作:ロッカラビット
部屋に入り襖を閉める。
そのまま襖にもたれかかりただ真っ直ぐ部屋の奥を見つめる。
何もない壁に突き刺さる視線とは裏腹に、彷徨の意識は違う所にある。
「あいつ…誰なんだ?」
頭に浮かぶのは先程見たペンダント。
にっこり笑ってこちらを見ていたあの男。
写真を見た感じでは、歳もきっと同じくらいだ。
考えても答えの出ない疑問に、どうすることも出来ない。
自分がペンダントを見たと悟られないように、いつものように振る舞ったつもりだが、さっき未夢と何を会話したのかも覚えていない。
あれが誰なのかと直接聞けない自分に、見ていないと誤魔化す自分に、未夢への気持ちを自覚する。
同居人、家族、なんて肩書で誤魔化していた気持ち。
少なからず未夢に嫌われてはいないことを良いことに、何も進展させずに来たことを今、後悔している。
未夢に好きな奴がいないと、何故思ったのか?
あいつが鈍くて、恋愛とかに興味なさそうだと思っていたのは、俺の勘違いだったんじゃないのか?
未夢の心が自分に向いていない?
家族という肩書は、これからもずっと変わらないのかもしれない。
どうしようもない不安がじわりじわりと思考を襲う。
こんなにも未夢のことを好きだったんだと、胸にささる痛みにその重さを実感する。
ズズズッと音を立てて襖にもたれたまま座り込む。
手を顔にあて、大きなため息を吐く。
「未夢…。」
彷徨の小さな呼び声は、冷たい空気の中に消えていった。