君といた未来のために〜I’ll be back〜

act.3

作:友坂りさ

←(b)



(―ん、朝か。)


(そうだ、昨日、未夢たちとクリスマスをして。そして、そのまま眠っちゃったんだよな・・・
あ・・・れ。だけど、俺布団かぶってないけど、あったかいな・・・)



まだ眠い意識で、寝グセ頭を掻きあげる。
とんとん、と、戸をたたく音がした。



「おはよ、彷徨」

未夢か。

起きぬけの俺に遠慮しているのか、戸をあけて入ってくることはせず、そのまま声をかけてきた。

昨日はしゃぎすぎて疲れたのだろうか、いつもの未夢と違って、どことなく元気がない。




「―――・・・私、もう行かないといけないの」


は?

行くってどこへ?

今日から冬休みだし。




頭の中にいくつかの疑問が浮かぶ。
しかも、こんな早朝に、だ。
天地たちと遊びにでも行くってのか。
だけど、わざわざ言わなくっても。



「待ってたけど、彷徨なかなか起きてこないから」

「・・・え?俺とお前なんか約束してたっけ?」


「ううん、そうじゃないけど・・・じゃ、本当にもう行くね。ありがと」


え??



静かに未夢の影が戸の向こうから消える。

何だってんだよ。

変なヤツ。



あれ。
そういえば、ルゥとワンニャーの声がしないな。

いつもなら、ルゥの泣き声か、ワンニャーの騒ぐ声が聞こえてもおかしくないのに。



ぼーっとした気分でよっ、と起き上がると、布団もかぶらずに寝ていたことに気づく。
12月のはずなのに、この暖かさ。


ばたばたばたっ。


また誰かが廊下を走る音。
ワンニャーにしては、軽快すぎる。
ルゥは走るわけないし。
戻ってきた未夢だろうか?


かさっ。


伸ばした腕の、体の後ろ側で、音。
何だろう、と、手にとって見る。


キレイに包装された、ひとつの包み。


本?


がさがさと開けてみると。


『明日、逢うときは・・・』


と書いてあった本のタイトル。


(未夢からか?)



本などほとんど読まないアイツが。
本屋であれこれ選んでこれを買ったと思うと。

なんか、おかしくて、それでいて・・・凄く嬉しく思う。

・・・クリスマスプレゼントだろうか。


(・・・えっ、だけど、昨日?)



――「彷徨、ハイ、これ」

――「何だよ、コレ」

――「クリスマスプレゼント」

――「って。これ、もしかしてお前が作ったっ・・・?」

――「何よっ??悪い?」


――「いや、悪かないけど・・・く、食えるのかっ??」

――「しつれーねっ。ちゃんとワンニャーにも味見してもらったもん!未夢さん、おいしいです
   〜、って言ってくれたし!だから、大丈夫っ!光月未夢、とっておきのお手製かぼちゃ
   クッキー、食べてねvv」

――「・・・いや。・・・あいつ仮にも宇宙人だし」

――「っ!!か〜な〜た〜っ!!!!」


そう言って。
思い切って食べたクッキー。
意外とうまくて。

俺の好みで作ってくれたことに、すげぇ嬉しくて。


の、はずだったんだけど。


(!!)



待てよ、この本。







中三になる春。



「未夢さぁ〜ん、彷徨さぁ〜ん。本当にありがとうございました!!
このご恩は一生忘れません〜〜!!!ルゥちゃまも、この一年で、たくさん、たくさん笑顔をみせて下さいました!!これも、ひとえに、未夢さん、彷徨さんのおかげですぅ〜。本当にありがとうございました!!!」


ぐしゃぐしゃに顔をゆがめながら。
ワンニャーが涙をぼろぼろと流して。

まだわかっていないのかルゥは“あんにゃ?”と不思議そうにしていて。

やがて迎えに来たルゥの両親と一緒に。

二人は、オット星に帰っていった。


直前に俺達と別れることに気づいたルゥが、しきりに未夢に抱きついて離れなかったっけ。

未夢も泣きそうなのを必死でこらえて。


「行ってらっしゃい」と。



「さよなら」じゃなくて、行ってらっしゃい、なんだよ、と。
未夢は、ルゥたちが消えた空に向かって、
俺にささやくように、つぶやいて。


綺麗に、笑った。



その2週間後だった。


未夢が、この西遠寺を去ることになったのは。

(そうだっ・・・あれはっ)



あのときに別れるときに。俺が受け取った未夢からの贈り物。


「本・・・だったよな」


中学卒業して、高校になるときに部屋の整理をして。
押入れの奥にしまってしまった、あの本のタイトルは。


「たしか・・・・“明日、逢うときは・・・”とかって・・・」



(そんなっ、まさかっ・・・・)


