ちいさな診療所。より

お月さまが見てる

作:ちーこ

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「すっかり遅くなっちゃったね。」

両手に買い物袋をぶら下げて未夢と彷徨は歩いていた。
空には大きな満月。

「最後…かな…。」

つぶやいた未夢は歩みを止めた。
彷徨の返事はなかった。
けれど一歩先で止まって振り向いた彷徨の目はやさしかった。





約束の日はすぐそこまで迫ってきていた。
その日がくれば、その日さえ来てしまえば、
臨時の家族たちは、本来あるべき家族のもとへと戻ることになる。
だからすベてが最後だった。
4人そろっての食事も、
いっしょに買い物に行くことも、
こうやって隣を歩くことでさえ。





「わたしね、ずっと怖かったんだ。」

未夢が言った。

「こういうまあるい月が…満月が…ね。」

彷徨は黙ったまま未夢を見つめていた。

「…ほら、かぐや姫ってあるじゃない?あんな風にるぅくんとわんにゃーが突然わたしたちの前から連れて行かれるんじゃないかって。満月のたびにびくびくしてた。」

未夢は少しうつむいて、笑った。

「あははーおかしいよね。るぅくんたち別に月から来たわけじゃないのに…こんなこと考えるなんて。」

どさっ。
道路の上に買い物袋が2つ。
乾いた笑いを続けている未夢を彷徨は抱き寄せた。

「無理すんなよ。無理して笑ったりすんなよ。…お前が泣いてんのも見たくねーけど、そーやって笑ってんのもヤダ。オレら家族だろ。」

どさっ
道路の上の買い物袋が2つ増える。

「……やだよ…離れるの…みんなでずっと…一緒に…いたいよ…」

しゃくりあげながら小さく言った未夢の頭を彷徨は優しくなでた。





「ものは考えようだろ?」

大分落ち着いてきた未夢に彷徨が言った。

「月から地球で、日本でどうなってるのかがわかったからかぐや姫も月の奴ら迎えに来られたわけじゃん?」

彷徨は続けて言った。

「ってことはだ、月からは月からは地球が見えてるってことになるだろ?オレたちも地球から月が見えてる。」

こくんと未夢がうなづく。

「おあいこだろ?ブラジルなんて月よりずっと近いのにここから全然見えないんだぞ。なのに月は毎日見えるだろ。遠いけど毎日見えるだろ。」

未夢は目を見開いた。

「まぁ…るぅたちが帰るのは月じゃないけどさ。わんにゃー言ってただろ、地球とオット星の気候は似てるって。もしかしたらオット星にも月…みたいな星あるかもしれねーし。同じものじゃないけど、一緒に月は見れることには…んだよ」

いつのまにか未夢は笑い出していた。

「彷徨すごいなーって。わたしには思いつかないもん。」
「あのなぁ…オレはお前の…なんでもない…。」

ぷいっと彷徨は目をそらして買い物袋を持つと歩き出す。

「ありがとね…元気出た。そうだよね…離れてても…家族だもんね。」

ちょっと急いで追いついた未夢に彷徨はうっすらと頬を染めた。

「…もう…いい…。ほらさっさと帰るぞ!!」
「はぁい。…ねぇ…彷徨って…意外と…ドリーマーなんだね。」
「ばっか!そんなんじゃねーよ。」

なかよく歩いていくふたりを月は静かに見つめていた。


12345ヒットのあくあさんからのリクエスト「満月の夜」でした。
すっごいダメダメです。
思ったとおりの文章が書けない…。
もっと書きたいことあったはずなのにうまくまとめられなくて。
はぁ…そういえば最近月見てないですね…月が出てる時間に帰宅してるはずなのに…。
てか…だぁファンサイトで彷徨をここまでこき下ろせるのはうちだけじゃないかなぁとある意味誇ってみたりして…自慢にもなりゃしない…。うちの彷徨が情けないだけですね…。はぁ (初出:2002.05)

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