作:ちーこ
「ねぇ、彷徨。ビデオ借りてきたんだけど、一緒に見ない?」
そう誘われたのは土曜の夕食の後。
特にやることもなかったから、たまには悪くないかなと思った。
「何を見るんだ?」
おもしろくない。
非常におもしろくない。
…ビデオはおもしろいのかもしれない。
となりでは未夢に抱かれたルゥがきゃっきゃっと歓声をあげている。
おもしろくない。
…おもしろくないのは…未夢が何気なく呟いた…あの一言のせいだ。
「…かっこいいよねぇ…」
簡単のため息とともに吐き出されたその言葉。
視線の先にいるのは主人公の仲間。
多分…こいつのことだから…無意識なんだとは思う。
ただ…あんまりなんじゃないかと…思ってしまう。
そこから先のストーリは全然覚えていない。
自分でもバカらしいと思う。
画面の中のヤツに嫉妬するなんて。
…でも…しゃーねじゃん…惚れてんだから
「おもしろかったね〜」
「別に」
満面の笑みを浮かべる未夢に思わず返す言葉にトゲがこもる。
「…おもしろくなかった?」
「別に」
「おもしろくなかったら、無理して最後まで見なくてもよかったのに。」
「別に」
なんだかいらいらしていて何を考えるのも億劫だ。
「なんで、『別に』しか言わないの?」
「べ…」
別にと言おうとして、口をつぐむ。
「…怒ってるの?」
「…怒ってない。」
やっぱりぶっきらぼうな答え方しかできない。
「やっぱり怒ってるじゃん。…わたし、何かした?」
ちょっと上目遣いに覗き込む顔が可愛くて…体中がうずく。
誰にも渡したくない
もしそのためにヒーローを敵にまわすことになるならば
喜んでオレは悪になろう。
それで、こいつがそばにいてくれるのなら。
「どーしたの?」
じーっと大きな目で覗き込まれる。
「やっぱり…わたし…なにかした?…彷徨、ビデオ見てる途中から機嫌悪かったじゃない。」
画面に集中していたとばかり思っていた未夢がオレの変化に気がついていたことに驚いた。
「ねぇ…どーしちゃったの?」
「お前が…ビデオ見ながら…かっこいいって言うから…」
言うつもりはなかったのに…なぜか出てきてしまった。
未夢が、ポカーンとした顔でこっちを見ている。
こんなこと言われるなんて思っても見なかったんだろう。
オレだって…思ってなかったんだから。
未夢が突然笑い出す。
「…じゃぁ…彷徨って…もしかして…やきもち…やいてたの?」
馬鹿笑いされて…ちょっと…腹が立つ。
「…悪いかよ。」
「全然。」
さらっと返される…こういうときは…どういえばいいのだろう…
「で?」
「…で?」
言いたいことが…伝わらない
「だから…」
「…だから?」
……やっぱり…こいつには…ストレートに聞くしかねーのか…
「…あーゆーののほーが…すきなのか?」
…言ってからやっぱ後悔。
微妙な間が身にしみる。
「ちがうちがう。確かにあーゆーのはカッコイイと思うけど…でも、好きになるかっていうとそーでもないんだよね。」
……?
「だって…あーゆー人の恋人とかになったら毎日不安でしょうがないじゃない?」
「…不死身じゃん。」
思わずつっこんだオレにびっくりしたような顔をして未夢が尋ねる。
「…不死身なの…?」
…いや…知らないけど…
「だって…死んだの見たことねーし。」
「…それは…わたしだってないけど…死んじゃったらシリーズ続かないじゃん!!」
…論点がずれてる…オレは別に…不死身かどうかを話したかったわけじゃないんだ…
「…そーじゃなくて…あーゆーのが…好きなわけ?」
「だぁかぁらぁちがうってば!!あーゆーのはよくいえばフェミニストだけど、結局はただのタラシじゃん。…でも女の子としては…ちょっとそーゆーのにも憧れるかなぁ…みたいな?」
「憧れ…てんの?」
「まぁ…ね。ほら、白馬の王子様みたいなのって憧れるじゃない?望くんみたいな。」
…光ヶ丘…?
オレと正反対じゃねーか…
「あっ…憧れてるだけだからね?…それにわたしにはもうカッコイイヒーローがついててくれるしね。」
ピッと目の前に人差し指を差し出される。
そのままぽんっと鼻の頭に触れて。
「じゃぁね!おやすみ!」
バタバタとすごいスピードで遠ざかっていく未夢の背中をを見送る。
触れられた鼻の頭が熱い…
巻き戻しの終わったテープをデッキが吐き出す。
ビデオをケースにしまいながらあいつの顔を思い出した。
白くて真四角なライバルの顔を
ルゥがふぁふぁと飛んできたかと思うと、掛け声とともに、オレに勢いよく体当たりをした。
「あんあーんち!!」
ルゥはえらくこれが気に入ったらしい。
…また…ビデオ借りてくんのかな…
これからのことを考えると…憂鬱な気分になる
オレは未夢を守りきれるのだろうか…
フェミニストもといタラシのヒーローの魔の手から
なんかギャグだかなんだかって感じです。わけわかんないですね〜
ここまで読んだ方分かったでしょうか…彷徨君のライバルが誰なのか
某パン戦隊(爆)のしょく○んまんさんです。
私としては彼は結構結構好みのタイプではあるのですが…。
でもやたら女の子にやさしいのはあれですね。
って友達と話してて思いついた取り留めのないお話。
これはライバルを明かさないことで彷徨君の威厳を保とうと…
っていうか…未夢ちゃんのほうが恋愛経験ありそうで…
なんとなくいただけない…。
たいそうな名前付けてみたけど…どうなんだか…。
(初出:2002.04)