作:ちーこ
あんなこと言うんじゃなかった。
数日前の言葉を…オレは今更後悔していた。
絶対にばらすわけにはいかない。
「おまえじゃあるまいし、夏かぜなんてひかねーよっ」
…だるい…
「夏かぜは、ばかのひくもんだって言うだろ」
えっぐしゅ
目がさめてすぐ、くしゃみが出た。
鼻をすすりながら起き上がると
だるい
冗談じゃない…
今日の午後は、未夢と隣町のプールに行く約束をしている。
未夢にこんなところ見られるわけには…いかないだろ…これ。
やっぱり昨日暑すぎて窓全開にしたのがいけなかった…
いや…それよりもクーラー聞いた図書館に1日いたせいか?
ってか…水風呂の…
……オレいつ風邪ひいてもおかしくない生活してんじゃん…
えぐしゅっ
頭いたいし、あついしさむい。
だぁ〜もう何考えてんだかわっかんねー。
またオレは布団にごろんと横になった。
「彷徨〜。彷徨まだ寝てたの?」
頭の上から未夢の声がしてオレは目を開いた。
「おはよ。そろそろ11時だよ。」
だるい体を無理矢理起こす。
こいつには知られたくない。
絶対笑われる
「彷徨だるそうだけど…大丈夫?」
こいつ…こーゆー時だけ…鋭いんだよな…
「だから、ただの夏バテだって。」
これでどこまでごまかせるだろうか
立ち上がって箪笥の方へ歩き出す。
「プール行くんだろ?着替えるから出てけよ。それともここでずっと見てるか?」
ニヤッと笑いながらいった言葉に未夢の顔がぼっと赤くなって、急いで部屋から出ていった。
とりあえず…多分まだ…ばれてない。
っくしゅん
箪笥から服を出して着替える。
着替えたらなんだか気分がしゃんとした。
病は気からって言うし。
「ねぇ彷徨。こっち来て。」
居間に入ると未夢に手招きされた。
近づいた途端。
手を捕まれてもう片方の手で額に触られた。
「…やっぱり。」
ため息をはきながらオレをまた部屋のほうへ引っ張っていく。
せっかく着替えた服を脱がされて新しいパジャマを渡される。
出しっぱなしだった布団に寝かされて。
「なにすんだよ。」
「…自分の状態考えてから言ってよね…彷徨…夏風邪?」
…笑われる…
唇をかみ締めた。
「プール。本気で行く気だったの?…心配させないでよ…」
意外な言葉に驚いた。
笑わないのか?
自分で「ばかがひく」なんて言っておきながら、こうなったオレを。
「ちょっと…怒ってるんだからね」
「…プール行けなくてごめんな」
「ちがうもん…彷徨…わたしに隠そうとしたでしょ。どうして心配させてくれないの?…やっぱりわたしじゃ頼りにならないもんね。」
未夢が俯いた。
「違っ!」
思ったより大きな声が出てひゅっと喉がなってむせた。
未夢が背中をさすってくれる。
ようやく咳がおさまるとオレは小さく言った。
「夏風邪ひいたなんて…言えるかよ。」
未夢が吹き出した。
やっぱり笑われた…
「あはは、彷徨ごめん〜。でもおかしくって。だって、彷徨がそんなこと気にしてるなんて思わないじゃない?」
むぅっとしていたオレの頭に未夢は手をのせてにっこり笑いながら言った。
「これで「夏風邪はばかがひく」が迷信だってわかったじゃない。」
山稜しゃんのサイトで読んだ「素麺のある日」をちょっとつまみ食い。
かなり触発されちゃって。
うちのヒトミチャンがお邪魔したみたいなのでちーこも…(イラナイカラ)
ちーこは夏風邪よりは夏バテ派です。
(初出:2002.08)