作:ロッカラビット
綾ちゃんとななみちゃんはああ言ってたけど、やっぱり言えないよぉ。
そもそも彷徨がこの噂を知っているかどうかもわからないじゃない…。
でも彷徨ってこういうの鋭いからなぁ…きっと知ってるよねぇ…。
知った所で私のことなんて気にしてないかな〜。
興味ないのに自分から噂を否定しに行くって…やっぱり出来ないよぉ。
だいたい彷徨に彼女が居ないって、そんなの前からだったじゃない!
今更そんな噂まで立つなんて、やっぱり彷徨って人気あるんだなぁ。
意地悪だし結構だらしない所だってあるのに…。
でも………。
私、いつから彷徨のことスキだったのかな?
口は悪いけど、結局いつも助けてくれて。
最初はルウ君の笑顔が見たくてしぶしぶ彷徨と仲良くしようって思っていたけど、最近は彷徨が笑っていると私も嬉しくて…。
彷徨が告白されている姿なんて以前からよく見かけていたことなのに、今はその姿に胸がぎゅうって締め付けられる。
私、こんなに彷徨のことスキだったんだ。
彷徨、噂を知ってどう思ったかな?
少しは気にかけてくれたかな?
ちょっとくらいヤキモチやいてくれたかな?って、そんな訳ないよね。
頭を悩ませる未夢は家への足取りも重くなる。
ようやく西遠寺に着いた時には、すっかり暗くなっていた。
「ただいま〜。」
玄関に入ると、奥からルウを抱いた彷徨がやってきた。
「遅かったな。……。なんかあったのか?」
未夢の表情が少し暗いのに気が付いた彷徨。
「ううん…。なんでもないよ。遅くなってごめんねぇルウ君いい子にしてた?」
「あーい。」
ニコッと笑いルウの頭を撫でると、未夢は自分の部屋へと消えて行った。
「……。はぁ。」
「る?」
未夢の後ろ姿を見送って、彷徨が小さくため息をついた。
そんな彷徨を小首を傾げてルウが見つめた。
***夕食後***
「おい、未夢いいか?」
未夢の部屋に彷徨がやってきた。
「彷徨?うん、いいよ。」
未夢の返事を聞いて彷徨が襖を開ける。
「どうかした?」
「いや、なんかお前元気なかったから。」
「え……?」
「別に言いたくないならいいけどさ。」
ぷいっと横を向く彷徨に、未夢がクスッと笑う。
「なんだよ。人が心配してやってんのに。」
少し頬を赤くした彷徨が抗議する。
「ごめんごめん。なんか、嬉しくて。」
未夢の言葉に驚いて彷徨が顔をあげる。
バチッと未夢と目が合わさり、二人は慌てて視線を外す。
「あっ、彷徨。あのね、彷徨も知ってるかもしれないけど。実は昨日ね、みずきさんに会ったんだ。」
この雰囲気を変えようと未夢が話し出す。
「あぁ、知ってる。」
「や、やっぱり、知ってたんだ。」
自分でもなんでこんな話を振ってしまったのかと後悔する未夢に、彷徨が知っていたという事実が追い打ちをかける。
恥ずかしさに顔を赤くして俯く未夢を、彷徨が悲しそうな顔で見つめていた。
「良かったじゃん。」
そのまま何も話さない未夢に、彷徨が優しい声をかける。
「え?」
彷徨の言葉に、驚いて顔をあげる未夢。
そんな未夢の様子に気付かない彷徨は話を続ける。
「みずきさん、いい人だしさ。憧れの人だったんだろ?良かったじゃん。」
「彷徨…。」
彷徨の言葉が胸に刺さって、言葉が出ない未夢。
何も言い返さない未夢に、彷徨も顔を曇らせる。
「あっ忘れてた。風呂、あいてるから入れよ。」
この空気に耐えられなくなった彷徨が、部屋を出ようと背中を向ける。
と、その時。
「待って!」
未夢が彷徨を呼び止める。
「なんだよ?」
振り返った彷徨の目に飛び込んできたのは、静かに涙を流す未夢の姿だった。
「お、お、おい。どうしたんだよ。」
思わず未夢に歩み寄る彷徨。
肩に手を置いて未夢の顔を覗き込む。
「え?……。あっ、私。」
自分でも気が付かないうちに流れていた涙に、いまさらながら気付く未夢。
