作:友坂りさ
(―ん、朝か。)
(そうだ、昨日、未夢たちとクリスマスをして。そして、そのまま眠っちゃったんだよな・・・
あ・・・れ。だけど、俺布団かぶってないけど、あったかいな・・・)
まだ眠い意識で、寝グセ頭を掻きあげる。
とんとん、と、戸をたたく音がした。
「おはよ、彷徨」
未夢か。
起きぬけの俺に遠慮しているのか、戸をあけて入ってくることはせず、そのまま声をかけてきた。
昨日はしゃぎすぎて疲れたのだろうか、いつもの未夢と違って、どことなく元気がない。
「―――・・・私、もう行かないといけないの」
は?
行くってどこへ?
今日から冬休みだし。
頭の中にいくつかの疑問が浮かぶ。
しかも、こんな早朝に、だ。
天地たちと遊びにでも行くってのか。
だけど、わざわざ言わなくっても。
「待ってたけど、彷徨なかなか起きてこないから」
「・・・え?俺とお前なんか約束してたっけ?」
「ううん、そうじゃないけど・・・じゃ、本当にもう行くね。ありがと」
え??
静かに未夢の影が戸の向こうから消える。
何だってんだよ。
変なヤツ。
あれ。
そういえば、ルゥとワンニャーの声がしないな。
いつもなら、ルゥの泣き声か、ワンニャーの騒ぐ声が聞こえてもおかしくないのに。
ぼーっとした気分でよっ、と起き上がると、布団もかぶらずに寝ていたことに気づく。
12月のはずなのに、この暖かさ。
ばたばたばたっ。
また誰かが廊下を走る音。
ワンニャーにしては、軽快すぎる。
ルゥは走るわけないし。
戻ってきた未夢だろうか?
かさっ。
伸ばした腕の、体の後ろ側で、音。
何だろう、と、手にとって見る。
キレイに包装された、ひとつの包み。
本?
がさがさと開けてみると。
『明日、逢うときは・・・』
と書いてあった本のタイトル。
(未夢からか?)
本などほとんど読まないアイツが。
本屋であれこれ選んでこれを買ったと思うと。
なんか、おかしくて、それでいて・・・凄く嬉しく思う。
・・・クリスマスプレゼントだろうか。
(・・・えっ、だけど、昨日?)
――「彷徨、ハイ、これ」
――「何だよ、コレ」
――「クリスマスプレゼント」
――「って。これ、もしかしてお前が作ったっ・・・?」
――「何よっ??悪い?」
――「いや、悪かないけど・・・く、食えるのかっ??」
――「しつれーねっ。ちゃんとワンニャーにも味見してもらったもん!未夢さん、おいしいです
〜、って言ってくれたし!だから、大丈夫っ!光月未夢、とっておきのお手製かぼちゃ
クッキー、食べてねvv」
――「・・・いや。・・・あいつ仮にも宇宙人だし」
――「っ!!か〜な〜た〜っ!!!!」
そう言って。
思い切って食べたクッキー。
意外とうまくて。
俺の好みで作ってくれたことに、すげぇ嬉しくて。
の、はずだったんだけど。
(!!)
待てよ、この本。
◆
中三になる春。
「未夢さぁ〜ん、彷徨さぁ〜ん。本当にありがとうございました!!
このご恩は一生忘れません〜〜!!!ルゥちゃまも、この一年で、たくさん、たくさん笑顔をみせて下さいました!!これも、ひとえに、未夢さん、彷徨さんのおかげですぅ〜。本当にありがとうございました!!!」
ぐしゃぐしゃに顔をゆがめながら。
ワンニャーが涙をぼろぼろと流して。
まだわかっていないのかルゥは“あんにゃ?”と不思議そうにしていて。
やがて迎えに来たルゥの両親と一緒に。
二人は、オット星に帰っていった。
直前に俺達と別れることに気づいたルゥが、しきりに未夢に抱きついて離れなかったっけ。
未夢も泣きそうなのを必死でこらえて。
「行ってらっしゃい」と。
「さよなら」じゃなくて、行ってらっしゃい、なんだよ、と。
未夢は、ルゥたちが消えた空に向かって、
俺にささやくように、つぶやいて。
綺麗に、笑った。
その2週間後だった。
未夢が、この西遠寺を去ることになったのは。
(そうだっ・・・あれはっ)
あのときに別れるときに。俺が受け取った未夢からの贈り物。
「本・・・だったよな」
中学卒業して、高校になるときに部屋の整理をして。
押入れの奥にしまってしまった、あの本のタイトルは。
