるんだろうなぁ…
なんて…考えたりしてね
それでも高校生活にくいは残したくないから…
一生懸命がんばろうと思います。
(初出:2003.03)