「未夢?」
心配そうな彷徨の目をまっすぐ見つめると未夢が小さく呟いた。
「違うの。」
「ん?」
「違うの。みずきさんのこと。そんなんじゃないの。」
「え?」
未夢の言葉に驚く彷徨。
そんな彷徨の様子など気にも止めず話を続ける未夢。
「みかんさんに頼まれて、みずきさんに会ってたの。マフラーもみずきさんが編んだんだって。知らない間に噂になってて。それで、それで…。」
言いたいことはいっぱいあるのに、頭が混乱して上手く話せない未夢。
そんな未夢の話を静かに聞いていた彷徨が、ぽんっと未夢の頭に右手を置いた。
「ごめんな。俺、てっきり…。そっか…。違ったんだ…。」
俯き加減の未夢の頭を優しく撫でながら、彷徨が優しい言葉をかける。
と、次の瞬間。
未夢の肩に置いていた左手に力が入り、ひょいっと引っ張られるように彷徨の腕の中に納まる未夢。
「良かった。」
「?!?!?!?!」
彷徨の思いがけない行動と言葉に、驚いて目を丸くし固まる未夢。
しばらくの間、そのまま何も言わずに抱きしめる彷徨に、ようやく落ち着きを取り戻した未夢が話しかける。
「えっと…。彷徨?あの…。この状況は…。」
恥ずかしそうに腕の中から彷徨を見つめる未夢。
「未夢、なんで泣いてたんだ?」
「え?」
腕を解かないまま彷徨が未夢に問いかける。
予想外の質問に、未夢は視線をあちらこちらへとさまよわせる。
「それは…。その…。」
頬を赤くし言いよどむ未夢に、フッと笑うと彷徨が話を奪う。
「自惚れてもいいのか?それ。」
「え?」
彷徨の言葉に驚いて、視線を彷徨へ向ける未夢。
「未夢。俺、見てたんだ。あの時、公園の反対側で。」
「あ、じゃああの声は三太君。やっぱり居たんだ彷徨。」
未夢の小さな呟きは彷徨の腕の中で消え。
「ん?まぁ、とにかくそこで見てたんだ。
未夢がみずきさんに何か渡すとこ。
それでさ、なんだか未夢が遠くに行っちゃう気がして。
いや、別に未夢は元から赤の他人だしさ…。
誰かを好きになって付き合うことだってあるだろうし、当たり前のことなんだけど。
なんかすっげー辛くて。苦しくて…。」
そこまで言うと、彷徨は腕を少し緩めた。
先ほどより未夢の顔がしっかり見える。
「彷徨?」
その先の言葉を求めるように未夢が彷徨の名前を呟く。
優しく微笑んで、右手をまた未夢の頭にぽんっと乗せる彷徨。
「未夢、スキだよ。」
見つめあったままの視線が、どんどん熱をおびていく。
頭に乗せた右手がかすかに震えている。
息の仕方がわからなくなるほど、胸が苦しくなる。
部屋は静かなはずなのに、ドクドクと響く心音がうるさい。
どれだけの間そのままだったのかわからない。
少し落ち着いた彷徨が、頭にのせた右手をそのまま腰へと滑らせる。
そしてまた、未夢をぐっと抱き寄せた。
彷徨の胸にストンと納まった未夢の目から静かに涙がこぼれ落ちた。
「スキ。」
小さい声で呟いて、彷徨にぎゅっとしがみついた。
一瞬驚いた彷徨もすぐに優しく微笑むと、抱きしめたまま未夢の頭を優しく撫でた。
手に入れた宝物を壊さないように、優しくそっと。
***それからそれから***
クリスマス…彷徨の誕生日
彷徨の首には不格好な手編みのマフラーが。
未夢の右手の薬指にはアンティーク調の指輪が。
縁側に座って夜空を眺める二人。
聖なる夜に星に願う。
“ずっと一緒にいられますように…。”
ハッピーメリークリスマス!
ハッピーバースデー彷徨!
ささやかですが、ロッカラビットから皆様に一足早いクリスマスプレゼントでしたが、いかがでしたでしょうか?
え?いらない?
ですよねぇ…。(笑)
では、この作品を読んで下さった方に幸多からんことを願って…☆☆☆
皆様も素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ♪