作:ちーこ
キーンコーンカーンコーン
待ちに待った授業終了のチャイムに、静かだった教室がざわめき始める。
「おい、未夢。お前給食当番だろ!」
「あっ、そーだった。ごめーん。」
パタパタと急いで準備に取り掛かり始める。
「いただきまーす。」
ほんじつのめにゅうvv
ごはん
とーふのみそしる
さばのみそに
さくらんぼ
ぎゅうにゅう
いじょう。
「なぁなぁ、昨日の『ザ・とーふ王国』見た?あのベーコンととーふの熱いバトル!!そして絶妙なタイミングでのスキヤキノタレの登場!!ホント何度みても泣けるよ、あのシーンは。あっ録画してあるんだけどね。それでさぁあのトリのエンディングも最高なんだよ。なんていうかさぁ人生の厳しさっていうか、日本人のわびさびっていうか、う〜ん…人間のあるべき姿を考えさせられるっていうのかなぁ…。」
「三太。うるさい。」
食事が始まってから閉じることのなかった三太の口を一言で遮る。
「かぁなぁたぁ…ひでぇよぉ…」
「うるさい。」
その向かいでは女の子4人組がきゃぁきゃぁと騒ぎながら話している。
「昨日、駅前にできたケーキ屋さん行ったんだけどさ、そこのチェリータルトホントおいしくてさ〜。」
「えぇ〜。あそこななみちゃん行ったの?いいなぁ…ねぇ今度一緒に行こうよ〜。」
「そういえばさ…さくらんぼで思い出したんだけど…。」
綾に視線が集まる。
「なになに?」
「さくらんぼのくき、口の中で結べる?」
「くき?」
「そう。さくらんぼのくきをこんな風に口の中で結ぶの。」
綾はくるんと指でさくらんぼのくきを結んでみせた。
ちょっとした興味に未夢たちの指がさくらんぼに伸びる。
むごむごむごむごむごむごむご
「無理〜。」
「わたくしも無理でしたわ」
「あたしも」
ギブアップ宣言がそれぞれの口から吐き出される。
「ん〜やっぱ無理かぁ…まぁ中学生だしね…。」
「なによ、綾。その中学生だからって…」
「まぁまぁ、西遠寺くんたちもやってみてよ。」
視線が向かい側に移る。
その言葉に彷徨と三太がさくらんぼに手を伸ばした。
「で、できたらどうなるの?」
「あせらない、あせらない。どう西遠寺くんと三太くんできそう?」
「ん〜無理っ!」
「ほら、三太くんもできてないんだし…教えてよっ!」
「えっとぉ…口の中でさくらんぼのくきを結べる人は…」
「できた。」
綾の言葉が遮られた。
ペロンと彷徨が舌を出して結ばれたくきを見せる。
「すごぉ〜い。彷徨できてる!!」
「そんなに難しくねーんじゃね?」
「えーっ無理だよぉ。」
また彷徨はさくらんぼを摘み上げると口に含んだ。
「〜ん〜ほらっ。」
コツをつかんだのかさっきよりもだいぶ短い時間で出来上がる。
「未夢ちゃんちょっと…。」
まだ興奮している未夢の耳元で綾がささやいた。
「何?」
「…西遠寺くんって…どうなのよ…」
「どぉって…何が…?」
質問の目的語が抜けている。
「キス。やっぱ上手いの?」
未夢が固まった。
「なっ、何言ってんの!?し、知らないよ!」
「しらばっくれちゃってぇ。」
「知らないってばぁ!!」
未夢は真っ赤な顔で言い返す。
「なぁ…結べるとなんなわけ?」
彷徨が小声で未夢に何か言っている綾に問い掛けた。
「キスが上手い人。」
「はっ?」
「だから〜さくらんぼのくきを口の中で結べる人はキスが上手な人なんだって。」
「へぇ…彷徨ってキス上手いんだ…よっさすが天然タラシ!」
「知らねーよ、そんなん。」
彷徨に聞いても埒があかないと三太は未夢に向き直る。
「なぁ、彷徨ってホントにキスうまいの?」
「しっ知らないよ!」
「またまたぁ、ふたりとも赤くなっちゃって怪しいなぁ〜」
きょろきょろとふたりを見比べる。
「未夢ちゃんと彷徨くんはなっかよっしさぁん。
『おはよう、未夢』
『おはよう、彷徨。』
毎日毎日毎日毎日、目覚めは熱いキッスから。そして朝ごはん。
『ハイ、彷徨あ〜んv』
『うまいよ未夢。』
『ホントに?』
『ホントに。あっ、そこになにかついてるぞ。』
『えっ、どこ?』
『ここ。』
未夢ちゃんの唇にかる〜いキッス。その口付けはどんどんどんどんどんどんどんどん深くなっていく。学校ではそんなそぶりも見せないくせに、家では新婚さんもびっくりのちちくりあい。
『ねぇ…彷徨…上手なキス…教えて』
『あぁ…未夢になら全部教えてやるよ。一晩中かかるけど…それでも…いいか?』
『彷徨と一緒にいられるなら何日だってかまわないわ。』
連れ立って寝室へと歩き出す。
『彷徨…やさしく…してね』
甘い声でしなだれかける未夢ちゃんに彷徨くんは愛撫で答える…そして…」
「ってゆーか西遠寺くんってやっぱり経験豊富ってことだよね?」
「だってこの顔でしょ…?いくらだって相手いるじゃん。一晩だけの関係〜とかありそうじゃん。」
「うんうん。それいい〜。次のネタにしよ〜っと。」
「あのなぁ〜お前ら…」