「たしか・・・・“明日、逢うときは・・・”とかって・・・」
(そんなっ、まさかっ・・・・)
ばたばた、と廊下を走っていた音が止まった。
また、影が部屋の前に出来る。
信じたくないけど。
認めたくないけど。
胸騒ぎがする。
俺の記憶に間違いがなければ。
だとしたら、今日はっ・・・・
「・・・彷徨、あのねっ」
未夢の声。
あわてて、立ち上がる。
がらり、と戸を開ける。
ちゃんと、未夢の顔をどうしても見たくて。
「未夢っ」
未夢は、今にも泣きそうな顔を、していた。
「・・・最初はね、やなヤツだって思ったの。
だけど。初めての演劇のときも、私のこと最後にはわかってくれて。
星矢くんが来たときははじめは知らないふりしてたけど、やっぱり、守ってくれて。
温泉でガケから落ちたときは、一緒にいてくれて。
ミニミニマシンで小さくなったときだって、助けてくれて・・それから・・・それから・・・
気づいたら。
いつだって、彷徨がそばにいてくれたよね・・・」
最後のほうは、声が震えていた。
だけど、目をそらさずに、俺の顔を見上げて。
ああ。
やっぱり。
信じたくないけれど。
今日は・・・・・・
「・・・・ありがと、彷徨。楽しかった。・・・家族みたいな毎日。・・・合宿みたいな生活。
ルゥくんも、ワンニャーも、彷徨も。私にとってはいつまでも大切な家族だよ・・・・」
「未夢・・・・・・」
「もう一度、それだけ言いたくて。・・・戻ってきちゃった」
「・・・未夢。俺・・・」
伝えなければ、と俺の心がせかしている。
何をしているんだ、と。
だって。
この状況はもうどう考えても。
未夢が西遠寺をでていく、「あの日」
縁側から見える、サクラの花びらが、はらり、と舞った。
また時間を、飛び越えている・・・・
今日は。
2001年4月4日(WED)
明日から、元の学校の、始業式だと。
そう、あのとき、言っていた。
「未夢、俺、お前のことがっ・・・」
言ってしまうしかない、今しかない。
戻れたのだから。
俺は本当は高3のはずなのに。
今は、まだ中学生だから。
きっと、この季節にこの時間(とき)に飛ばされてしまったのも。
誰かが、「オレ」を試しているのかもしれない。
いや、試しているのは「オレ」自身なのかもしれない。
「・・・彷徨。今までホントにありがと。・・・いつまでも、忘れないからっ・・・
じゃ、・・・・もう行くね。下に、タクシー待たせてるんだ」
未夢は泣きそうになるのを必死にこらえて、ふわっ、と笑うと、くるり、ときびすを返した。
優しい笑顔。
だけど、寂しい笑顔にしか、見えなかった。
胸につかえた気持ちが、ばたばたと騒ぎ出す。
今、手を伸ばすしかない。
俺に与えられた、二度目のチャンス。
「みゆっ」
玄関に向かう未夢を呼び止め、え?と振り返った未夢の腕をとって。
ぐいっ、と引っ張った。
バランスを崩した未夢が、俺のほうへ、倒れてくる。
しっかり、と抱きとめた。
「かっ?、彷徨っ??」
いきなりの俺の行動に、未夢も戸惑っているようだ。
「未夢・・・俺、さ・・・・」
抱きしめた、ぬくもりに。
今までの三年以上の気持ちを込めて。
きっと、"あのとき”の俺自身が、“あのとき”の未夢に。
この想いを告げたとしても。
きっと、こんなに、切なくなかった。
こんなに、「大事」じゃなかった。
「かなっ、あの・・・」
熱を帯びたような瞳が、俺を見上げてくる。
:
:
「未夢。俺はっ・・・・お前のことが好きだっ・・・」
中学生の俺。
だけど、記憶は高校生。
それでも、今でもずっと未夢のことを好きで。
祈るような気持ちで。
ようやく、告げた想い。
未夢の中では、一年の間だけだったろうけど。
俺にとっては、“三年分”の重み。
未夢の気持ちを確かめたくて。
そっ、と腕の中の未夢を見つめる。
未夢は、これ以上にないくらい、真っ赤な顔をしていた。
俺も、きっと負けないくらいに耳まで真っ赤だろうけど。
「・・・ばかっ・・・彷徨っ・・・」
「バカってなんだよ・・・」
予想もしないようなセリフに、がくっ、と肩を落とす。
「・・・ありがとっ・・・彷徨っ」
え・・・?
