作:ロッカラビット
最後のゲームは三太とカイトが鬼となった。
「「がんばるぞ!オー!」」
という未夢とハヤトの元気な声に、周りの皆も笑顔になった。
「だ〜る〜ま〜さ〜 ―――――――。」
今日何度目かの、この掛け声。
最後ということもあり、鬼役も他の皆も真剣そのものである。
鬼までの距離があと半分になった未夢とハヤト。
他のチームも背後に迫って来ている。
「だ〜る〜ま〜さ〜。」
鬼が木の方へ振り返った途端、ハヤトが未夢を引っ張って走り出す。
しかし、鬼もここで仕掛けてきた。
「―――〜が〜、ころんだ!!!」
それまでのんびりだった掛け声を、最後は早口で言い終えるとヒュンッと後ろを振り返った。
慌てたハヤトは、急に止まろうとして前のめりに倒れそうになる。
驚いた未夢は、それを阻止するためにハヤトの手を後ろに引っ張った。
未夢のおかげでなんとかバランスを保てたハヤトは、そこで立ち止まる。
しかし、その勢いに負け未夢が後ろへドシンと尻餅をついてしまった。
「いたたたた………。」
腰のあたりをさする未夢。
「おねえちゃん!!!だいじょうぶ〜?」
木の傍で見ていたナナが立ち上がって、心配そうな顔を浮かべている。
「あっ……。ごめ〜ん!ナナちゃん!私、動いちゃった。最後なのに、負けちゃったよ〜。」
未夢は体についた砂をはらいながら立ち上がると、ナナに申し訳なさそうに謝った。
隣にいたハヤトがギュッと右手を握った。
気付いた未夢が屈んでハヤトの顔を覗くと、とても悔しそうに地面を見つめていた。
「おねえちゃん!まだ終わってないよ。捕まっても、逃げられれば負けじゃないもん!きっと誰かが助けてくれるから、最後まで頑張って!」
ナナの声に顔をあげたのはハヤトだった。
ハヤトが後ろを振り返る。
未夢もつられて振り返ると、そこにはゲーム途中で止まったままの皆が微笑んでいた。
「光月さ〜ん!続けるから、こっちこっち〜。」
鬼役の三太に呼ばれ、未夢とハヤトは顔を見合わせて笑うとナナに手を振って答えた。
「ナナちゃん!鬼から逃げ切って、絶対勝つからね〜!」
そんな様子を彷徨と手を繋いだミクが寂しそうに見つめていた。
ハヤトの見つめる先はナナということに、この小さな女の子は気付いていた。
そして、自分の小さな恋心にも。
鬼の三太が手を出すと、未夢がその手を握った。
三太はその繋いだ手を上にあげると、皆の方へ向かって一言。
「ルール変更!今まで、鬼にタッチしたら逃げて良いってことになってたけど、今回はこの繋いだ手から光月さんを奪って逃げることにするから〜。じゃ、続けるよ〜。」
この三太の提案に、ニヤリとしたのは綾とななみ。
顔をしかめたのは彷徨だった。
「だ〜る〜ま〜−―――――。」
「おにいちゃん、いくよ!」
再び掛け声がかかると、ミクが彷徨の手を引いて小走りに進む。
少しずつ鬼への距離を縮める中、小声でミクが話しかける。
「おにいちゃん、欲しいものは自分で捕まえないと、手に入らないよ。」
またしても幼稚園児とは思えない言葉に唖然としつつも、その言葉が痛いほど胸に刺さった。
目線だけミクにやると、その視線は真剣で。
ただ、その視線の先に居るのは鬼でも、未夢でもなく…。
最後のゲームに負けたくないのは皆一緒のようで、ななみとタイチチームも隣に迫っていた。
綾とリサチームは2歩程後ろにいる。
「ここは王子様みたいに、かっこよくお姫様を助けなきゃ。」
ミクが彷徨の手を引いて鬼の元へと急ぐ。
フッと鼻で笑うと、彷徨も小声で返す。
「ミクは、ハヤト君だろ?」
繋いだ手に一瞬緊張が走る。
それでも動いたら鬼に捕まってしまう。
ミクは小さい声で呟く。
「お姫様が王子様を助けるのも悪くないでしょ?」
顔を動かさずにミクを見る。
小さい彼女の表情を覗くことは出来ないが、凛として立つその姿には頼もしささえある。
「じゃ、奪いに行きますか。」
ボソッと呟くと、彷徨がミクを抱き上げた。
「だ〜る〜ま〜−――――。」
鬼の声を聞きながら、未夢の元へと一直線。
ミクを抱き上げたまま、未夢の手を取る。
「お姫様、参りましょう。」
ニヤッと笑って駆け出す彷徨。
一瞬の出来事に、未夢もミクもハヤトも、そして鬼の二人も呆然としていた。
それでも彷徨に引っ張られるように逃げて行く未夢とハヤト。
抱えられたままのミクは、その様子に笑い声をあげた。
その声に我に返った鬼の二人。
「ストーップ!」
慌てて発したが、時すでに遅しで…。