作:ロッカラビット
***話を戻して現在***
「ったく、あいつ…。」
今朝の夜星の行動を思い出して、呆れる彷徨。
未夢も隣で苦笑いしている。
「あっ、でもね、今この受信機には色々と噂がたっててね。その一つに恋守りになるっていうのもあるらしいわよ?」
母親の言葉に「え?」と同時に顔をあげる彷徨と未夢。
そんな二人にうふふと優しく微笑むと話を続ける。
「このお守りにお互いの名前を刻んで持っていると、永遠に一緒にいられるってね。ほら、あなたたちのにも、あなたがミユさんで、あなたがカナタくんね。ちゃんとここに彫ってあるわ。お互いの名前が。」
母親の言葉に、顔を見合わせて顔を赤くする二人。
けれどそこで母親の笑みが苦笑いに変わる。
「でもね、それはあくまで噂で。最近の若い子は知らないのかもしれないけれど…。実はこのお守りにはラクダ星の人を引き付ける強い力があるのよ。話すと長くなるんだけど…。」
そこで話を止める母親に、二人は話の続きをと迫る。
「昔から、シャラク星とラクダ星は兄弟星だったの。シャラク星の人は手を握れば相手の気持ちが読めるから、テレパシーで会話をする私達とも交信が出来たんだけど。
それでも、毎回手を握るのは大変ってなってね。それでこの受信機が作られたの。けれど、この受信機には不思議な力があって、何故かはわからないのだけれど、ラクダ星人がこのお守りに惹かれるように集まって行くようになってしまって。
最初はこの受信機が原因って気付かなくて、ただラクダ星人がシャラク星を気に入って観光に来ているだけだと思っていたの。
でも、それが数年後にはラクダ星人のほとんどがシャラク星に住み着いてしまって…。
それでシャラク星の研究家たちが調べた結果、この受信機が原因ってわかってね。
それで回収されて、今はもっと小型のただの受信機になったって訳。
きっと、この”ラクダ星人を引き付ける力”が形を変えて”永遠に一緒にいられる”っていう恋守りになっちゃったんだと思うけど…。」
母親の話を真剣に聞いていた彷徨が口を開く。
「それじゃあ、もしかしてソラやあなたに出会ったのもこれの力のせい?」
「たぶんそうだと思うわ。」
母親の言葉に、顔を青くする彷徨。
そんな彷徨の様子に、訳がわからないと首を傾げる未夢。
「お前なぁ…。これにラクダ星の人が集まってくるってことは、これから先、俺たちのもとにラクダ星からの観光客が押し寄せるってことだぞ?」
未夢にもわかるように説明する彷徨。
それを聞いて未夢の顔も青くなる。
「そうねぇ。今はお正月だから、みんな“お正月星”へ出掛けていると思うけど…。地球は私の星でも人気の観光地だからねぇ…。」
母親の言葉にどうしようかと顔を見合わせて考え込む彷徨と未夢。
「あっ、それなら…。もしお二人がよろしければの話だけれど。」
何か思いついたように、母親が手をパンと叩いた。
「私がその受信機を頂いて帰ろうかしら?」
思わぬ提案に、未夢と彷徨が目を見開く。
「実はね、私の家…まぁ私は嫁いだ身だから、主人の家なんだけどね。地球で言う神社のようなところなのよ。それも恋愛成就の神様なのよ?今日だって、本当はパパも一緒に来たかったんだけど、恋愛のお願い事をしに参拝の方がいらっしゃるから…。あっ、私も昨日までお手伝いしてたのよ?今日だけお休みをいただけたから、この子が欲しがっていたおもちゃを買いに地球に来たの。」
うふふ、と嬉しそうに笑う母親に、「はぁ」となんとも言えない相槌を打つ二人。
「だから、私がその受信機を頂いて帰って、我が家でお二人の永久の愛を祈願しておこうかな…と思ってね。」
最後に悪戯そうにウインクをして告げる母親の言葉に、二人はドキッと顔を赤らめる。
「とわのあい…。」
耳に飛び込んできた言葉に、顔を真っ赤にした未夢が片言で復唱する。
「うふふ、可愛らしい彼女ね。大事にしないと他の男が放っておかないわよ?」
未夢の様子に優しい眼差しを向けた母親が、彷徨の耳元で囁く。
