君といた未来のために〜I’ll be back〜

act.2

作:友坂りさ

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「・・・ね、彷徨。今日帰ったら、さ・・・クリスマスの準備してもいい?
・・・・・・いい?
あ、もちろん、彷徨には迷惑かけないからっ!ルゥくんたちとちょっとだけ気分味わうだけだからっ・・・」



まだ“中学生の”未夢が隣にいることが信じられないまま、俺はとりあえず、部屋に置いてあった学ランを着て、「あのころ」、のように未夢と二人で学校への道のりを歩いていた。



なぜ、未夢がこんな恐る恐る、といった聞き方をするのか。
きっとそれは当時の俺自身に責任があるのだろう。



あのときの、俺は。


未夢やももかちゃん、そしてルゥ達がクリスマス、とはしゃいでいたのに、親父の変な言いつけを守って、そうやってはしゃぐことを拒んでいたからだ。


今となっては何だかちょっと笑えるのだが。
俺は自然と笑みをこぼしながら、未夢に向かって言う。



「くっ・・・あははははっ・・・・・・ああ、いいぜ。ついでに、どっか安くても、ちっちゃくてもいいから、ツリーでも買いに行くか?今日どうせ早いし」



「えっ?・・・彷徨も・・・っ?」



俺の意外な反応に、未夢は目を丸くしている。
このときの未夢の驚いた顔といったら。

 いったい、中二の俺はどんな風に前日まで未夢に接していたのだろう。


きっと、今更といったことや、・・・照れや、恥ずかしさなども先行して、未夢の気持ちもわかっていながらどこかで知らないふりをしていたのだろうか。


俺自身のことなのに、一日一日の、そのときの気持ちが思っていた以上に思い出せないのが、悔しい。


結局あのときもクリスマスはしたけれど。
こんなふうに、素直にはなれていなかった・・・と思う。



「ほんと・・・っ?だ、だって彷徨、この前まで興味ない、っていってたよね??何で??何で〜?・・・だけど、嬉しいな〜!!うんっ、買いに行こう!!今からでも、全然遅くないよねっ!!」


とたん、未夢が笑顔になって。
ふわっ、と嬉しそうに笑う。





・・・ああ、これだ。

心臓がぎゅっ、となる。
懐かしい痛み。



想い焦がれた未夢がここにいる。

なぜ、こんなことになったのかはわからないが。


今だけはこの「偶然」の奇跡に、感謝したい。


このまま、四年前に戻ってしまっても。
いいかもしれない、なんて思う。






◇◆◇

「おっす、かなたぁ〜!!今日は終業式だなっ♪明日から休みだぜぇ〜♪これでめーいっぱいトリのレコード聴かせてやれる時間ができるなっ♪俺んちいつでも来ていいからさっ」



教室に行くと、今でも親友をやっている 三太が早速声をかけてきた。



・・・やっぱり、どことなくあどけないよな。
だけど、基本的にこいつは変わっていないな。
俺のいる世界でも、こいつは今でも同じこと言ってるし。




         今の未夢は知らないから。

――――“中二の未夢”と、“高三の未夢”を比べることはできないけど。







「未夢ちゃん、おはよう〜」
「おはよっ、未夢」


未夢の親友。
天地や小西も俺達のそばにやってきた。



そういえば。こいつらもどうしているだろう。


けっこう、天地と 三太もいいコンビだったと思うんだけど。
今連絡とってるなんて、聞いたことないし。



(って。俺何こんなことまで考えてるんだ?)



ありえない、「四年前」の世界に来ているからなのか。
当時は見えなかったことが今ではこんなに冷静に見えてくる。

もちろん、俺自身の気持ちも。






「やあっ、みゆっち〜、おはよう〜!!!今日もとっても綺麗だね〜!!
寒さでその白い頬がほんのり赤く染まって、まるで冬の妖精のようだよ〜!!!マッベビドンケ〜〜!!!」


(でたなっ、・・・ってか恥ずかしいヤツ・・・)


光ヶ丘望。

転校初日からこいつは未夢にちょっかいをだしていた。
なぜだか、俺をライバル視して。


そういえば、こいつは今はさらにパワーアップして高校でもマジックショーやってるよな。
腐れ縁なのか、 三太も、俺も、こいつも高校一緒だし。



「お、おはよう、望くん」


未夢はずずいっ、と迫ってきた望から離れようと身をよじらせている。




 ・・・あの〜、気に食わないんですけど〜。





「・・・光ヶ丘。あいかわらず、この頃から変わらないな〜」


あまりに未夢に接近するのが気に食わなくて。
周りからは意味不明の、言葉を交わしながら。

自分でも無意識に、未夢の肩をつかんで、自分のほうに引き寄せながら、光ヶ丘を睨んでいた。
そんな俺をみて、周りからきゃあ、と叫ぶ女子達の声が聞こえた。



だけど。そんなこと関係ない。
だって、これは今、じゃないし。


そのまま未夢の肩を抱いて、彼女の頭を自分の胸のほうに引き寄せる。



「やあっ、西遠寺くん、おはよう。・・・ふふふふふ。そうなんだね〜、ようやっと素直になったんだね〜、
僕も嬉しいよ〜。だけど、みゆっちはそう簡単には渡さないからね〜」



(なんだ・・・?)



