作:ちーこ
バタバタと廊下走ってくる音が聞こえる。
「ねぇ…こっちとこっちどっちがいいと思う?」
「んぁ?」
ごろんと居間に寝そべっていた彷徨は読んでいた本から目を上げずに答えた。
「ねぇ、どっち?」
「どっちでもいいじゃん、そんなの。」
今度はバタバタと足音が遠のいていく。
「じゃぁコレは?」
「いーんじゃない?」
バタバタバタ
雑誌のページをぱらりとめくる。
また足音が近づいてくる。
バタバタバタ
「コレは?」
「いーんじゃない。」
バタバタバタ
少しずつ足音が荒くなってきた気がしなくもない。
バタバタバタ
「…これは?」
「はいはい、よく似合ってるよ。」
「…………」
バタバタバタバタ
今のは少しまずかったかもしれない。
だが彷徨は未夢を見るわけにはいかないのだ。
……だってデートの時の服なんて…目の前で真剣に選ぶかよ…
可愛らしい行動に照れるらしい。
「これでいい?」
「あぁ、よーく似合ってんぞ。」
雑誌から顔を上げなかったのがまずかったのかもしれない。
今まで照れているからなんて理由で軽くあしらうふりをしていたのが悪かったのかもしれない。
「…彷徨の…彷徨の……ばかぁ!!ばかばかばかばかばかばかばかばかぁ!!
彷徨はわたしに明日のデート一日中このカッコでいろって言うのね?
そうなのね?
寒空の中を一日中、下着でまわれっていうわけね?」
怒鳴る声には少し涙が混ざっていた。
彷徨は雑誌から視線を未夢に移してギョッとした。
本当に下着姿で未夢が立っているのだから。
「っばか!お前なんつーカッコしてんだよ!!」
「…彷徨が…これでいいって言ったんじゃない!!似合ってるっていったんじゃない!!……嘘つき……。」
思わず怒鳴り返した彷徨に未夢はにじんだ目でにらみ返した。
嫌な沈黙が続く。
「…オレが悪かった……真剣に考えるから…」
彷徨の言葉に未夢はこくんと頷くと部屋から出ていった。
「これと、これ。どっちがいい?」
戻ってきた未夢の手には2種類の服。
どちらにしろ未夢にはよく似合うと思う。
…ただ…
「どっちもパス。」
「なんで?なんで、ダメなの?」
…ダメってわけじゃない。
むしろいつでも着てて欲しいぐらいに似合うと思う。
…自分の前では。
「なんで?ねぇなんでってば!」
「……スカート短すぎ。」
2つともそうなのだ。
……他のヤツになんか見せたくない。
「そうかなぁ?…そんなことないよ。」
「短い!」
……こんなに独占欲強かったっけ?オレ。
さりげなく未夢から視線をそらす。
…なんで明日の服は気にするくせに今のカッコは気にしねーんだよ…
「なにか短いと困るようなことするの?」
「いや…そうじゃないけど…。」
「だったらいいでしょ?」
「…………」
「なんで?」
本人を前にしていえるわけがない。
それがいつもクールでとおしてる彷徨ならなおさら。
「ねぇ…なんで?」
未夢がを乗り出してくる。
…ちょっと待て…それ以上は近づくな…
…なんでこいつ上着てねーんだよ…
ヤバイと思わず目をつぶった瞬間。
くしゅん
その後の彷徨の行動は素早かった。
手近にあった自分の上着とって未夢に着せる。
「バーカ。お前が風邪引いたらデートも何もねーじゃん。」
「だって…明日…着るんだよ?…彷徨が気に入った服着たいじゃない…。」
……だからって……真っ赤な顔して…んなこというなよ…
彷徨は未夢を呼び寄せると耳元に微かにささやいた。
そして立ちあがり今から出て行く。
「オレ、どちらかと言えばそっちの方が好きだな。」
次の日のデート。
彷徨の隣にいたのは…ロングスカートの未夢だった。
「昨日の服やめたのか?」
「だって…ヤダって言ったから…」
あれ以来、未夢はミニスカートをはかなくなった。
外では。
なんでかって?
それは…
「…他のやつに見せたくねーんだよ…」
いやぁん、彷徨くんたらなに考えてんのっ。(って言うか私?)
あのですね。オンナノコの名誉のために言っておきますと…そんなに簡単に脱ぎませんよ。
いくら服を選ぶからって…。
もう寝不足で脳がおかしくなってるのかもですねぇ…。もうどうにでもなれって感じです。
(初出:2001年)