作:ちーこ
ぶるるっ。
ポケットに入ったケータイが震えた。
先生が黒板に一生懸命図を書いているのを確認して、そっと取り出す。
「メール着信がありました」
ボタンを押してメールを表示する。
送信者 西遠寺彷徨
ほころぶ口元をおさえてメールを読む。
いま何してんの?
オレ今自習。
課題終わったし。
マジでつまんない
些細なことでメールをくれる。
中学の時は彷徨がこんなにまめなタイプだと思ってなかった。
時々授業中に届くメール。
机の下でそっと返事を打つ。
わたしは今数学。
もう関数ってわけわかんないよ〜
なんでこんな変な形のグラフになっちゃうわけ〜
送信を押してチラッと顔を上げると先生がこっちを向きかけていた。
あぶないあぶない。
またぶるるっと振動。
先生の見てない隙を見計らって画面を覗く。
じゃぁ、今日オレのとこ来いよ。
教えてやるから。
今日予定ある?
すぐに返ってくる返事。
よっぽどヒマなんだなぁなんて思ったりしてみるけど
やっぱり嬉しくて。
行く〜。
今日?あいてるけど…何かするの?
はやく彷徨を感じたくて
メールはどんどん短くなっていく。
オレとデート。
嫌なら別にいいんだけど。
ちょっとからかうような口調までリアルに想像できる。
放課後まであと30分。
ホントに?どこ行くの?
はやく授業終わらないかなぁ〜
みんなが問題を解き始める。
一応、シャープペンは握ってみるものの、どこを解いているのかさえわからない。
考えとく
授業終わったら電話よこせよ。
すごぉく長く感じた授業が終わって。
電話帳の1番に入っている番号を選ぶ。
とぅるるとぅるる
呼び出し音が長く聞こえる。
『もしもし。』
ケータイから聞こえる彷徨の声が。
朝会ったはずなのに懐かしく聞こえる。
「もしもし、わたし。今授業終わったとこ。」
『オレも今終わった。』
彷徨の後ろのざわざわが聞こえる。
まだ教室にいるみたい。
「う〜ん…45分ぐらいでいけると思う〜」
『わかった。んじゃ、いつものとこな。』
「うん。じゃぁね〜」
切れた電話から聞こえてくる電子音がさみしい。
はやく会いたい。
彷徨に会いたい。
急いでカバンに荷物を詰めて。
時計を見ればもうすぐ電車がくる時間で。
走って駅のホームに滑り込んだ。
バッチリなタイミングできた電車に乗り込む。
この時間がもどかしい。
中学まではなかったこの距離。
高校生になって。
今まで隣にいた人がいなくなった。
いなくなったわけじゃなくて。
自分の進むべき道を見つけたわけだけど。
でもやっぱり寂しくて。
家は隣なんだから、いつでも会おうと思えば会えるけど。
でもやっぱり寂しくて。
ふたりで一緒にケータイを買った。
そしたら、淡白だと思ってた彷徨からのメールが多くて。
新しい一面を知った気がして。
ちょっとうれしかった。
電車がホームに入って止まる。
時計を見てもまだ待ち合わせには時間がある。
改札を抜けるとトイレに入る。
鏡の前に立って。
少しだけグロスをつけてみる。
髪型もヘンな所がないかチェックして。
待ち合わせは駅前の時計の所。
彷徨がいた。
走って彷徨に駆け寄る。
「はやかったじゃん。」
にこっと笑顔で言われて。
「会いたかったんだもん。」
素直に答えてみた。
彷徨の顔がちょっと赤くなって。
「彷徨、照れてる〜」
「うるせっ」
すごくしあわせな時間。
と言っても、家に帰るまでの寄り道みたいなデートだけど。
彷徨の隣にいられるだけで
すっごくしあわせなこの時間。
麻衣さんからのリクエスト。「高校生になったふたり」でした。
未夢ちゃんの一人語り。
メール。ちーこはめんどくさいので、よっぽどのことがないと送りません。
だってケータイってうちにくいんだもん…
バイブ。あれって授業中聞こえますよね…。
先生も「今誰かのケータイなってるぞ〜」とか言い出しますし。
ちーこは彼氏経験がないので世間一般の人たちがどんなメールをやっているのか知りませんが。
こんな感じでどうざんしょ?
(初出:2002.04)