ちいさな診療所。より

空気

作:ちーこ

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10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0テレビの画面に軽快な音楽とともに「あけましておめでとう」の文字が躍りだす。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。」

ぷっ
格式ばった挨拶にお互いにふきだす。

「ほんと去年もいろんなことがあったよね〜。」
「…だな。でも…今年もいろいろありそうだけどな…。」
「あはは、そだね」

数分前までの1年を思い出してみる。

「去年の今ごろはこんな風になるなんて考えてもみなかったな。」
「わたしだってそうだよ。ママがNASAに行くのもそうだし、わたしがここに来るのだって…それに何よりも…」

「「4人家族になるなんて」」

2人の声がハモってまた笑い出す。

「だよなぁ…思ってもみなかったよなぁ…宇宙人と同居だなんて。」
「ホントホント。しかも宇宙人に友達までできちゃうし。」
「…ホントにいろいろあったよな」
「だよねぇ…でもさ楽しかったよね。」

ぴたっとふたりの口が止まる
ぱちっと目が合って
さっとそらす
ふっと相手の方をむく
また目が合った
今度はそらさない

「わたしは…ここに…西遠寺にこれてホントによかったと思ってるの。
 るぅくんに、ワンニャーに……彷徨に出会えて…ホントによかったと思ってる」
「…オレも…よかったと思ってる。
 普通だったら会うはずもねーのにいつの間にか家族になってた。
 …なんつーかさぁ……なんつーか…こう…わっかんねーかなぁ…
 …だから…こう…その…」
「彷徨がいいたいこと、なんとなくわかった。
 うーん…あったかいみたいな…そんな感じ。」
「まぁ…そんなもんかな…」

心地よい沈黙。
やわらかい空気がやさしく動いていく。

「ねぇ…彷徨はもう今年の目標決めた?」
「まだだけど…未夢こそ決めたのか?」
「わたしは…とりあえず楽しく暮らすことかなぁ…」

「…それじゃ今年とかわんねーじゃん…。」
「あっ…ホントだ…」
「お前は料理の練習だろ。人に食わせられるもん作れるようにしろよ。」
「ちょっ、それどーゆーことよ!!」
「そのまーんまなんだけど?ほらこの間のおでんだっけ?なんかこげて炭化したところがぼろぼろ落ちてくるやつ。あれが人の食い物だとはオレにはどーしても思えないんだけど?」
「…むぅ……そういう彷徨はどうなのよ…目標ってなに?」
「じゃぁ…おれも楽しく暮らすことにしとく。」








「「じゃぁ今年も楽しく暮らせるようによろしくお願いします」」








大好きな人っていうのとはきっと違う。

恋人なんて言葉はきっと当てはまらない。

やっぱり家族が一番ぴったりくる。

気がついたらいつもとなりで笑ってる

そんな空気みたいな存在。

決して軽んじてるわけではなくて

必要不可欠な空気みたいな

そういう存在ってこと。


(初出:2003.02)

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