ちいさな診療所。より

おいしいスフレの作り方。

作:ちーこ

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「ねぇ彷徨…お願いがあるんだけど…」

じぃっと見つめられて彷徨ははぁっとため息をつきながら頷いた。
未夢のこーゆー顔には弱いのだ。



「あのね。明日クリスちゃんちでティーパーティーがあるんだけど…
…それで手作りのお菓子…持ってくってことになってね…
…それで…その…一緒につくらない?」





「何作るんだ?」
「ん〜何がいいかなぁ…」

一緒に作らない?
その言葉に頷いたのは確かにオレだったけど…
全然なんにも決まってねーのかよ…
オレは冷蔵庫を開けた。
とりあえずぐるっとみまわして。
野菜室の方もみまわして。
冷凍庫も一応みまわして。

「よし。はじめるぞ。」

今入ってる中身で作れるのは…あれ。





「未夢、そのかぼちゃ小さく切って皮むいて…いい…オレやる。
お前は器にバター塗っといて。」

不安そうな顔でかぼちゃと包丁を持っていた未夢からそれらを取り上げる。
代わりにバターを渡すと用意した器にそれを塗り始めた。

切り終えたかぼちゃをレンジに入れる。
10分を経て、かぼちゃがレンジから出てきた時…未夢はまだバターを塗っていた。
慌てて中身を確かめると、思ったほどバターは分厚くなっていなかった…危ねぇ…
熱いかぼちゃを裏ごししていると、未夢がじぃっとこっちを見ていた。

「なんだよ。」
「別になんにも〜」

それでも未夢の視線ははずれない。
なんとなく恥ずかしくてオレが明後日の方向を向いた時。
にゅっ。
手が伸びきてかぼちゃを少しつまんだ。
…こーゆーことかよ
ぽんっと未夢の頭をたたいた。

「あっ。」

つまんでいたかぼちゃが落ちて未夢は悲しそうにこっちを見た。
…悪いのはオレか…?





少しすねた未夢を横目に鍋にバター、薄力粉、牛乳を入れて弱火でかき混ぜる。
むぅっと恨みがましそうにこっちを見ている未夢を手招きして木のへらを握らせる。

「ドロッとするまで混ぜて。」

未夢が頷いたのを確認するとおれは卵を割った。
卵黄と卵白に分けていく。
「彷徨〜ドロッてなったぁ。」
「んじゃぁ、火を消してこの卵の黄身1個ずつ混ぜて。オレその間にメレンゲ作るから。」

卵白の方には砂糖をいれて泡立てる。

「彷徨できた〜全部混ぜた〜」

鍋の中を確認して、そこの中にさっき裏ごししたかぼちゃを入れる。

 「じゃぁこれ、裏ごしして。」
未夢にふるいを渡す。
「裏ごし?ってどうやるの?」
「さっきオレがかぼちゃふるいでこしてただろ。あれをまたやんの。」

…もうちょっとは…料理…知っとけよな…





そろそろ角が立ち始めたメレンゲを未夢が裏ごししたのに
3回に分けて入れて手早く混ぜる。

「みゆ〜バター塗った器こっち。持ってきて。」

器の9分目ぐらいまで流し込む。
天板に水を張って、そこに並べてオーブンのメモリを200度で30分にあわせる。
これで作業は終わりだ。
ただよいはじめたいい香りにほっとすると未夢と目が合った。
未夢がにっこり笑った。





「彷徨ってすごいよね…こういうのの作り方知ってるし。」

「まぁ…料理するの嫌いじゃないし。好きなものならなおさら。」

好きなもの…ちいさな頃…
かぼちゃがやけに気に入ったオレに母さんよく作ってくれた。
母さんがいなくなって、さみしくて、何度もこれに挑戦したけど
うまくできても母さんの味にはならなかった。
その度に余計に、母さんが恋しくなって、親父に隠れて泣いた。
うまくいくわけがないと分かっていてもまたやってみる。
失敗する。
さみしくなる。
その繰り返し。
オレにとっていい思い出でも、悲しい思い出でもあるこれを、
なんで作ろうと思ったんだろう。
確かに冷蔵庫に使える材料がそろってあったのもそうだけど、
でも、他のものだって作れないわけじゃなかった。
なんでこれを選んだんだろう。
オレは…オレは…期待してるのかもしれない。
期待?
何に?
いまさら期待だなんて…

「彷徨?どうしたの?」
「ん…なんでもない。うまくできるといいな。」

「うん!」
未夢が頷いた瞬間にオーブンが鳴った。
ぽんぽんと未夢の頭をたたいてからオーブンへとむかう。
オーブンを開いてゆっくり取り出した天板の上には
おいしそうに焼けたかぼちゃのスフレ。

「ちょっと…味見してもいい?」

あまりにも嬉しそうな未夢に、こくりとオレは頷いた。
少しだけ切り取って未夢は口に入れた。

「おいし〜vv」
少しだけオレも切り取って食べてみた。
おいしかった。
母さんのとは違うけれど。
でもおいしかった。





翌日、こんな騒動に巻き込まれるなんて…考えてもみなかった。
花小町の家という時点で…気づくべきだったのだ…。
でも…ふたりの愛の共同作業なんて言われて…少しだけ照れたのは秘密にしておこう。



24000ヒットのむつみんさんのリクエスト「未夢と彷徨の共同でのお菓子作り」でした。
なんかもうわけわかんないです。
ちょっと最近いろいろあっていらいらしっぱなしで
その状態で書いてるからうまくいかないし。
この話だからって言う所為もあるけどやけに説明的だし。
もうだめだ〜。

あぁそうそう。この話の中のかぼちゃのスフレ。
作り方はあってますので作れると思いますよ。  材料
 かぼちゃ (皮を取って) 200g
 バター 30g
   薄力粉 30g
   牛 乳 100cc
   卵 黄 4個分
   メレンゲ用
   卵 白 4個分
   グラニュー糖 30g
   下準備用
   バター 適量
   グラニュー糖 適量




ふぅ…以上です。
とはいってもちーこは作ったことないんですけどね。
今度作ってみようと思います。

(初出:2002.09)

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