きゃぁきゃぁと騒ぐななみと綾を彷徨が呆れ顔で眺める。
「ごちそうさま。」
突然未夢が食器を持って立ち上がった。
「未夢ちゃん?」
そのまますたすたと歩き出す。
「えっ、あっちょっと…未夢ちゃん!」
ななみと綾は慌てて未夢を追いかけた。
「西遠寺くんがそんな人なわけないじゃん。冗談だってば。」
そのまま教室後にして、3人は少し離れた廊下の壁に寄りかかった。
「さぁねぇ、あの顔だし。街歩けばすれ違った女の人必ず振り向くようなやつだし。」
「未夢…。」
あさっての方向を向いた未夢は、話し掛けるななみに目を合わせようとすらしない。
「経験だって豊富なんじゃないのっ!」
「ねぇ、西遠寺くんがそんな事しない人だって未夢ちゃんが一番よくわかってるでしょ?さくらんぼのことだって、ただの噂だし。全部が全部そのとおりってわけじゃないよ。」
「…綾ちゃん…」
未夢が綾を見る。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「そうそう、それに西遠寺くんなんて好きな子にすら手ぇだせない、奥手なんだかムッツリなんだかヘタレなんだかよくわかんないやつだし。だからジョークになるんじゃない。望くんとかに言ったらホントしゃれにならないじゃん。」
「…ななみちゃん…それ…フォローになってないって…」
「そう?事実じゃない。だって同棲してるのに」
「同棲じゃなくて、ただの居候。ったくだまって聞いてりゃ勝手なことべらべらしゃべりやがって!」
ななみの言葉を遮って彷徨が来た。
「…彷徨…」
「あ〜ら、ヘタレの西遠寺くん、女の子の会話を盗み聞きするなんて…やっぱりムッツリだったのね!!」
わざと芝居がかった口調でいうななみに彷徨がこぶしを握り締めた。
「天地…お前けんか売ってんの?」
「そんなとんでもなぁい。我が校きっての美少年西遠寺彷徨くんにけんかを売りつけるなんて恐れ多い。あたしからお金払ってでも貰って頂かなくっちゃ。」
「…………」
「まぁまぁ、西遠寺くんも落ち着いて、落ち着いて。そんなこと言いに来たんじゃないんでしょ?」
笑顔のななみと無言の彷徨のなんとなぁく険悪な空気に綾が割ってはいる。
「ほらほら、まだ西遠寺くんのお姫様は不機嫌みたいだよ。」
その言葉に、彷徨は体を未夢に向けなおす。
「未夢。」
彷徨はそっぽを向いた未夢にゆっくりと近づく。
「なによ。」
彷徨はやさしく言った。
「お前が機嫌悪いの…オレの所為なら嬉しいんだけど。」
「…ち…ちがうもん…」
視線は合わせないものの、未夢の頬がかすかに色づく。
「まぁ…いいや…。未夢…ちょっと…こっち」
未夢の腕をつかむとぐっと自分のほうに引き寄せた。
一瞬だけ、ふたりの影が重なった。
そして彷徨は未夢の耳元で小さく小さくささやいた。
「これがオレの精一杯。カッコ悪いけど。」
ポンと未夢の頭を触るとそのまま彷徨は歩き出した。
「ちょっと〜なによあれ〜!!西遠寺くんめー!!簡単に未夢に手ぇ出したりして!!大体順序ってもんがあるでしょーが!やっぱり西遠寺くんってムッツリじゃない!!」
「まぁまぁ。でもまぁ…あんなに真っ赤になった西遠寺くんはじめてみたかも。それに未夢ちゃんも喜んでるみたいだしね。」
「喜んでるっていうか…固まってない?」
「まぁ…こんなに真っ赤になっちゃってかわいーじゃないの。」
きーんこーんかーんこーん昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴りはじめた。
開いた窓から入ってくる風は教室に残るかすかなさくらんぼの香を揺らして通り過ぎていった。
11311ヒットのた〜りんさんからのリクエスト「彷徨と未夢の初キス」でした。
ちーこはこのサイトで…初キスを何度書いたのでしょう…。既に初なんて初々しいきもちなんか…(爆)
最近文章絶不調。ネタはあるのにうまく文章にならない。
はぁぁぁ〜。
コレは…ホントは某名探偵とその幼馴染の空手少女とそのお友達の財閥のお嬢さんで
書こうと思ってたネタなんですよ…。
だからなんとなく自分で書いたくせに違和感ありまくり。
って言うかうちの彷徨がどんどん本物とかけ離れていくような気がします…。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
どうしたものやら。
今回のクリスちゃん、さらりと無視されてますが…結構あれ書くの大変なんです…
すっごい体力使う…最近パターン化してきてる気がするけど…ぐへぇ…
しかし…コレで年齢制限なしって言ってるんだから意外と私は度胸あるのかもしれませんね…。
お約束ネタでゴメンなさいでした。
ちーこはもう5年ほど給食と離れた生活をしてるので…今どんなメニューがでるのか知りませんですのでそこはツッコミ不可。
でもさくらんぼが出た事はなかったきがします(爆)
(初出:2002.05)