ちいさな診療所。より

thanks

作:ちーこ

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オレは結構…悩んでいた。
結構まじめに。
何にすりゃいいんだ?





来る3月14日。
手帳の日付の下には小さくホワイトデーと読める活字。
そしてその次。3月15日にはオレの字で。
未夢。
とだけ。
クリスマスにもバレンタインにも凝ったものを貰った側としては、適当なものなんかでは済まされない。
はぁぁぁ…。
マフラー…作るってわけにもいかねーし…
チョコにチョコっていうのも微妙だよなぁ…。





……………はぁ…。
三太と光ヶ丘に電話してみた。
三太には爆笑され光ヶ丘には鼻で笑われた。
…無性に腹が立つのは何でだろう。
とりあえずふたりからの情報を合わせるとクッキーが妥当な線らしい。





買い物に行って必要なものを揃えた。
夕飯はオレが作るからと言って台所に入る。
折角だから料理も手の込んだのをつくろうかなんて思っている。
…オレって意外とマメだよな…。





まずは料理の下ごしらえ。
若鶏丸一匹。
塩コショウをよくすり込む。
…ふたり分には…少し…いや…かなりでかかったと思う。
野菜を刻んだのと一緒に足を縛った若鶏をおく。
なべにジャガイモとか水を入れて火にかける。
これはスープ。





とりあえず夕飯の下準備だけ済ませてクッキーにとりかかりはじめる。
室温で柔らかくしたバターに砂糖を入れて練る。
まだやわらかくなりきっていなかったバターを練るのはそれなりに力が要る。
まぁ…楽しんでやってるからなんでもないけど。
というよりも…なんだか楽しくて仕方がない。
それはオレが特別料理が好きだとか、そういうわけじゃなく…。
やっぱり…あいつのために…何かしてるのが楽しいからなんだろう…。
自己満足だけどさ。
卵黄を加えてまた練る。
…あいつは…これを…なんて言って食べるだろうか…
薄力粉とベーキングパウダーを加えてまた混ぜる。
…あいつは…何を考えて…オレに…作ってくれたのだろう…
…もし…同じようなことを考えていてくれたらうれしい…
――なにかんがえてんだろ…ばっかみて。




チョコチップを包んでクッキーの形を整える。
オーブンシートをしいた天板にのせてオーブンの目盛りを12、3分に合わせる。
煮立っていたなべにキノコやキャベツ、ベーコンを入れる。
サラダ用にキャベツと海草を刻む。





一緒の時間を過ごしてきた
隣にいることがあたりまえだった
いつも隣にいることが
いつのまにかそれが自然になっていた
考えてみたらそれは全然あたりまえでもなんでもなくて
おれ達の中に
気持ちがあったんだ
一緒にいたい
ただその一言。
口に出したことはないけれど
でも
確かに
あるんだ
こころの中に
…嘘…こころの中の一番広い部分。





焼きあがったクッキーをオーブンから出す。
綺麗な色に焼きあがってほっとした。
天板を洗ってその上に野菜と若鶏をのせて溶かしバターを塗る。
オーブンに入れて60分。
今日はオーブンフル稼働。
なべのジャガイモに箸をさしてみた。
すんなり刺さった。
もう大丈夫。
塩コショウとコンソメで味付ける。
買ってきたフランスパンをスライスしていく。
焼きたてのパンはフランスパンと言えども中はやわらかい。
テーブルにスプーンとフォークを並べる。
オーブンがチンっと音を立てた。
出してみる。
悪くない。
さらに盛り付けて、未夢を呼びにいく。





「…あのさ…晩飯…できたんだけど。」
「ホント!おなかすいてたんだよね」

未夢が部屋から出てきて、オレの姿を見て笑った。

「彷徨エプロン似合いすぎ〜」
「…うるせ」

未夢をテーブルにつかせ、料理を運んだ。

「すっごーい。これ全部彷徨が作ったの!?」
「まぁな…」

どうやらローストチキンに驚いたらしい。
まぁ…めったに作るもんでもないしな…
グラスにジュースを注ぐ。

「ちょっと早いけど誕生祝いと…今までのお返しってか感謝の気持ちってか…まぁ…乾杯。」

カチンとグラスが音をたてる。
「皿貸せ、皿。」

未夢から空の皿を受け取って、ローストチキンを取り分けた。

「どーぞ、めしあがれ。」
「いただきまーす。」

感想が気になって…思わず未夢の口元を見つめてしまう。

「おいしーい。すごーい彷徨。」

ふぅっと体の力が抜けた。
その顔はマジで反則。
オレもローストチキンを口に放りこんだ。




食べ終えた食器を下げる。
自分でも結構な出来栄えだったと思う。
何よりも未夢のあの顔が見れただけで満足だ。
冷めたクッキーを袋に入れる。
その袋をもって、まずオレの部屋による。
レンタルショップの袋からビデオを出して一緒に持つ。
リビングに戻ると未夢がこっちを見た。

「なに〜それ?」

ビデオを指差している。

「…これ、おまえ見たがってただろ。」

ポンとビデオを渡す。

「うそ、借りてきてくれたの?ありがと〜」
「…あと…これ…」

袋を差し出す。
未夢が不思議そうにこちらを見てる。

「なに?」

「…ホワイトデー…よくわかんないけど…クッキーだって言われたから…」
「彷徨が作ったの?」

そう聞かれて、頷いた。
なぜか顔に血が上る。

「…いるのか、いらないのか、はっきりしろ。」

情けないけどコレだけ言うのが精一杯で。
未夢がいつも見てるようなドラマに出てくる奴らだったらもっとスマートにやるのだろうけど。

「ありがとっ!」

未夢がその袋を受け取った。

「食べても…いい?」

また頷く。
ぶっきらぼうにしか動けない自分に腹が立つ。
「おいし〜い。ありがと、ね。」





未夢に誘われるまま借りてきたビデオを見始めた。
未夢は画面にくぎ付け。
それがちょっと腹立たしくもあって
でも、そんな夢中になってる顔もいいななんて思ってたりもして。
映画はそろそろクライマックス。
金持ち紳士が自分の好きになってしまった若い女をたずねていくシーン。
プライドとか仕事とかそんなもの全部忘れてしまうぐらいに好きになってしまった女を。
オレはもっと…もっと…こいつを必要としている。
何にも
何にもいらない。
こいつのほかには。
何が
何がなくてもいい。
こいつさえいれば。





映画が終わった瞬間。
柱時計が12回。
“今日”になったことを告げた。

「誕生日、おめでと。」

隣に告げると、未夢はくすぐったそうな顔をした。

「ありがと。」

そっと
そっと口付けた。
クッキーのせいか…チョコレートの味がした。



こんにちわ。ちーこです。

今回は…初めて本気で書けないと思いました。
クリスマス企画の続きの続きの続きのお話なはずなんですが…
コレの一つ前にあたるバレンタイン編。
まだ書いてません(爆)

実は…最近私自身の…恋愛小説離れが…ありまして…
最近ミステリーしか読んでない…
HPの更新もめっきり遅くなりまして…





とまぁ近況報告は以上にして(長っ)
書き終わっての感想…。
いっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ
のっけから失礼しました。
でも私的に彷徨…おとめぢゃん。と思ってしまったら叫ばずにはいられない心持でございます。
なんか「彷徨」のところを女の子の名前に置き換えたらそのまんま普通の少女漫画的な感じになりそうじゃないですか…
お目汚し失礼しました。
これからも精進いたしますのでどうかよろしくお願いいたします。

(初出:2003.03)

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