ちいさな診療所。より

ありがとう

作:ちーこ

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「今晩はわたしがやるよ。」
「へぇー珍しいじゃん。お前が自分から言い出すなんてさ。」
「ちょっとね。作りたいのがあるんだ。」
「じゃぁき、を、つ、け、て、人間の食い物つくってくれよ?」
「わかってるわよ!」





台所に立つと思い出す。
この家に初めて来たとき、わたしはなんにもできなくて、人に頼ってばっかりだった。
今は…少しはマシになったと思う。
自分で出来るようになった事がある。
ぐっと力を入れるとざくっとかぼちゃが半分に切れた。
そう、これだって最初は出来なかった。
ちょうどいい大きさにかぼちゃを切り分けてなべに入れる。
そして…わたしはママになった。
正確に言うのならママの立場になった、と言うべきかもしれないけど。
今まで娘という視点からしか見えなかった出来事が親という別な角度から見えた。
まぁ…それが親というものかどうか…わたしにはまだわからない。





「腹減った〜。なんか手伝おうか?」
「ん〜いいや。今日はわたしがやるから。」





居間に座って、晩飯を待っている。
未夢が、わんにゃーが来るまでこんな経験ほとんどなかった。
オヤジとふたりのときは簡単にすますか、オレが作るかだったから。
やることがなにもなくて畳にごろりと横になる。
オレは変わったと思う。
どう変わったかなんて聞かれると困るけど。
なんていうか…もっとオレは冷めた人間だった気がする。
何をやってもひととおりは出来る。
手を抜いてたわけじゃないけど、一生懸命でもなかった。
そう、あいつらが来てからだ。
なんでもかんでも一生懸命で、カッコワルイけど…悪くなかった。
オレもやってみようじゃないかという気持ちになった。
というか…やらざるをえなくなった気もする。
子育てってのは思ってよりも大変で、その分嬉しくなる事も多くて。
いつの間にか本気で「パパ」になってた。





「この匂い…かぼちゃ?」
「ひみつーって…ホント嬉しそうだね。」
「いーだろ。好きなんだからさ。」





出来あがった料理を皿に盛っていく。
初めて彷徨と作った料理。
一人で出来るようになった。
わんにゃーがよく作っていた料理。
最近やっと出来るようになった。
ここに来て、わたしはちょっと成長した。
…好きな人も…できた。
ずーっと一緒にいたい人が出来た。





「彷徨ーはこぶの手伝ってー。」
「んー。どれはこべばいいわけ?」
「んと…これとこれ。こっちはまだこれからのせるから。」





テーブルに料理をはこぶ。
どれもこれもここでは見慣れたもの。
特別なものじゃないから特別。
ふっと初めてふたりで料理をしたときのことを思い出した。
あのあとはわんにゃーがいたから、ふたりで台所に立つ事はほとんどなかったけど。
カレンダーを見た。
オレが変わったのは…あいつが…いや…あいつと一緒にいたかったからかもしれない。





「彷徨、座って座って。ご飯冷めちゃうよ。」
「あのさ…今日って…」
「今日でね、わたしがここに来て、彷徨に出会って、るぅくんとわんにゃーに出会って、ちょうど1年なの。だ、だからね…わたしの1年間の成長を見てもらおうと思って。…どう?」





彷徨はかぼちゃを一口ぱくっと食べた。
そして、わたしの方を見て言った。





「うまいじゃん」





オレは立ちあがると台所の戸棚からグラスを2つ出した。
そして、未夢の後ろからグラスを置いて言った。





「ありがと」





わたしがパッと振り向いたとき彷徨はジュースを出しにか、また台所に向かっていた。
彷徨はこれだからずるい。
なかなかこういう顔を見せてくれない。
ペットボトルを持った彷徨が戻ってきた。
わたしは座った彷徨をじぃっと見つめた。





「ありがとね」





はっとして未夢を見るとばちっと目があった。
こうやって隠してることを見つけてしまうから未夢はタチが悪い。
グラスにジュースを入れて持ち上げた。


「乾杯!」
ありがとう ありがとう

何に対するわけでなく

あなたにあえて ありがとう

一緒にいてくれて ありがとう

1年間本当にありがとう


とうとうちいさな診療所も1歳になりました。
去年の今ごろ思い出すと…テロですねぇ。
ちょうど風邪で休んでた頃で…去年もテスト前でした。
日誌振り返ってみてもやっぱりテスト前みたいで…
残ってないし(爆)
一年間で私は成長したのかな。
私は変わったのかな。
なんて考えると…
私の場合…明らかに退化(爆)してるので…

なんか最後が井上○水みたい…

こんな拙いHPに一年間も足を運んでくれた方
私と仲良くしてくれた方
アドレスを他の人にばらさないでくれてる友達に(笑)
本当にありがとう。
これからもよろしくお願いします。

(初出:2002.09)

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