作:ロッカラビット
事の始まりは一昨日の夕方だった。
買い物当番だった未夢は、両手に買い物袋を提げて西遠寺に向かっていた。
すべり落ちそうな重たい荷物を持ち直して、ふと顔をあげると前方、西遠寺の階段下に人影を見つけた。
向こうも未夢に気が付いたようで、近付いてきた。
ふわふわと動くその動き…。
影になって顔は見えなくとも、その怪しい動き方にその人物が誰かを悟る未夢。
「良かった〜。なんとな〜く、未夢ちゃんがもうすぐ来る気がしてたのよね〜。」
怪しい笑みを浮かべつつ、根拠のない自信を持ってそう告げたのは、山村みかんだった。
「みかんさん…。また変なこと言い出すんじゃ…。」
「やっだ〜!未夢ちゃん、そんなつれないこと言わないでよ〜。ちょ〜っと、お願いに来ただけなんだから〜。」
「え〜〜。みかんさんのお願いって……今までろくなことなかったし…。」
顔を引きつらせつつも、お願いされて断れる性格で無い未夢はそのまま話を聞く。
「大丈夫よ〜!今回は。これをみずきに渡すだけでいいから。本当は自分で渡す予定だったんだけど、今夜から旅館にお泊りなのよ〜。え?聞きたい?実はねぇ新しい漫画は旅館が舞台なの〜。それでね、ただ写真を見て書くだけじゃリアリティに欠けるって話をしてたら、編集部から取材旅行の許可がおりてね〜。こんなこと滅多に無いから、話が消し飛ぶ前に行ってやろうと思って〜。あっでも、みずきとの約束忘れてた訳じゃないのよ〜。うふふふふ。」
「はぁ…。」
相変わらずのみかんのマシンガントークに、相槌を打つのがやっとな未夢。
「じゃ、そういうことで。明日の夕方、ここで待ち合わせだから。これを渡してね。よろしく〜〜〜!!」
未夢にメモと紙袋を渡すと、あっという間に消えていくみかん。
残された未夢は、ただただ呆然とするしかなかった。
***次の日(つまりは昨日)***
メモに書かれた待ち合わせ場所で未夢はみずきを待った。
みかんから渡された紙袋の中身を未夢は知らない。
とりあえず袋を抱えてベンチに座る。
しばらくするとみずきがやってきた。
冷たい風が顔にあたり、頬が赤くなる。
「ごめんね、未夢ちゃん。ねーちゃんがまた迷惑かけて。」
「いえ、大丈夫です。というか、もう慣れてきてます。」
そう言って笑う未夢に、みずきも微笑む。
「別に今日じゃなくても良かったんだけど、ねーちゃんすっかり旅行で浮かれててさ〜。こっちの話聞かないから。でも助かったよ、ありがとう未夢ちゃん。」
紙袋を受け取ったみずきが中身を確認しようとしたその時、未夢が公園の外へ顔を向けた。
「どうかした?未夢ちゃん。」
「え?…あぁ、なんだか三太君、あっ、えっと、友達の声が聞こえた気がして。」
「彷徨」って呼ぶ声が聞こえた気がして思わず顔を向けた未夢だったが、その視線の先には誰もいなかった。
首を傾げつつ、気のせいだと納得する。
「お話の途中でごめんなさい。」
「ううん、いいよ。気にしなくても。お友達いない?」
「はい、気のせいだったみたいです。」
「そっか…。」
みずきも公園の外に一度目をやるが、やはりそこには誰もいなかった。
ふと思い出したように紙袋に目をやるみずき。
その視線につられるように未夢も紙袋を見つめる。
「あっ、これ、気になる?」
未夢の視線に気が付いて、みずきが尋ねる。
「はい。」
えへへと笑って誤魔化しつつ、素直な未夢。
「これさ、実は………。」
ガサゴソと紙袋に手を入れて中身を取り出すみずき。
「マフラーだ〜。」
出てきたのは紺色の手編みのマフラーだった。
思わず声をあげる未夢に、ニコッと笑うとみずきが続ける。
「これさ、本当はねーちゃんが編む予定だったんだけど…。」
「え?みかんさんが?」
「そうなんだよ。次の漫画でマフラーを編む女の子を描こうとしたみたいで、でも結局それじゃありきたりだから、男の子に編ませようってことになって…。」
「はぁ…。」
みかんのコロコロ変わる発想力とその動きを想像し、苦笑いの未夢。
「で、結局これ、僕が編んだんだよ。」