ばたばた、と廊下を走っていた音が止まった。
また、影が部屋の前に出来る。



信じたくないけど。
認めたくないけど。

胸騒ぎがする。


俺の記憶に間違いがなければ。

だとしたら、今日はっ・・・・





「・・・彷徨、あのねっ」


未夢の声。

あわてて、立ち上がる。
がらり、と戸を開ける。
ちゃんと、未夢の顔をどうしても見たくて。



「未夢っ」


未夢は、今にも泣きそうな顔を、していた。


「・・・最初はね、やなヤツだって思ったの。
だけど。初めての演劇のときも、私のこと最後にはわかってくれて。
星矢くんが来たときははじめは知らないふりしてたけど、やっぱり、守ってくれて。
温泉でガケから落ちたときは、一緒にいてくれて。
ミニミニマシンで小さくなったときだって、助けてくれて・・それから・・・それから・・・
気づいたら。
いつだって、彷徨がそばにいてくれたよね・・・」

最後のほうは、声が震えていた。
だけど、目をそらさずに、俺の顔を見上げて。





ああ。

やっぱり。

信じたくないけれど。

今日は・・・・・・



「・・・・ありがと、彷徨。楽しかった。・・・家族みたいな毎日。・・・合宿みたいな生活。
ルゥくんも、ワンニャーも、彷徨も。私にとってはいつまでも大切な家族だよ・・・・」

「未夢・・・・・・」

「もう一度、それだけ言いたくて。・・・戻ってきちゃった」



「・・・未夢。俺・・・」


伝えなければ、と俺の心がせかしている。
何をしているんだ、と。

だって。

この状況はもうどう考えても。

   
    未夢が西遠寺をでていく、「あの日」


縁側から見える、サクラの花びらが、はらり、と舞った。



また時間を、飛び越えている・・・・



今日は。
2001年4月4日(WED)

明日から、元の学校の、始業式だと。
そう、あのとき、言っていた。



「未夢、俺、お前のことがっ・・・」



言ってしまうしかない、今しかない。

戻れたのだから。

俺は本当は高3のはずなのに。

今は、まだ中学生だから。

きっと、この季節にこの時間(とき)に飛ばされてしまったのも。

誰かが、「オレ」を試しているのかもしれない。

  いや、試しているのは「オレ」自身なのかもしれない。





「・・・彷徨。今までホントにありがと。・・・いつまでも、忘れないからっ・・・
じゃ、・・・・もう行くね。下に、タクシー待たせてるんだ」



未夢は泣きそうになるのを必死にこらえて、ふわっ、と笑うと、くるり、ときびすを返した。

優しい笑顔。


だけど、寂しい笑顔にしか、見えなかった。


胸につかえた気持ちが、ばたばたと騒ぎ出す。


今、手を伸ばすしかない。
俺に与えられた、二度目のチャンス。



「みゆっ」

玄関に向かう未夢を呼び止め、え?と振り返った未夢の腕をとって。

ぐいっ、と引っ張った。


バランスを崩した未夢が、俺のほうへ、倒れてくる。

しっかり、と抱きとめた。



「かっ?、彷徨っ??」


いきなりの俺の行動に、未夢も戸惑っているようだ。



「未夢・・・俺、さ・・・・」



抱きしめた、ぬくもりに。
今までの三年以上の気持ちを込めて。


きっと、"あのとき”の俺自身が、“あのとき”の未夢に。
この想いを告げたとしても。
きっと、こんなに、切なくなかった。

こんなに、「大事」じゃなかった。




「かなっ、あの・・・」


熱を帯びたような瞳が、俺を見上げてくる。











「未夢。俺はっ・・・・お前のことが好きだっ・・・」




中学生の俺。

だけど、記憶は高校生。


それでも、今でもずっと未夢のことを好きで。

祈るような気持ちで。


ようやく、告げた想い。

未夢の中では、一年の間だけだったろうけど。

俺にとっては、“三年分”の重み。


未夢の気持ちを確かめたくて。
そっ、と腕の中の未夢を見つめる。



未夢は、これ以上にないくらい、真っ赤な顔をしていた。

俺も、きっと負けないくらいに耳まで真っ赤だろうけど。



「・・・ばかっ・・・彷徨っ・・・」


「バカってなんだよ・・・」


予想もしないようなセリフに、がくっ、と肩を落とす。


「・・・ありがとっ・・・彷徨っ」



え・・・?



瞬間、未夢の両腕が、俺の首に巻きついた。
やわらかい感触が、俺の胸に直接かかってきて、どきっ、とする。


だけど、それ以上に。

心臓に、直撃するような衝撃。


時間が、一瞬にして、とまった。




――唇に感じた、あたかかな、感触。



「んっ・・・」




未夢の唇が、俺の唇に重ねられていた。


閉じられた瞳の。
長いまつげが、俺の前で揺れて。


しっかりと、押し当てられた、未夢の唇。

俺は、信じられなくて。
ただ。

固まったまま、目を見開いていた。





・・・しばらくそうしていて。

俺は何も出来ず、
呆然としていると。


ぱちり、とあけた未夢の瞳は一瞬、俺と目が合って、恥ずかしそうに微笑んで。
俺から、離れた。


とんとんっ、と跳ねるように、二、三歩後退して。
未夢は、いたずらっぽく、ぺろっと、舌をだして笑った。

まるで俺がいつもしているような。


(・・・っ・・・まいったな・・・・)