その言葉に一瞬、ビクッと反応した彷徨だったが、すぐに顔を戻すとはっきりとした口調で宣言をする。
「大丈夫です。俺があいつを離しませんから。」
予想に反して真剣な眼差しと共に告げる彷徨の言葉に、驚いて目を丸くしていた母親も次の瞬間にはにっこりと微笑んでいた。
******
「それでは、あなたたちのその強い気持ち、我が家で祈願させていただくわ。」
「「はい、お願いします。」」
二人のお守り型受信機を受け取った母親に、深々と頭を下げる彷徨と未夢。
ソラは疲れてしまったのか、だいぶ前から母親の腕の中で眠りについていた。
「じゃあね、ソラくん。またいつか会えるといいね。」
未夢が小声で囁いて、ソラの頭をそっと撫でる。
未夢の隣で彷徨も見守っている。
母親は何度も振り返ってお辞儀をしながら、二人のもとを去って行った。
その姿を見送って、ふと思い出す彷徨。
「あっ、やべぇ。すっかり忘れてた。」
彷徨の言葉に、未夢も慌てる。
「あれからどれくらい時間経ってる?」
「わかんねぇけど、早く戻んないとな。」
「えっ・・・・・・・。」
言葉よりも早く、未夢の手を握ってエスカレーターへと歩き出す彷徨。
引っ張られるように未夢も後についていく。
タタタッと数歩早足で追いついてなんとか彷徨の隣に戻る未夢。
「彷徨、もう大丈夫だから、手…。」
未夢が恥ずかしそうに言ってみるが、彷徨は一向に離そうとしない。
「彷徨。か、な、た。ちょっと、彷徨。彷徨!」
最初は優しく呼んでいた未夢が返事をしない彼に、歩くのを止めて呼びかける。
繋いでいた手がギリギリの長さまで伸びた所で、彷徨がピタッと止まるとゆっくり振り返る。
「ったく、なんだよ。早く皆のもとに戻るんだろ?」
彷徨の言葉に、未夢が一瞬言葉を言いよどむ。
けれど負けじと言い返す。
「そ、そうだけど。でも、手…。握ったままだと皆に……見られちゃうよ?」
最後は恥ずかしそうに顔を赤くして俯く未夢。
未夢の様子に微笑むと、彷徨が優しく言葉を返す。
「いいんじゃないか?だって、俺たち付き合ってるんだし。」
「え?」
彷徨の思いがけない言葉に、未夢が驚いて顔をあげる。
「だ、だ、だって、彷徨、手を繋ぐのとか嫌じゃないの?」
顔を真っ赤にして腕をパタパタと振る未夢。
離れていた距離を埋めるように未夢の手を引っ張る彷徨。
勢いよく彷徨の胸に飛び込む未夢。
すっぽりと納まった未夢の耳に顔を寄せると優しく囁く。
「お前とだったら、俺は何でも出来るけど?むしろ、皆に見せたいくらい…だぞ?」
囁かれた耳から全身に熱を帯びていく。
言葉の意味なんて、気持ちが通じ合った今なら簡単に理解出来る。
これまでにない程真っ赤になった未夢の手を引いて、彷徨がまた歩き出す。
身体を離すのは勿体無いけれど、あのまま引っ付いていたら彷徨の方が本当に止められなくなりそうで。
いくらなんでもデパートで、これ以上二人きりの世界に入る訳にもいかず…。
ほんのりと染まった頬に手をあてながら、まっすぐ前を向いて歩く彷徨。
繋がれた手から伝わる未夢の鼓動。
それが本当に未夢の物なのか、自分の物なのか…もう一度ぎゅっと未夢の手を握り直して、歩き続ける。
繋いだこの手を二度と離さないと、心に誓って…。
******
ようやく皆のもとへ姿を見せた二人に…。
「お二人とも、おそいですぅ〜………って…えっ!?」
「おっやっと帰ってきた彷徨〜。って、えっ!?」
「え?何?どうしたの?このみたらし団子、私がもら……えっ!?」
「もぅ未夢ちゃん、どこまで行ってたのよぉ〜。おっこれは…!」
「あ〜い、パンパ、マンマ!」
手を繋いで現れた二人の姿に、親友たちがそれぞれの反応を見せる。
これを期に、二人が付き合っていることが皆に広まりました…とさ。
お・わ・り。
改めまして、本年も皆様にとって素敵な一年となりますように祈りつつ、書棚投稿でご挨拶とさせていただきます。
今年もよろしくお願いします♪
ご覧いただき、ありがとうございました!
2014.01.04