瞬間、未夢の両腕が、俺の首に巻きついた。
やわらかい感触が、俺の胸に直接かかってきて、どきっ、とする。
だけど、それ以上に。
心臓に、直撃するような衝撃。
時間が、一瞬にして、とまった。
――唇に感じた、あたかかな、感触。
「んっ・・・」
未夢の唇が、俺の唇に重ねられていた。
閉じられた瞳の。
長いまつげが、俺の前で揺れて。
しっかりと、押し当てられた、未夢の唇。
俺は、信じられなくて。
ただ。
固まったまま、目を見開いていた。
・・・しばらくそうしていて。
俺は何も出来ず、
呆然としていると。
ぱちり、とあけた未夢の瞳は一瞬、俺と目が合って、恥ずかしそうに微笑んで。
俺から、離れた。
とんとんっ、と跳ねるように、二、三歩後退して。
未夢は、いたずらっぽく、ぺろっと、舌をだして笑った。
まるで俺がいつもしているような。
(・・・っ・・・まいったな・・・・)
熱を帯びた、頬が、いつまでたっても、醒めそうにない。
これも、やはり、夢なのか、現実なのか。
だけど、眠っているわけではないから。
いま、生きているのはこの「時間」だから。
過去が、変わっていると、信じたい。
「・・・今頃言うなんて、ずるいよ・・・」
未夢は、待たされた、すねた子供のような目をして。
俺のそばに、また寄り添ってきた。
さっき、触れたばかりの未夢のその唇が。
やけに目に付いて仕方ない。
やわらかで。熱をもった、桜色の、それに。
また、触れたい、などという衝動を必死におさえる。
未夢の頭が俺の肩にもたれかかって。
ぽつり、とつぶやかれた。
「すき、だよ・・・」
「・・・さんきゅ」
未夢からの告白に。
どうしていいかわからないくらい、嬉しかった。
かすれた声で、頷くしかなかった。
このまま、ずっと、このままでいたかった。
だが、時間は待ってくれない。
「・・・じゃ、本当にもう行くね。また連絡するから」
「・・・ああ。いいぜ。いつでも。待ってるから」
「うんっ。ありがとっ」
そう言って。
未夢は、俺から離れた。
サクラの花びらが、ひとつ、落ちた。
石段の下に待たせているというタクシーのところまで。
離れがたくて、送っていく。
「じゃ、な。受験、がんばれよ」
俺にとってはもう終わっている、高校入試。
だけど、この(とき)では、まだ、俺も、未夢も、まだ入試も受けていない。
「うんっ。高校になったら、こっちに戻って来たいな」
「え・・・」
未夢からの思いがけない言葉に。
俺は目を丸くする。
「・・・ああ。いいぜ。またこっちに来いよ」
迷わず、そう応えた。
「じゃ、また・・・」
「気をつけてな。・・・そういえば、天地や小西は呼ばなかったのか?」
ふと気がついて。
普段は、三人いつも一緒だから、未夢の別れに見送りに来ないというのも、不思議だった。
「うん。彷徨には言ったけど、実家(うち)に帰るの一日早まったでしょ?ななみちゃん、綾ちゃんとも急だったから・・・、連絡取れなくって・・・あとで電話するの」
寂しそうな目をして。
未夢は、小さく笑った。
これからさき、自分もそばにいてやれないと思うと。
胸につかえた想いが、またあふれだしそうになる。
「そう・・・か」
(えっ・・・待てよ?)
「未夢。・・・今日西暦何年の何月何日だっけ?」
この世界の未夢に。
自分でもおかしな質問をすると思ったが。
記憶とは違う、その流れに。
いまの「時間」を確かめたかった。
「え?何?いきなり」
「いいからさっ」
「??・・・2001年、4月3日・・・火曜日だよ」
やっぱり。
記憶では、4月4日だったはず。
俺が時間を飛び越えたことで、若干ズレがでているのだろうか??
「どうしたの?」
タクシーに乗り込んだ未夢が、窓から不思議そうに俺の方を見上げている。
「・・・いや、何でもないよ。じゃ、電車遅れるし。また、な」
「うん・・・」
ふと。
未夢が、俺のほうへ手を伸ばした。
「また、必ずくる、約束」
差し出された手に、俺の手を重ねて。
「ああ、必ず・・・、な」
軽く手を重ねたあと。
すっ、と離れた。
未夢を乗せた車が。
笑顔の先の太陽の光が、サクラの花びらが。
やけに綺麗に見えて。
胸がちくり、とした。
車はやがて、道の向こうへ消えていく。
次は、いつ会えるかも、わからない。
また、時間を飛び越えれば、違う現実が待っているかもしれない。
だけど、2004年の俺に比べれば、まったく違う過去。
信じられないほどに。
風が、ぶわっと、舞って。
サクラの花びらが、はらはらと舞い降りた。
2001年4月3日(THU)
中三になる、春だった。
部屋に、置き去りになったままの本。
「明日、逢うときは・・・」
何かを、俺に伝えているような気がした。
こんにちは。君といた未来のために、ようやっとact.3です〜。
進むの遅いですね(汗)
そのうち皆さん忘れちゃうかも(^^;
ハイ、彷徨くん、また時間を飛び越えました。
・・・と、今自分でact.2を確認したのですが。
今回は本当は、クリスマスパーティーの予定になってますね。(とばしました・・・す、すみません・・・)
次回は、中学三年生彷徨くんの夏くらいになる予定ですが・・・
また、変わるかもしれません( ̄▽ ̄;)
未夢ちゃんと想いが通じ合ったヴァージョンになりましたが、当初はこんな予定じゃなかったのです〜。勝手にみゆかなが動いたのですよ〜(←言い訳(笑))
それにしても、彷徨くん。。
悩みすぎだな〜(苦笑)
ではでは、また。急いでだしましたので、誤字、脱字あると思います。
文章も変かも・・・(←いつも言っていますが(汗))
ではでは、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
友坂りさ(kitkat6220@ybb.ne.jp)