作:ちーこ
晴れた日曜日の午後2時。
昼食も食べ終えて、西遠寺には穏やかな時間が流れていた。
ぺらり。
雑誌をめくる音が居間から小さく聞こえる。
特にやることもなくてパラパラと雑誌をめくっているのは未夢。
読書に飽きたのかそのわきでゴロリと寝転がっているのは彷徨。
ぺらり。ぱらぱらぱら
未夢も飽き始めてるのかもしれない。
彷徨がそんな未夢の方をチラリと見た。
「なぁ…ざぶとんとって。」
「彷徨のほうが近いでしょ。」
眠いのらしく彷徨の口調はいつもよりだいぶスピードがゆっくりだ。
「とって。」
「自分でとればいいでしょ?」
「…めんどくさい……ん…あっ…まぁ…これでいいや…」
ゴロン。
彷徨は一度寝返りをうつとポンと頭をのせた。
未夢の膝の上に。
「ちょっかっ彷徨!?何してんのよ!!」
「まくらはしゃべんない。」
あせる未夢にのんびりと彷徨は答える。
「まっ枕って…なな何考えてるのよ!!」
「うるさい。だってざぶとんとってくんねーし。自分でおきるのやだし。」
「だからって!!」
目を閉じて眠る体制に入っていた彷徨が突然目を開いた。
ばちっと目が合う。
未夢の言葉は続かない。
綺麗なダークブラウンの瞳でじっとこっちを見つめる彷徨の視線を未夢は手で持っていた雑誌で遮った。
「んじゃおやすみ。」
未夢の膝の上からすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。
未夢はそっと雑誌を降ろした。
眠っている彷徨の顔はいつもからは想像できないくらい幼い。
未夢の手が彷徨の髪に伸びた。
少しくせっけの髪に手が触れた途端、彷徨が身じろぐ。
あわてて未夢は手を引っ込めた。
それでも彷徨におきた様子はない。
また未夢の手が伸びた。
穏やかな寝顔にかかった前髪をすくと彷徨はくすぐったそうに笑った。
ぽかぽかとした日差しが部屋の空気を和ませていた。
ピンポーン
静寂を破ったのはチャイムだった。
「えっあっ…どうしよう…」
慌てている未夢の膝の上では彷徨が眠っていた。
ガラッと玄関が開く音がする。
「彷徨〜いないのかぁ〜」
聞こえてきた声は毎日教室で聞いている声だった。
「さっ三太君!!」
未夢は勢いよく彷徨をはねのけると玄関に走った。
ごんっ
居間から鈍い音が聞こえた。
「あっ光月さん。彷徨いない?」
「いいいいるけど…今寝てて…。」
あせればあせるほどに未夢の舌の回転は悪くなる。
「何?彷徨具合悪いの?」
「ちっちがっ!そうじゃなくて…」
不満そうな顔をした彷徨が額をさすりながら玄関へ出てきた。
「……何すんだよ……テーブルにに頭ぶつけたじゃねーか…」
「それは彷徨が悪いんでしょ!」
彷徨がむっとより顔をしかめた。
「いきなりはねのける事ねーだろ。」
「だってチャイム鳴ったんだから仕方ないじゃない!」
未夢の顔は真っ赤になっている。
「もっとやさしくおろすとかないわけ?マジで痛いんだけど。」
「…ごめん…どこぶつけたの?」
彷徨はペろっと前髪を持ち上げて額を指差す。
「ここ。」
「あっ…赤くなってる…ゴメンネ…」
未夢は少し背伸びをして彷徨の額を見た。
「あっ…あの…」
「ぁ…三太いたのか…」
声がして初めて彷徨は他に人がいたことに気づく。
「…………オレお邪魔みたいだから帰るわ……」
そう言うと三太は苦笑いしながら外へ出た。
後に残った未夢と彷徨。
ふぁ〜ぁ
「未夢…寝るぞ…」
あくびをしながら彷徨は未夢をまた居間につれてくる。
「寝るぞって…また…」
「…早く…」
されるがままに未夢はまた畳の上に正座した。
仕上げのように彷徨はその上に頭を置く。
「…おやすみ…」
そのあと夜まで眠りつづけてしまった彷徨が、足がしびれて機嫌が悪い未夢に必死で謝るのも、翌日学校でふたりの新婚生活もどきが噂になるのも、今はまだ誰も知らないお話。
あっまぁい…。初めてじゃないですか?私がこんなん書いたの。
自分で書いといて…恥ずかしい…。
17000ヒットのみょうさんからのリクエスト。『膝枕』でした。
私は膝枕されるの大好きなんですよ。
疲れたときには妹にしてもらいます。
もちろんこんなに甘くはありません。(あたりまえ)
というか…すっごい嫌がられるし…(重いらしい)
でも書いてて楽しかったです。
彷徨が全然別人だけど。
まぁ…寝ぼけてたとでも思ってください。
とりあえず一番かわいそうなのは目の前でいちゃつかれた三太だと思います。
やけになって噂にしちゃう気持ちわかるでしょう?(笑)
私枕も好きなんですよね。今ベッドの上に4つあります。
まだまだ増える予定です。
だって好きなんだもん。いいじゃん。
そんなこんなで。
あまあまべたべたでした。
(初出:2002.06)