作:ちーこ
「僕たちは、この学校を卒業できたことを誇りに思い…」
壇上から聞こえてくるのは彷徨の声。
3年間すっと主席だって言ってたし。
卒業。
そんな言葉はまだ遠いものだと思っていた。
ずっと変わることがないと思っていた。
みんなとずっと一緒にいられると思っていた。
2年間の思い出しかないけれど。
その2年間はわたしの一生の中できっと一番思い出深い2年間になると思う。
彷徨に、るぅくんに、わんにゃーに、そしてみんなと過ごした時間だから。
「卒業証書授与」
先生の声が体育館に響く。
名前を呼ばれた順に証書をもらう。
まだ実感が湧かない。
「黒須 三太」
「はぁ〜い」
いつもどおりの間の抜けた返事。
会場から笑い声が聞こえる。
三太くんは陸上の推薦でスポーツ高校に行くと言っていた。
「3年間ありぁとーございましたぁ!!」
大きな声と共に壇上から飛び降りる。
三太くんらしい。
「西遠寺 彷徨」
女の子が歓声をあげる。
彷徨らしいというか…なんていうか…
それに動じないあたりさすがだなっていうか
彷徨は…公立高校で結果はまだ出てない。
まぁ…あの彷徨だから心配することはないと思うんだけど。
推薦受けるのかと思ってたら、オレはまだ余裕あるから余裕ないやつにまわしてやった、とのこと。
ホント余裕。
「光ヶ丘 望」
突如としてバラの花びらが会場中に舞いはじめる。
「ヘイ!マドマァゼル。僕が卒業してしまうからといって、そんなに悲しまないで。君たちに涙は似合わないさ。さぁみんな笑って。」
…これは…もう…いつもどおりっていうか
さすがっていうか…予想どうりっていうか
…ねぇ
望くんは去年まで女子高で今年から男子も受け付け始めた私立高校に行くらしい。
そんなに女の子が好きかねぇ…望くんらしいけど。
「光月 未夢」
わたしの名前。
卒業…しちゃうんだ…。
「はい。」
壇上にのぼる。
卒業証書にはわたしの名前。
卒業…なんだ。
わたしは…まだ高校が決まっていない。
彷徨と同じ公立高校を受けたんだけど…手ごたえは…まぁ…やっぱちょっときついかなって感じで。
そうすると私立の女子校に行くことになるのかなぁ…。
…彷徨と離れちゃうのかなぁ…
「小西 綾」
綾ちゃんは文芸学科のある高校を受験した。
県外の。
離れ離れになっちゃうね。
突然綾ちゃんが壇上のマイクを奪った。
「みんなぁ〜3年間ありがと〜。みんなと一緒に過ごせて楽しかったよ〜」
マイクを戻すときっちり礼をして壇から降りる。
綾ちゃんは劇作家になるための道を進んでいく。
「天地 ななみ」
ななみちゃんは理系の高校。
だだだっっと一気に壇上に上がるとそのまんま叫んだ。
「卒業おめでと〜!!その勢いで未夢と西遠寺君くっついちゃぇ〜!!」
はっ?
そして何事もなかったかのように証書を受け取ると壇から降りる。
…視線が痛い…それでなくても彷徨はもてるんだから…
こーゆー場所で…後輩もいるのに…
顔が赤くなってる…絶対…熱いもん。
ちらりと彷徨のほうを見たら眼が合った。
なんとなく気まずくてすぐ目をそらしたけど…
彷徨も赤かった。
「花小町 クリスティーヌ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
この音は…また…わたし…彷徨に何かしましたか…?
「じーっと見つめあっちゃって…『未夢…天地あんなこと言ってるけど…』『わ、わたし、彷徨だったら別にいやじゃないよ』『オレだって未夢なら…』『彷徨っ!』『未夢っ!』なぁんてなぁんてアイコンタクトしてるのなんかお見通しですわよっ!」
…してないんだけどなぁ…
「そーですわね。ふたりで同じ高校で卒業と同時に結婚。そして楽しい楽しい新婚生活。『彷徨、彷徨の好きなハンバーグ作ってみたの。』『どれどれ』『はいあ〜ん』『うまいじゃん』『えっ…ホントに?』『でも…オレは…ハンバーグよりもっとおいしいもの食べたいな…』『…彷徨?』『未夢、部屋行こうぜ』『ちょっと彷徨、まだお昼なのよ』『未夢、オレのこと嫌い?』『そんなこと…ないけど…』『いいだろ?』部屋へうつる彷徨くんと未夢ちゃん。『彷徨…こんなに明るいの…恥ずかしいよ』『オレは全部見たいんだけど。』彷徨くんの指が未夢ちゃんのボタンにかかる。」
ちょっと…まってよ…なんでそういう方向に行くかなぁ…
「そして…ふたりは…」
「おじょうさま。鹿でございます。」
「あら…わたくしってば…」
「花小町 クリスティーヌ!!」
…どうせなら…鹿田さん…もうちょっと早く止めて…。
っていうか…クリスちゃんのせいで誤解が広がってる気がするんだけど…
もぉやだぁ…さっきより顔赤くなってる…べ、別に、やましいことがあるわけじゃないけど!!