熱を帯びた、頬が、いつまでたっても、醒めそうにない。
これも、やはり、夢なのか、現実なのか。
だけど、眠っているわけではないから。



いま、生きているのはこの「時間」だから。

過去が、変わっていると、信じたい。



「・・・今頃言うなんて、ずるいよ・・・」

未夢は、待たされた、すねた子供のような目をして。
俺のそばに、また寄り添ってきた。


さっき、触れたばかりの未夢のその唇が。
やけに目に付いて仕方ない。
やわらかで。熱をもった、桜色の、それに。

また、触れたい、などという衝動を必死におさえる。



未夢の頭が俺の肩にもたれかかって。

ぽつり、とつぶやかれた。



「すき、だよ・・・」

「・・・さんきゅ」



未夢からの告白に。

どうしていいかわからないくらい、嬉しかった。
かすれた声で、頷くしかなかった。


このまま、ずっと、このままでいたかった。

だが、時間は待ってくれない。





「・・・じゃ、本当にもう行くね。また連絡するから」

「・・・ああ。いいぜ。いつでも。待ってるから」


「うんっ。ありがとっ」


そう言って。

未夢は、俺から離れた。


サクラの花びらが、ひとつ、落ちた。





石段の下に待たせているというタクシーのところまで。
離れがたくて、送っていく。


「じゃ、な。受験、がんばれよ」


俺にとってはもう終わっている、高校入試。
だけど、この(とき)では、まだ、俺も、未夢も、まだ入試も受けていない。



「うんっ。高校になったら、こっちに戻って来たいな」


「え・・・」


未夢からの思いがけない言葉に。
俺は目を丸くする。


「・・・ああ。いいぜ。またこっちに来いよ」


迷わず、そう応えた。

「じゃ、また・・・」


「気をつけてな。・・・そういえば、天地や小西は呼ばなかったのか?」

ふと気がついて。
普段は、三人いつも一緒だから、未夢の別れに見送りに来ないというのも、不思議だった。


「うん。彷徨には言ったけど、実家(うち)に帰るの一日早まったでしょ?ななみちゃん、綾ちゃんとも急だったから・・・、連絡取れなくって・・・あとで電話するの」

寂しそうな目をして。
未夢は、小さく笑った。


これからさき、自分もそばにいてやれないと思うと。
胸につかえた想いが、またあふれだしそうになる。



「そう・・・か」


(えっ・・・待てよ?)



「未夢。・・・今日西暦何年の何月何日だっけ?」



この世界の未夢に。
自分でもおかしな質問をすると思ったが。
記憶とは違う、その流れに。

いまの「時間」を確かめたかった。


「え?何?いきなり」
「いいからさっ」

「??・・・2001年、4月3日・・・火曜日だよ」


やっぱり。


記憶では、4月4日だったはず。

俺が時間を飛び越えたことで、若干ズレがでているのだろうか??


「どうしたの?」

タクシーに乗り込んだ未夢が、窓から不思議そうに俺の方を見上げている。

「・・・いや、何でもないよ。じゃ、電車遅れるし。また、な」

「うん・・・」


ふと。


未夢が、俺のほうへ手を伸ばした。


「また、必ずくる、約束」

差し出された手に、俺の手を重ねて。


「ああ、必ず・・・、な」


軽く手を重ねたあと。

すっ、と離れた。



未夢を乗せた車が。
笑顔の先の太陽の光が、サクラの花びらが。
やけに綺麗に見えて。

胸がちくり、とした。


車はやがて、道の向こうへ消えていく。


次は、いつ会えるかも、わからない。

また、時間を飛び越えれば、違う現実が待っているかもしれない。

だけど、2004年の俺に比べれば、まったく違う過去。

  

   信じられないほどに。




風が、ぶわっと、舞って。

サクラの花びらが、はらはらと舞い降りた。




2001年4月3日(THU)

中三になる、春だった。


部屋に、置き去りになったままの本。

「明日、逢うときは・・・」

何かを、俺に伝えているような気がした。







こんにちは。君といた未来のために、ようやっとact.3です〜。
進むの遅いですね(汗)
そのうち皆さん忘れちゃうかも(^^;

ハイ、彷徨くん、また時間を飛び越えました。
・・・と、今自分でact.2を確認したのですが。
今回は本当は、クリスマスパーティーの予定になってますね。(とばしました・・・す、すみません・・・)
次回は、中学三年生彷徨くんの夏くらいになる予定ですが・・・
また、変わるかもしれません( ̄▽ ̄;)

未夢ちゃんと想いが通じ合ったヴァージョンになりましたが、当初はこんな予定じゃなかったのです〜。勝手にみゆかなが動いたのですよ〜(←言い訳(笑))

それにしても、彷徨くん。。
悩みすぎだな〜(苦笑)

ではでは、また。急いでだしましたので、誤字、脱字あると思います。
文章も変かも・・・(←いつも言っていますが(汗))

ではでは、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

友坂りさ(kitkat6220@ybb.ne.jp)

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