作:ちーこ
「…肉とにんじんとたまねぎにじゃがいも。」
彷徨はメモを見ながらスーパーマーケットへ向かって歩いていました。
「カレー?いや肉じゃがか?」
つぶやいている彷徨の足元をくろいふわふわしたものが通り過ぎました。
「うさぎ!?」
その声に気がついたのか、くろうさぎはちらりと彷徨の方を見ると、どこかへ駆けていきました。
「こんなところにうさぎなんて珍しいな…。」
彷徨が買い物を終えて家の方へ歩いていると、さっきのくろうさぎがじーっと彷徨を見つめています。
くろうさぎは彷徨と目があった事に気付くとだっと車道に向けて走り出しました。
「危ない!」
彷徨は買い物袋を地面に置くと走ってうさぎを抱きかかえました。
目の前を車が通り過ぎていきます。
「ったく…こんなところじゃ危ねーじゃん。」
彷徨は片手でうさぎを抱きなおすと買い物袋を持ってまた歩き出しました。
もうすぐ西遠寺というところまできたとき、うさぎはぴょんと彷徨の腕から飛び降りました。
そしてまた道路を走っていきます。
「危ねーってんだろ!」
うさぎはまたちらりと彷徨を見ました。
今度はまるでついておいでとでもいっているように彷徨には見えました。
彷徨はなんだかとても気になってうさぎを追い掛けることにしました。
しばらく走ってうさぎが立ち止まったのは西遠寺の裏山の中でした。
うさぎの前に山には不似合いな真新しいマンホールがあります。
うさぎはまるで彷徨に確認を取るようにこくんとうなずくと、ぴょんとその上に飛び乗りました。
すると、なんということでしょう。
さっきまでそこにいたはずのうさぎがふっと消えてしまったのです。
「…うそだろ…」
彷徨はマンホールへと近づきました。
ふたはきちんと閉まっているというのにうさぎはどこへ消えてしまったというのでしょう。
彷徨はそっとマンホールのふたに触れました。
そのとたんふたがさっと消えたのです。
中から見えない力がぐいぐいと彷徨をひっぱります。
「うわーっ!」
彷徨の身体はマンホールの中へと踊りだしました。
最初はぐるんぐるんとおちつきませんでしたが、慣れてくると彷徨には辺りを見まわす余裕さえできていました。
「この穴…どこまでつづいてるんだ…?ただのマンホールにしては深すぎるし…それにずいぶん広い。」
彷徨が両手をめいいっぱい広げてもどこにも触れないのです。
足元にちいさな明かりが見えました。
その明かりはどんどん大きくなっていきます。
「出口か?」
ぱっと辺りがひらけて彷徨はポフンと柔らかいクッションのようなものの上に落ちました。
「…これのおかげで助かった…なんだこれ…意外とでかい…」
彷徨はそのクッションのようなものから飛び降りました。
「きょ…巨大きのこ…?」
なんと彷徨が落ちたのは彷徨と同じぐらいもある大きなきのこの上だったのです。
「そんなに見つめられるとワシこまっちんぐ〜。」
突然きのこの方から声がしました。
「…こまっちんぐーって…」
彷徨はきのこのいしづきの部分に照れて真っ赤になっている顔を見つけました。
「おやじぃ!?」
その顔は彷徨のお父さんにそっくりだったのです。
「そんな大声出すでない。ワシはでりけぇとなんじゃからの…。しかし…ワシにはおぬしのようなへんちくりんは知らん。ふぁぁぁぁ。さてワシはもう寝る。」
きのこはおおきなあくびをすると眠ってしまいました。
彷徨は仕方なく辺りを見回しました。
「あれ…?」
辺りのものが全て大きく見えます。
「もしかして…このきのこがでっかいんじゃなくて…オレが縮んだのか…!?」
彷徨は自分の体のあちこちを確かめるように見ました。
「そうやって見たってわからんじゃろ。お前さん自身が縮んどるんじゃからの。ふぁぁ〜」
それだけ言うとまたきのこは目を閉じようとします。
「ちょっと待てよ、おやじ!…じゃないのか…。どうやったら元の大きさになれるんだよ!」
きのこの目が突然ぱちっと開いてキラキラと輝きだしました。
「私をた・べ・てvv」
「…冗談だろ…?」
「何を言っておるのじゃ…ワシを食べれば大きくなれるぞ。ほらさっさと食わんか。」
彷徨はおそるおそるきのこの端をちぎると口に入れました。
彷徨の体がどんどん大きくなっていきます。
やがてそれが止まった時、先ほどのきのこは彷徨の親指ほどの大きさになっていました。
「こんなにちっちゃかったのかよ…。」
彷徨が歩いていると頭の上から声がして、驚いて顔を上げるとぷかぷかとねこが浮かんでいました。
「あっきゃぁにゃんにゃん」
「るぅ!?」
ねこの耳としっぽがついているものの彷徨がるぅの事を見間違えるはずがありません。
彷徨が手を伸ばすと、ねこはぽんとそこに乗りました。
「一体どーなってんだ?」
「にゃんにゃんにゃにゃん」
「…お前に聞いてもわかんねーよな。」
そう彷徨が呟くとねこは顔をしかめて、きゅっと彷徨の頬をつねりました。