「え〜???!!!みずきさんが?すごーーーい!!」
「そんなに褒められると照れちゃうけど。」
照れているようには見えない、いつもと変わらぬ優しい笑顔のみずき。
「編んでる所とか、出来上がったマフラーとか散々見られたけど、結局その案はボツになったらしくて。それで最近寒くなったから丁度いいしマフラーもらおうと思ってさ。いや、作ったの僕だから“返してもらう”が正しいかな?」
はははっと笑って、頭をかくみずき。
「すごいですね〜。そんなに上手なマフラー、私も編めたらなぁ。」
「誰かにあげる予定でもあるの?」
未夢の呟きを拾い上げ、思わぬ質問をぶつけるみずき。
「え?!いや、えっと…その…。そういうことではなくて…。」
上手く答えられずに小声になっていく未夢。
「あっ、ごめんごめん。野暮なこと聞いちゃダメだね。大丈夫!未夢ちゃん!心を込めれば、絶対喜んでもらえるよ。頑張って!」
俯いていた未夢が顔をあげると、優しく微笑むみずきと目が合った。
その笑顔と言葉に、背中を押される。
「はい!私、頑張ってみます!」
思わず大きな声で、みずきに宣言する未夢。
ついでに編み方のポイントをみずきから教わって、その日はご機嫌で帰宅したのだった。
と、件の出来事を一通り聞いた綾とななみ。
結局昼休みは時間がなくなってしまったため、放課後皆が帰宅した教室で話を続けていた。
「じゃあ、それを目撃した誰かが勘違いしたってことなのねぇ…。」
「やっぱりねぇ。おかしいと思ったんだよ〜。未夢に他の男なんて。そんな恐ろしいこと。」
「だよねぇ。そんなことしたら、西遠寺君が壊れちゃうよねぇ。」
「え?なんでそこで彷徨が出てくるの?」
「ねぇななみちゃん。」
「だねぇ、綾。」
うんうんと頷く二人に、訳が分からないという顔の未夢。
「でも、西遠寺君も勘違いしてるかも。今日元気なかったし。」
「確かに。黒須君がいつも以上に一人で空回ってたもんねぇ。西遠寺君が上の空だったのかも。」
綾とななみの言葉に、ドキッとする未夢。
「彷徨……。」
小さく名前を呟く未夢に、今までと打って変わって真面目な顔になる綾。
「未夢ちゃん。大事な人に勘違いされたままって哀しくない?早めにきちんと誤解を解いた方がいいよ。」
「うん…。」
このまますれ違う二人を見たくないのは、綾もななみもおんなじで。
「そうだぞー未夢。未夢に彼氏がいるから西遠寺君はフリーだってことになって、女の子の勢いがすごいのなんの。」
「え?なんでそこで彷徨とつながるの?うーん、でもますます彷徨モテモテってことか〜。うぅ〜彷徨そういうの嫌いだし、怒ってるかな〜?恐いなぁ…。って、でも私は悪くないんだけど…。」
彷徨の気持ちに気付いていない未夢にはななみの話も伝わらず。
「いやいや、未夢ちゃん。そうじゃないでしょ。」
そんな未夢に思わずつっこむ綾。
いまだに理解出来ていない様子の未夢に苦笑いしつつ、ななみが話を戻す。
「まぁとにかく、早めに西遠寺君の誤解を解きなよ!未夢!」
「うん……。でも、なんて言ったらいいのかな〜?だって、彷徨はそんなこと興味ないでしょ?わざわざ説明するのって……恥ずかしいし…絶対バカにされる…。」
自分が彷徨に説明している様子を頭に浮かべて、顔を赤くする未夢。
「そんなことないと思うけど?むしろ未夢ちゃんの否定を待ってると思うけどなぁ。」
「あぁぁもどかしい。いっそのこと私が言ってしまいたいけど、これは二人で乗り越えて欲しいから、やっぱり未夢の口から説明するのが良いと思う。」
親友の言葉に、未夢は小さく頷くだけだった。
ロッカラビットの作品は時間軸を行ったり来たりすることが多いですね。
これって読みにくいですか?
また質問してるし(笑)
せっかく書いているのだし、何かしら改善しつつ作品投稿出来たらいいな…という向上心を垣間見せ(笑)
結局、出来なくてこのままになるんですがね…。
誰か教えて〜。
ハイッ。自分で勉強します…。
さて、次で最後ですね。5話は少し長くなりますのでご覚悟下さいませ。
ご覧いただき、ありがとうございました。