新年の誓い

3.

作:ロッカラビット

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「ソラ君のママいませんか〜?」

「ママー!」


未夢とソラが大きな声を出して呼んでみるが、それらしき人物が見当たらない。


「あっちの方も見に行ってみようか。」

「あぁ、そうだな。これだけ人がいれば、俺らの声も遠くまで聞こえなさそうだし。」


未夢と彷徨が阿吽の呼吸で捜索する様子に、彷徨に抱かれたソラが楽しそうに笑う。


「ん?どうかしたか?ソラ。」


そんなソラの様子に気付いた彷徨が尋ねる。


「おにいちゃんたちは なかよし なんだね」

「え?」


ソラの言葉に顔を赤くして驚いたのは未夢だった。


「なんでそう思うんだ?」


未夢をちらっと見てから、冷静にソラに問う彷徨。


「だって いきが ぴったり だよ? ママ と パパ みたい」


「ママとパパ」と言われて、未夢と彷徨の頭にパッと浮かんだのはルウのことだった。

ひょんなことからこうやって一緒に暮らすようになって、ルウのパパママとして奮闘して…。

そして今は気持ちが通じ合って彼氏彼女に。

今までもこれからも、二人はきっとこうやって一緒に過ごしていくのだろうと、心の隅では思っていたけれど。

こうやって自分たちのことを知らない、さらには純真無垢な子どもに「パパとママみたい」と言われると…。

嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちになる。

言葉を返せずにいる二人に、ソラが不思議そうに首を傾げる。

そんなソラにニコッと微笑みかけると、彷徨が口を開く。


「それじゃあ、ソラのママとパパに負けないように、もっと“なかよく”しなきゃな。」

「うん」


彷徨の言葉の意味を理解しているのかどうなのかわからないが、ニコニコと嬉しそうに元気いっぱい返事をするソラ。

そして、彷徨の言葉を理解して顔を真っ赤にして固まっている未夢。


「あれ おねえちゃん どうしたの?」

「えっ、いや、なんでもないよぉ。さぁ、向こうに探しに行こう!」


ソラの言葉に大きく腕を振って誤魔化して、先陣を切って歩き出す未夢。

その後ろについていく彷徨は、そんな可愛らしい未夢の様子に優しく微笑んでいた。

******


「ソラ君のママー、いませんか〜?ソラ君のママー?」

「ママー! ママー!」


あちらこちらで繰り広げられているワゴンセールに集まる女性たちに、大声で呼びかけてみるも、ソラのママは中々見つからない。


「ちょっと休憩しようぜ。」


ずっとソラを抱いていた彷徨がベンチにソラを座らせると自分も隣に腰を降ろす。

ソラを間に挟むように未夢も腰をかける。


「ママ、見つからないね…。違う階へ探しに行ってるのかなぁ。」


慌ただしく行き交う人達をボーっと見つめたまま未夢が呟く。


「ママ…どこいっちゃったんだろ。」


ブラブラと宙に揺れる自分の足を見つめてうつむいて、ソラもだんだんと弱気になっていく。


「大丈夫だって。そんな暗い顔してたらママも悲しむぞ?」


頭を優しく撫でると体をかがめてソラの顔を覗き込む彷徨。

彷徨の言葉に顔をあげたソラの視線は彷徨ではなく、その先を見つめていた。

と、次の瞬間、ソラが大声で叫んだ。


「ママー!」

「ソラー!!」


ソラの声に、ハッと驚き振り向く未夢と彷徨のもとへと駆け寄ってくる女性。

ベンチからピョンッと飛び降りると、女性のもとへ走って行き勢いよく抱きつくソラ。


「ママ〜〜 え〜ん どこ グスン いって グスン たんだよ〜 え〜ん」


再び泣き出したソラをギュッと抱き締めて、女性も涙声で答える。


「ごめんね。ママが悪かったよ。本当にごめんね。良かった。会えて本当に良かった…。」


感動の再会が繰り広げられる中、彷徨と未夢も立ち上がって二人のもとへ歩み寄る。


「ソラ君、良かったね。ママに会えて。」

「ソラ、良かったな。」


二人の声に、ママに抱き着いていたソラが振り返る。


「おねえちゃん おにいちゃん ありがとう」

「あなた方がこの子を見ていてくれたんですか?ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。本当にありがとうございました。なんとお礼をしたらよいか。」


深々と頭を下げる母親につられて、ソラも頭をぺこっとさげる。

そんな二人に未夢が慌てたように手をブンブンと振る。


「そんな、そんな、私たちは何もしていませんから。一緒にいただけですし、ね、彷徨。」

「そうですよ、お礼なんていいですから、顔をあげて下さい。」


未夢と彷徨の言葉に、母親が顔をあげる。


「本当に、ありがとうございました。………。ところで…。」


顔をあげた母親がもう一度お礼を言い、取り出したハンカチで頬をつたう涙を拭うと、改まった様子で話を始めた。




昨年、【家庭科の実習で保育園に行くみたいな、夫婦感が出ちゃう感じのもの】というお題を頂いて、「君の隣は誰のモノ?」を書いたのですが、実際はこのお題にきちんと答えられていないな…と何処かでずっと気になっておりました。

それで、もう一度ルウ以外の子供と関わる二人を描いでみたいと思い新年早々に書いてみました。

まぁ、結果、あまり夫婦のような二人にならなかったのですが…。


という訳で…。

お話はまだまだ続きます!


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