っていうか…わたしがやるならハンバーグじゃなくて、かぼちゃだしって…そーゆーつもりは全然ないのに…やばいなぁ…わたし
上品に礼をして証書を受け取ると壇から降りる。
クリスちゃんは超名門の女子校に推薦で決まっている。
いろいろあったけど…やっぱり離れるのは寂しいよね…
「僕たちは、この学校を卒業できたことを誇りに思い…」
壇上から聞こえてくるのは彷徨の声。
ずっと隣で聞いていた彷徨の声。
心地のよいテノール。
「卒業生代表 西遠寺 彷徨」
卒業式が終わった。
「西遠寺センパーイ。ボタンくださーい。」
神妙な雰囲気もあったもんじゃない。
それもこれも全部彷徨のせい。
彷徨がやたらもてるから学校中の女子生徒が…先生も数名いるけど…が押し寄せてきた。
「うわっ、ちょっ、やめろって」
彷徨は恋する女の子の力を過小評価しすぎてる…。やめろって言われて止まれるようなものじゃない…。その辺はクリスちゃんのでわかってると思ってたんだけど…甘かったかなぁ…
…やっぱりこーゆーのは見てて気持ちのいいものではない…
「みーゆっ。また西遠寺君のこと見てるの?」
「ななみちゃん!!」
「べ、別に…」
「はやくななみちゃんのいうとーりくっついちゃえばいいのに。」
「綾ちゃんまで…」
こんなやり取りをするのもあとわずか。
そう考えたらちょっと涙が出てきた。
「卒業してもまた会おうね。」
綾ちゃんの言葉に頷く。
「今まで見たいに毎日ってわけには行かなくなるかもしれないけどさ…あたしたち親友じゃん。」
ななみちゃんの言葉にぼろぼろっといままでくすぶっていた涙があふれてしまった。
「卒業しても今までどおりだよね。」
「未夢。オレそろそろ帰るけど、お前どーする?」
「あっ、ならわたしも帰る。」
そういう彷徨の制服は…ボタンが1個もなくて…
ちょっと…第2ボタン欲しかったなぁ…なんて残念に思ったりして。
ふたりで毎日通った通学路を歩く。
もうこの道を毎日通ることもなくなる。
「卒業…しちゃったね」
なんとなく呟くように彷徨に話し掛けた。
「まぁな。オレらも高校生か…。」
「そだね。」
「あれっ?お前も高校生になれんの?」
……そーゆーこと言うんですか…
わたしだってね…彷徨と一緒の高校受けるのに頑張ったんだからね!!
恨みがましい目で見つめたらぽんぽんと頭を叩かれた。
「はいはい。ゴメンナ。」
なんか余裕のある表情が悔しい。
「あっ、そうだ。これ、お前にやるよ。」
差し出された手には…ボタン
「…これって…」
「やるって言ってんだから素直に受け取れ」
「…ありがと…」
彷徨耳まで赤くなってる。わたしもだけど。
「ほら、早く帰るぞ。今日はわんにゃーがお祝いにかぼちゃ料理作って待ってるって言ってたからな。」
「うそぉ、こんな日までかぼちゃ?信じらんない!!」
「お前今かぼちゃを馬鹿にしただろ!?」
「別にしてません〜!」
「いや、絶対した!!」
「してないってば。かぼちゃ料理楽しみだなぁ〜。」
わたしたちはそれぞれの道を歩き始める。
その道がどんなふうに曲がっていくのか、見当もつかないけど
このまま隣にある道に重なるっていうのも
ありえないことではないかなぁと思ってみたりもするけれど
そんな日がくるまでは
自分で歩いて道を探していかなくちゃいけない
曲がっていても
でこぼこでも
いつの日かその先で
あなたに出会うことができるのなら
わたしはその道を歩いていける
卒業式の季節ですねぇ。ってことで卒業式です。(まんまかよ…)
結局は最後のボタンが書きたかったわけなんですが…
途中クリスちゃんにのっとられました…
なんか最近彼女が出てくると話がやばい方向に言っちゃいますね〜。
まぁここは18禁サイトじゃないんでそーゆーことはさせませんが…。(爆)
しかも最後のほう…某○空ひばりさんの有名な「川○流れのように」みたいな?
どうなんでしょう…めずらしく…なんにも考えないで書いたんで…
(いつもはいっぱい考えてあの程度なんです!!)
でも男の子ならともかく女の子で証書授与のときに騒ぐ子って珍しいよねぇ…
最近敬語がMyブーム。なんかつっこむ時とかに敬語になりますね。
家でも時々敬語使ってる…
ちょっと今回の未夢ちゃん敬語使ってる所は…私のくせです。
題名の「みちなるみち」は「道」と「未知」と「満ち」掛けてあるらしいですよ。(他人事?)
どのふたつが入るのかは読んだ方のインスピレーションにお任せします。
とか何とか言って自分でもどれが入るのかよくわかんないだけだったり。
(初出:2002.03)