ちいさな診療所。より

人のフリ見て

作:ちーこ

←(b) →(n)



第1章:たらこ

ぱぁん。

破裂音と共に未夢の悲鳴が聞こえて彷徨は台所に駆けこんだ。
…否。
台所の入り口で急停止した。

「どーしたんだ…うわっ!」

彷徨の目に映った台所は酷い有様だった。

「…んだ…これ…」

あたりに散らばったモノを踏まないように彷徨はコンロの前で立ちすくんでいる未夢に近づいた。

「…彷徨ぁ…」

泣きそうな顔で未夢はフライパンを指差した。

「なんか…いきなり…ぱぁんって」

彷徨はフライパンを覗き込んで、回りの壁を見回して、床に目を落とすとはぁっとため息をついた。

「何やってんだよ。」

散らばっているのはピンクのつぶつぶ。

「…やきたらこ…食べたくなって…」

未夢は気まずそうに視線をそらす。

「それで焼いてたら爆発したと。」

こくりと頷いた未夢に彷徨は冷たく言った。

「お前…バカだろ。」
「なんでよ!」
「お前たらこそのまんまフライパンに入れただろ…」
「うん。」

あまりにも素直な反応に彷徨は、はぁぁぁぁぁっと盛大なため息をつく。

「たらこ焼くときは切れ目入れるの常識。」
「そうなの!?」

初めて聞いたらしく未夢は目を見開いて彷徨を見つめた。

「……知らなかったんだな……」
「だ、だってやきたらこなんか作ったことないんだもん」
「作ったことないもの作るなら必ず聞けよ。」
「うん。」

……………はぁ…………

同時にためいきがふたつ。

「…片付けなきゃな…。」
「…わたし…ひとりで…?」

じぃっと困り果てた顔で見つめられて彷徨は言った。

「当然………って言いたいところだけど…お前に任せてたらいつまでたっても終わらなそうだからな。」


本日の教訓:たらこには切れ目を入れましょう。




第2章 カレー

「今日の晩ご飯当番って彷徨だよね〜なにかなぁ」

そろそろおなかも減りはじめた夕方、未夢は台所へ向かって歩いていた。

「なんか香ばしいにおい…ってこれ焦げてるんじゃん!!」

未夢は慌てて台所へ駆け込んだ。
すると
テーブルに彷徨が突っ伏していた。

「ちょっと彷徨!だいじょう…ぶって…眠ってるだけ?」

眠っている彷徨の手には開いたままの推理小説。
読んでいる最中に寝てしまったらしい。

「彷徨おきてよ。ねぇ彷徨ってば!お鍋の中身焦げてるよ!」
「……ん…んぁ………………げっ!!」

起き上がると同時に彷徨はばたばたっとコンロに駆け寄った。
火を止めて鍋のふたを開ける。
中には真っ黒になったジャガイモやニンジン。

「…………はぁ…」
「やっちゃった。彷徨ってわたしにはいろいろ言うくせに自分だって失敗するじゃない。」
「…うるさい。…眠かったんだよ…」
「昨日遅くまで、ソレ読んでたからでしょ。」
「…………」
図星らしく彷徨は何も言い返さない。

「彷徨どうすんの?これ晩ご飯なんでしょ?」
「…なんか作る。」

鍋を指差しながら聞いた未夢にボソッと彷徨がかえす。

「手伝おうか?」
「いい…お前がやるともっと酷くなりそうだし。」
「ちょっとそれどういう事よ。」

キッと睨みつけた未夢にぽんと鍋が渡される。

「洗っといて。」
「むぅ……わかった。」


本日の教訓:火を使ってる時は目を離してはいけません。




第3章:パン

「腹減った…わんにゃー朝飯、何喰えばいいの?」
「そこの棚にあるパンを食べてください〜」

あくびをかみ殺しながら居間にやってきた彷徨にわんにゃーが答えた。

「パンって…これ?」
「あっはいそれです〜」
「おはよ〜今朝はパンなんだ。」

スカートのひだを直しながら未夢も居間へやってきた。
彷徨ががさがさとパンを袋から出した。
……………
一瞬パンを見るとふたりは目をそらした。

「あれ〜どうしました?早く食べないと遅刻しちゃいますよ?」

食べ始めないふたりにわんにゃーが問う。

「……これを……喰うのか…?」
「いや…むりでしょ…」
「だからぁ…遅刻しちゃいますよ?」

笑顔のわんにゃーに彷徨はパンを突きつけた。

「……これ喰えばいいのか?」

わんにゃーの顔が青ざめる。

「ひぃぃぃぃぃぃ」

突きつけられたパンには緑色の斑点。

「…かっかびてるみたいですねぇ…。」
「…オレらの朝飯は?」

にっこりと彷徨は微笑んだ。

「…彷徨…怖いよ…」
「あのぉ…えっとぉ…そのぉ…ないです。」

わんにゃーの目が宙をさまよう。

「あっ…ほら彷徨遅刻しちゃうよ。」

未夢がわんにゃーの方に向いた彷徨の視線を引き戻す。

「…………」
「ほ、ほら行こうよ。」

無理矢理未夢は彷徨を引きずって外へ出た。

「……腹減った……」


本日の教訓:梅雨の時期は食べ物の保存に気をつけましょう。


14000ヒットの山稜さんからのリクエスト。「台所での失敗」がテーマでした。
失敗談3連続。こーゆーのは初めてだったのですが…。
どんどん下に行くにつれて駄作度が高くなってるような気が…。
とんでもなく失礼しました。
ちーこは料理嫌いじゃないんですが。
よくやっちゃう失敗が…味噌汁を焦がす事ですね。
冷めた味噌汁を温めなおす時についつい煮立ててしまって、
気付くと味噌煮も通り越して焦げてると。
気をつけなきゃです。

(初出:2002.07)

←(b) →(n)


[戻る(r)]