君の隣は誰のモノ?

4.

作:ロッカラビット

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最後のゲームは三太とカイトが鬼となった。


「「がんばるぞ!オー!」」


という未夢とハヤトの元気な声に、周りの皆も笑顔になった。


「だ〜る〜ま〜さ〜 ―――――――。」


今日何度目かの、この掛け声。

最後ということもあり、鬼役も他の皆も真剣そのものである。



鬼までの距離があと半分になった未夢とハヤト。

他のチームも背後に迫って来ている。


「だ〜る〜ま〜さ〜。」


鬼が木の方へ振り返った途端、ハヤトが未夢を引っ張って走り出す。

しかし、鬼もここで仕掛けてきた。


「―――〜が〜、ころんだ!!!」


それまでのんびりだった掛け声を、最後は早口で言い終えるとヒュンッと後ろを振り返った。

慌てたハヤトは、急に止まろうとして前のめりに倒れそうになる。

驚いた未夢は、それを阻止するためにハヤトの手を後ろに引っ張った。

未夢のおかげでなんとかバランスを保てたハヤトは、そこで立ち止まる。

しかし、その勢いに負け未夢が後ろへドシンと尻餅をついてしまった。


「いたたたた………。」


腰のあたりをさする未夢。


「おねえちゃん!!!だいじょうぶ〜?」


木の傍で見ていたナナが立ち上がって、心配そうな顔を浮かべている。


「あっ……。ごめ〜ん!ナナちゃん!私、動いちゃった。最後なのに、負けちゃったよ〜。」


未夢は体についた砂をはらいながら立ち上がると、ナナに申し訳なさそうに謝った。

隣にいたハヤトがギュッと右手を握った。

気付いた未夢が屈んでハヤトの顔を覗くと、とても悔しそうに地面を見つめていた。


「おねえちゃん!まだ終わってないよ。捕まっても、逃げられれば負けじゃないもん!きっと誰かが助けてくれるから、最後まで頑張って!」


ナナの声に顔をあげたのはハヤトだった。

ハヤトが後ろを振り返る。

未夢もつられて振り返ると、そこにはゲーム途中で止まったままの皆が微笑んでいた。


「光月さ〜ん!続けるから、こっちこっち〜。」


鬼役の三太に呼ばれ、未夢とハヤトは顔を見合わせて笑うとナナに手を振って答えた。


「ナナちゃん!鬼から逃げ切って、絶対勝つからね〜!」



そんな様子を彷徨と手を繋いだミクが寂しそうに見つめていた。

ハヤトの見つめる先はナナということに、この小さな女の子は気付いていた。

そして、自分の小さな恋心にも。



鬼の三太が手を出すと、未夢がその手を握った。

三太はその繋いだ手を上にあげると、皆の方へ向かって一言。


「ルール変更!今まで、鬼にタッチしたら逃げて良いってことになってたけど、今回はこの繋いだ手から光月さんを奪って逃げることにするから〜。じゃ、続けるよ〜。」


この三太の提案に、ニヤリとしたのは綾とななみ。

顔をしかめたのは彷徨だった。


「だ〜る〜ま〜−―――――。」



「おにいちゃん、いくよ!」


再び掛け声がかかると、ミクが彷徨の手を引いて小走りに進む。

少しずつ鬼への距離を縮める中、小声でミクが話しかける。


「おにいちゃん、欲しいものは自分で捕まえないと、手に入らないよ。」


またしても幼稚園児とは思えない言葉に唖然としつつも、その言葉が痛いほど胸に刺さった。

目線だけミクにやると、その視線は真剣で。

ただ、その視線の先に居るのは鬼でも、未夢でもなく…。


最後のゲームに負けたくないのは皆一緒のようで、ななみとタイチチームも隣に迫っていた。

綾とリサチームは2歩程後ろにいる。


「ここは王子様みたいに、かっこよくお姫様を助けなきゃ。」


ミクが彷徨の手を引いて鬼の元へと急ぐ。

フッと鼻で笑うと、彷徨も小声で返す。


「ミクは、ハヤト君だろ?」


繋いだ手に一瞬緊張が走る。

それでも動いたら鬼に捕まってしまう。

ミクは小さい声で呟く。


「お姫様が王子様を助けるのも悪くないでしょ?」


顔を動かさずにミクを見る。

小さい彼女の表情を覗くことは出来ないが、凛として立つその姿には頼もしささえある。


「じゃ、奪いに行きますか。」


ボソッと呟くと、彷徨がミクを抱き上げた。


「だ〜る〜ま〜−――――。」


鬼の声を聞きながら、未夢の元へと一直線。

ミクを抱き上げたまま、未夢の手を取る。


「お姫様、参りましょう。」


ニヤッと笑って駆け出す彷徨。

一瞬の出来事に、未夢もミクもハヤトも、そして鬼の二人も呆然としていた。

それでも彷徨に引っ張られるように逃げて行く未夢とハヤト。

抱えられたままのミクは、その様子に笑い声をあげた。

その声に我に返った鬼の二人。


「ストーップ!」


慌てて発したが、時すでに遅しで…。


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