新年の誓い

4.

作:ロッカラビット

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「ところで…。何故あなたたちは私たちの声が聞こえるのですか?」

「え?」

「それ、どういう…。」


母親の突然の言葉に驚いて、言葉が出ない未夢と彷徨。


「もしかして…地球へはご旅行で?」

「へ?」


母親の突拍子もない言葉に驚きすぎて、口を開いたまま固まる未夢。

その横で、ハッと何かを悟った彷徨が話し出す。


「あぁ、もしかして、お二人は地球へ旅行に来られた方ですか?えっと、俺たちは地球人なんですが、わけあってそういうことに詳しいというか、接触がありまして…。」

「なるほど。そういうことでしたか。失礼致しました。もしかしたら何処か違う星から来られたのかと思いまして…。」


固まる未夢を余所に、淡々と会話を進める彷徨たち。


「私たちは、ラクダセイから観光でこちらへお邪魔しておりまして。実は…。私たちは、いわゆるテレパシーで会話をする種族なんです。なので、地球で言う「声」のようなものは出ないんです。」


ボーっとしながらも話に耳を傾けていた未夢が、ハッとして口を挟む。


「え?じゃあ、今こうやって会話しているのは?」

「そうなんですよねぇ。うーん、何か受信機のようなものを持ってらっしゃいますか?」


首を傾げて考える母親の真似をして、ソラも手を顎にあてて小首をかしげている。


「受信機…ですか?」


母親の言葉に、何か心当たりは…と考える彷徨。


「えぇ。私たちの星、ラクダ星には兄弟星がありまして。そこの人たちとスムーズに意思疎通が出来るようにと、受信機が開発されまして。その星の人にはラクダセイ対応受信機が配布されているんですが…。そんなもの、さすがに地球には無いですよね。シャラク星の人も地球によく観光に行くって聞いたから、もしかしたらとは思ったんですがそんな訳ないですよね。」

「え?シャラク星?」

「今、シャラク星って…?」


母親の言葉に、ハッとする二人。


「「もしかして、受信機ってこれですか?」」


未夢はカバンの中をあさり、彷徨はごそごそとポケットを探ると、同時にそれを取り出す。


「まぁ懐かしい。これは一昔前の受信機ね。今はもっと小型になってて、これは使われていないのよ。私も久しぶりに見たわ。」


未夢の手から受け取ったそれをしげしげと眺めて、嬉しそうに話す母親の姿に、彷徨と未夢が顔を合わせて苦笑いをする。


***数時間前***


「あけましておめでとう〜!未夢ちゃ〜ん!彷徨く〜ん!ワンニャー!ルウくん!いる〜?」


勝手知ったる…と、玄関扉をあけてドカドカと入ってくるのは、シャラク星からの来訪者、夜星星矢。


「あっいたいた〜。あけましておめでとう〜!」


ワンニャーが作ったお節料理を皆で囲んで、さあ食べよう!と箸をのばした所で現れた夜星に、皆の視線が冷たく刺さる。


「あれ〜?皆どうしたの〜?お正月なんだからスマイルスマイル〜♪」


当の本人は至って気にしていないようで…。


「なんだよ、朝っぱらから。」

「これからお節食べるんだから、面倒な用事ならお断り〜!」


飄々とする夜星に、彷徨と未夢が冷たく言葉をかける。


「そんな冷たいこと言わないでよ〜。ねぇ未夢ちゃ〜ん。」


そう言って未夢の手を握る夜星。


「おいっ、お前何しに…。」


それを止めようと彷徨が立ち上がった所で、夜星がパッと未夢の手を離しニヤリと彷徨を見た。


「へー、彷徨君もやるじゃない。そっかー、おめでとう。」


訳知り顔でニヤニヤと言う夜星に、彷徨も言葉が出ない。


「か、勝手に心を読まないで。」


その様子に、今度は未夢が立ち上がり、顔を真っ赤にして抗議する。


「で、お前は何しにきたんだよ。」


未夢の言葉に背中を押されて、彷徨も夜星に詰め寄る。

そんな彷徨をするっと避けると、再び未夢の前に現れる夜星。

二人の様子をまったく気にしていないようで、楽しそうに話を続ける。


「今日はこれを渡しに来たんだよー。」


そう言ってどこからともなく、取り出した品を未夢の手に乗せる。


「なんですか〜?」

「ルー?」


三人の様子を見ていたワンニャーとルウが、興味津々に未夢の手を覗き込む。


「これ、お守り?」


手の上のそれを見つめて、未夢が問いかける。

手に乗せられたそれは、形や重さは一般的なお守りととてもよく似ていた。

けれど、素材が全く違い、鉄のような見た目をしていた。

よく見れば、読めないが文字のような物が書かれている。


「そうだよー。それはシャラク星のお守りなんだ。地球ではお正月にお守りをあげるって書いてあったからさ。」


笑顔でとりだしたのは、あの間違いだらけの地球ガイドブック。


「それってお年玉の間違いじゃないか?」


呆れた様子の彷徨が口を挟む。

そんな彷徨の目の前に夜星がお守りを掲げる。


「はい、彷徨君にもこれ。あと、ワンニャーはこっちの方がいいかなと思って、みたらし星の特製みたらし団子。ルウ君には、今宇宙で大人気のおもちゃだよ。」


淡々とプレゼントを渡していく夜星に、呆れすぎて言葉が出ない未夢と彷徨。

それとは反対に嬉々として喜ぶワンニャーとルウ。


「あぁこれは何と素晴らしいみたらし団子!わたくし幸せですぅ〜。ありがとうございますぅ〜。」

「ちゃ〜い、あーい。」


二人の言葉に夜星も笑顔で答える。


「いや〜、喜んでもらえて良かったよぉ。じゃ、ぼくはこれで帰るね。」


急な帰宅発言に、ワンニャーが引き止める。


「えぇ!せっかく来られたのですから、一緒にお節いかがですか?」

「ワンニャーありがとう。お言葉に甘えたいところだけど、これから家族で“お正月星”に行くからさ。けど、お正月が明けたらまた来るからさ〜。じゃあ、またね〜。」


慌ただしくUFOに乗り込むと、あっという間に空の彼方に消えて行った。




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