「いてっ。わかった、オレが悪かった。…それでるぅは何を知ってるんだ?」
ねこはにこっと笑いながら言いました。
「まんま、うちゃちゃん。」
「うちゃちゃん…って未夢はうさぎになってんのか?」
「きゃぁ〜ぁ」
嬉しそうにねこは笑うとまたふわふわとどこかへ飛んでいってしまいました。
「うさぎ…うさぎっと。」
彷徨はきょろきょろと未夢を探しながら歩いていました。
すると、しばらく先を見覚えのある女の子が歩いているではありませんか。
「おい、未夢!」
気がつかなかったのか女の子はそのまま歩いていってしまいます。
彷徨が走り出すと女の子も走り出しました。
「未夢!」
彷徨がやっとの事で追いついて手をつかむと少女はパッと振り返りました。
「何するのよ!わたし忙しいの!」
「…未夢?」
よくよく見てみれば、未夢だと思われたその女の子の頭には長い耳が、お尻には丸いしっぽがついています。
腕はむき出しで、まるで水着のような黒い服、そしてしなやかな足には網タイツ、首には時計がかけられています。
彷徨はるぅが未夢がうさぎになっていると言っていた事を思い出しました。
「……バニーガール…!?」
「離してよ!わたしホントに忙しいんだから!」
うさぎは彷徨の手を振り切るとうさぎは首にぶら下がっている時計を見ました。
「あぁ…もうこんな時間…今から一緒にパーティーに行く人探す時間もないし…。しょうがない。この際だから一緒にきてもらうわよ。」
うさぎと彷徨はまたパーティーが開かれるお城に向かって走り出しました。
華やかな会場で拍手が沸き起こりました。
「女王様のご挨拶です。」
拍手が一段と大きくなります。
「みなさん。今日は我が国恒例のダンスパーティー。存分に楽しんでいってくださいね………っ!」
女王の視線が一点で止まりました。
「あらそちらのお方は…」
「げっ…花小町…」
「『お嬢さん、僕と踊っていただけませんか?』
『えぇ、わたしでかまわなければ』
1、2、3、1、2、3。ワルツのリズムとともに心に刻まれる恋心。
その恋はあっという間に愛情へ。
『君ともう離れたくない…。』
『わたしも…。」
そしてふたりは…ふたりは…手に手を取ってしあわせへと歩き出すのよ〜!」
パーティーに集まった人たちは、女王様の変わりように、みんなぽかんとしています。
「おふたりはなっかよっしですものねぇぇぇぇぇぇぇ〜」
ごごごごごと不気味な音がお城に響き渡りました。
「やばい、未夢。逃げるぞ!」
彷徨はうさぎをつれて走り出しました。
「追えーっ!」
後ろから兵隊が追いかけてきます。
「大砲用意ー!」
「うそだろっ!」
「撃てぇ!」
どぉぉぉんと大きな音がなり、まぶしい光があたりをつつみました。
彷徨はうさぎの体をかばうように抱きしめました。
「んぁ…あれ?」
あたりを見まわすと、そこは見覚えのある西遠寺の裏山でした。
「…夢…だったのか?」
落ちたはずのマンホールはどこにもありません。
彷徨が立ち上がろうとしたとき、ちゃりんと何かが身体の上から落ちました。
「…この時計って…」
彷徨は時計をポケットに入れるとわきに転がっていた買い物袋を持って西遠寺へと歩き始めました。
12345ヒットのあくあさんからのリクエスト「不思議の国のアリス」がテーマでした。
おわったぁぁぁぁ。
なんか終わらなくなっちゃって…こまって強制終了。
なんかもしかしてありがち?
ってか今回ははじめてづくし。
ファンタジーチックなのを書くのもはじめてだし、
「ですます」で書くのもはじめて。
もしかしたら彷徨のおじさん初出演?
ってな具合に
今回はなんとなく和訳風にしてみました(意味不明?)
ほらなんか翻訳物で訳がうまくないと「それ」とか「彼」とかがいっぱい出てきたり
向こうの国では通じるんだろうけどこっちの国では通じないジョークとか例えとか
そういう違和感があるじゃないですか。
ちょっとそんな感じに。
自分で読んでてなんか変だぞって思いますもん。
だから今回は和訳風で。(苦笑)
ってかバニーガールってどうよ…だれもこんなのが出るなんて思ってないかなとか思ってみたり。
某チャットで突然「「あみタイツ」って「網タイツ」ですか「編タイツ」ですか?」なんて突然質問したのもまぁご愛嬌。
網タイツはこういう風に使われるのです。(笑)
「光ヶ丘くんなら喜んではきそうだよね…」と言われて…
網タイツはいつからそういうものになったんだろうと…ちょっと悩み。
ねっ。○○しゃん?
実は不思議の国のアリス1度もまともに読んだ事ありません。
途中であまりにも私に合わなくて…諦めちゃいました。
とりあえず知ってる限りできのことねことうさぎと女王だけ(笑)
題名はそのまんま素直に英語で。
つーか…これにそーゆー題名つけて大丈夫かな…。
(初出:2002.10)