望はそういうと、体をくるくると回転させながら、また別の女子のところへいって、バラを渡していた。




(こいつ、・・・気づいてたのか)



急に、かあっ、と顔が熱くなった。

今の、光ヶ丘のセリフ。
どう考えても、俺の気持ちに気づいているような。



はっ、と気づいて周りを見渡せば、天地や小西、そしてこういうことには疎い 三太までもがにやにやしながらこちらを見ていた。
クラスみんなが、俺達の様子に注目していたかもしれない。



だとしたら、当然、未夢も・・・


ちらり、と横を見やれば、未夢は真っ赤な顔をしてうつむいていた。
今はまだ、未夢を自分の体のほうに引き寄せたままの状態。


「あ、ご、ごめんっ」


あわてて、抱いていた未夢の体から手を放す。


「・・・あ、う、うん。べつにっ・・・」


未夢は顔を真っ赤にしたまま、俺から離れて急いで友人達のほうに走っていく。





そうだよな。

急にこんなことしたら。
驚くに決まってるよな。

きっと、あの頃の俺はこんなこと、できなかった。


だけど。
現実だと思っていないから、こんなことができるんだと思う。



中二から高三になっても。
今の未夢を目にしたら、きっとこんなふうに素直に感情を示すことなんてできないだろうから。









(今日の彷徨、絶対変だよ〜)



サル好きの校長がしきりに「冬休みのサルの過ごし方」などとわけのわからない話をだらだらと語っている終業式の間。

未夢はぼ〜っ、と先ほどまでの彷徨のことを思い出していた。



つい昨日までクリスマスなんて興味ない、と言っていたのに。
今朝は急に笑顔でツリーでも買いに行くか、なんて。

その上、さっきの彷徨の行動。



(やだっ、あれじゃ、まるで彷徨が私のことを・・・)

(って、バカバカっ、そんなことあるわけないじゃないっ!!・・・)




ぱちぱち、と自分の頬をたたいて、未夢は首を振る。


(だけど、ちょっと・・・)


いつもとは違う彷徨に戸惑ってばかりだけど。



・・・・何でだろう、・・・とっても嬉しい。



未夢はふふっ、と笑みをこぼしながら、放課後彷徨と行くはずの商店街での買い物はきっと楽しいものになるだろう、と思いを馳せていた。









「じゃなっ、彷徨っ。また電話するから。年越しはトリのレコードを聴いて過ごそうぜぇ〜!!
来年はへび年なのが残念だけど〜。四年後はトリだからなっ、気長に待つぜぇ〜」



( 三太、俺の時代は明日から酉年なんだけど・・・)

なんか、笑えるな。


そういえば、昨日(2004年12月30日)“明日はついにトリ(酉)年を迎えるカウントダウンだから、絶対俺んち来いよな〜”なんていってたっけ。





「・・・考えとくよ」

どうでもいい、返事を返すと。

それでも三太は満足そうに、じゃあなぁ〜、と廊下の向こうに走っていった。







「じゃあね、未夢ちゃん。冬休み、また遊ぼうね〜」
「初詣は絶対だよね〜、出店いっぱいでてるかなっ♪未夢、誘うからね〜!」

「うん。楽しみにしてるね!だけど、ルゥくんのこともあるから。あんまり出れないかもなんだ〜。せっかくだから、休み中くらいは一緒にいてあげたいし・・・でも、そのときは彷徨にも協力してもらうし、遊びに行こうねvv」


まるで、小さな子がいる若い母親のように言う未夢に、親友二人は目を丸くして、くすっと、笑いあった。

「あのさ、未夢ちゃんと・・・」
「そっ。未夢と西遠寺くんって、もう恋人、ってか若夫婦みたいだよね〜!」


「「そうそう!」」


二人同時に意見が一致してはしゃぐ様子に。
未夢はぼんっと、顔を赤くした。



「なっ、なっ、何言ってるのよ〜。そんなんじゃ、ないんだからっ!!」

「だって・・・ねぇ?」

「今日の西遠寺くんの態度!」







「何してるんだ、未夢」




三太が帰っていった後。

俺は、さっきからずっと未夢のほうを見ていた。


くるくると、表情を変えて、友人達と楽しそうにはしゃぐ懐かしい、未夢に。
目を、離せないでいた。



俺は、たぶん、きっと前も。
こんなふうに、未夢を見ていた。





「行くぞ、未夢」


「う、うん」


相変わらず、天地や小西が騒いでいたけれど。
俺はそんな声にかまわず未夢を連れて、教室をあとにした。





だが、あのころの、「今日」のことは、どうしても思い出せない。
あのときも、こうやって未夢と一緒にいたはずなのに。


時の流れが、少しだけ切なくなった。




このまま、この世界のままだったら・・・どんなにいいだろうか・・・




(あのときの、“俺”をやり直してみたい・・・そう、もう一度)


2000年12月22日(FRI)
中学二年の二学期。
終業式が終わったあとのことだった。



こんにちは。君といた未来のために、第二弾です〜。
彷徨くん一人称のつもりが、未夢の気持ちも入ってます〜(汗)
だけど、どうしても未夢のそのときの気持ちもいれたかったので・・・

何だか、長くなりそうです〜・・・
さてさて、次回はクリスマス・・・?
18歳の心を持ったままの彷徨くんはこれからどうするのでしょうか?(←どうしましょう(^^;
 それから、当時のことが思い出せない、と彷徨くんは言っていますが、ルゥくんとの別れや、大体の記憶はちゃんと持っています。
そのときどきの、未夢への気持ちや、日常のことを思い出せないだけで・・・
普通、私達も一日一日の細かなことは、忘れてしまってますよね。

だけど、誰でも、「あのとき、こうしていたら・・・」と思うことがあると思います。
それを、だぁ!でしたらどうなるかな〜、と思って、話を進めています。
(某ドラマのヒントを得ていますが)(苦笑)

友坂は2年前まで毎日日記をつけていましたので、それを参考にこれを書いていたりします(笑)
ではでは、また。
気長に更新していきます〜。読んでくださった方、ありがとうございますm(_ _)m

友坂りさ

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