ちいさな診療所。より

夢であえたら

作:ちーこ

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彷徨の夢を見た。
目が覚めたとき、ちょっと幸せだった。
…夢は…考えてることが出るって何かで聞いた事がある気がするけど…
わたしは…そんなに彷徨のこと考えてるのかな…




「夢?…ん〜あたしは最近見ないなぁ…綾は?」

休み時間、ちょっと気になったからななみちゃんたちに聞いてみた。

「昨日はね…巨大なカニに追いかけられた夢だったよ。
すんごい大きくてさ、足しか見えないんだけどね。
てか本体は雲の上なのよ!」
「それで?」
「しょうがないってか…食べられたら困るから逃げるじゃない?
それであっちこっち逃げ回って着いた先が行き止まり!!
このあとどうする!
ってとこで目が覚めたのよ。」
「うわー先が気になる〜」

さすが綾ちゃんとでも言うべきなのかな…ものすごい夢。

「ほら、だったらななみちゃんも夢見なきゃ!」
「見ようって思って見れるものじゃないからな〜。
んで…未夢は?どんな夢見てるの?」

…こっちに…話題が…戻ってきちゃった…

「…えっと…わたしは…その…」
「西遠寺くんの夢ーなぁんてね。」

一気に顔に血がのぼる。

「まっさかぁ…ってそうなの?」

ななみちゃんがわたしの顔を覗き込む。
目が…すっごい楽しそうだよ…

「いや…だから…その…」

「いいじゃん、いいじゃん。んで、夢の中で愛しの君は何してたの?」

…何…してたのかな…
「何って…ただ…いつもどおりに…話したり…ご飯食べたり…」

ふぅ。

ふたりが同時にため息をついた。
わたし…何かした?

「『愛しの君』は否定しませんね〜このことに関して解説者の天地さんどう思われます?」
「そうですねぇ…さりげなくのろけられてるとでも言いましょうか…まぁさしあたってふたりの関係は良好といえるでしょうね。」
「えっちょ…ちがっ」
「まぁまぁ…それで…そのあとは?」

完全に…ふたりのペースだ…

「そうそう。そのあと何かあったんでしょ?」
「…なんにもないよ?」

はぁぁぁぁぁぁ

またふたりでため息。
…何がいけないんだろう…

「それだけなの?」

こくりと頷く。

「なんだ…つまんないの〜」





結局…ななみちゃんたちからは…聞けなくて…夕食の席で彷徨と向かい合っている。
彷徨も…夢…見たりするのかな…

「ねぇ彷徨も…夢見たりするの?」

ごはんを頬張りながら彷徨が答えた。

「ん〜まぁな。」
「どんなの?」
「まぁ…いろいろな。」
「例えば?」

彷徨は…ちょっと考えるように箸をとめた。

「今までで一番強烈だったのは…
突然女子高生のカッコしたオヤジが出てきてさ…
オレが何か言う度に「マジで〜」とか「ちょーむかつくー」とか
いかにもってカンジのせりふ言うんだよ…」
「へぇ…」

「あんときはマジで焦った。
オレこんなのの息子かよ〜とか思って泣きたくなったし。」

彷徨が…泣きたくなるぐらい…強烈な夢…
わたしは…遠慮しておきます。

「夢ってさ…自分の考えてることが…出るんでしょ?
…その時…彷徨そんな事考えてた?」
「まさか!んなこと普通思いつきもしねーよ…」
「だよね。」

彷徨の箸がかぼちゃの煮つけをつまむ。

「昔はさ、夢に出てきた方が会いたくて、わざわざ人の夢まで訪ねてきたって考え方もあったみたいだけど。」





また、彷徨の夢を見た。
会いにきてくれたのか…
わたしが会いにいったのか…
それはわからないけど…
でも…目が覚めたとき、幸せだった。





今日は、未夢の夢を見た。
あんな話をしたせいかもしれない。
オレが会いにいったんだとしても
未夢が会いに来てくれたんだとしても
…夢で会えた分ちょっと得したな。


はい。夢。
ちーこは夢見るときみない時結構混ざってるんですが。
やっぱり好きな人の夢を見るとちょっと幸せですねってお話。
まぁ…それだけです。
(初出:2002.10)

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