作:ロッカラビット
「あ〜あ結局最後に負けちゃったな〜。三太にいちゃんが変なルールに変えるからだよ〜。」
じとっと冷たい視線を送るカイトに、両手を合わせて頭を下げる三太。
「あ〜。だから、悪かったって〜。もう許してくれよ〜。」
楽しい遊びの時間も終わり、そろそろ中学生が帰る時間。
すっかり仲良くなった仲間との別れに、少し寂しさもつのる。
「ななみねえちゃん、今度俺の店に食べに来てね。」
「もっちろん!まさかあのお好み焼き屋さんがタイチ君の家だったとは〜。一度行ってみたかったんだよね〜。」
「え〜?じゃあ、あの演出もおねえちゃんが考えたの?」
「フフフッそうなのよ〜。リサちゃん、今度の芸術祭もぜひ観に来てね〜。」
「もちろん、ママと一緒に絶対観に行くからね。リサもいつかあんな大きな舞台で演じてみたいな〜。」
「その時は、私が演出出来たらいいな。リサちゃんも劇団の練習頑張ってね。」
「ナナちゃん、ハヤトくん、今日はとっても楽しかったよ。ありがとう。」
「私も楽しかった。最後は勝てて良かったねハヤト君。ナナも嬉しい。」
「っ!!………。未夢お姉ちゃん、ありがとう。」
言葉と共にハヤトの手を掴んで笑顔を送るナナに、顔を真っ赤にするハヤト。
そんな様子を微笑ましく見ていた未夢に、ハヤトが照れ笑いを浮かべながら答えた。
「ありがとな。勇敢なお姫様。」
屈んでミクと視線を合わせる彷徨。
「彷徨お兄ちゃんもとっても素敵な王子様だったよ。」
ニコッと笑って答えるミク。
「あっ、でも……。彷徨お兄ちゃんの隣にはずっと未夢お姉ちゃんが居て欲しいな。未夢お姉ちゃんがいないと王子様にならないもんね。」
いたずらそうな笑顔を向けてミクが続けた。
「んなっ……!!!何、言って……。ったく、最近の幼稚園児はなんでこんなにませてんだ?」
ミクの発言に言葉を失いつつも、苦笑いを浮かべて呟く。
「さ〜て、皆お別れの挨拶は終わったかしら〜?学校へ戻るわよ〜。」
水野の声に、中学生が集まってくる。
最後に皆で声を揃えてお礼を言うと、一緒に過ごした園児に手を振りつつ幼稚園を後にした。
「今度、カイトに妖怪大百科を貸すんだ〜。」
嬉しそうに話す三太に、彷徨が呆れた顔をする。
「三太君、カイト君とすっかり仲良しさんだね〜。」
そんな様子に、未夢が声をかける。
「未夢も二人のお母さんみたいだったよね。」
「うんうん、本当にそんな感じだったよねぇ。」
ななみと綾が頷き合う。
「え?そうかなぁ……。」
照れ臭そうに笑う未夢の頭にポンポンと手をのせる彷徨。
「ありがとな。」
ボソッと呟いた言葉は未夢にしか聞こえなかったようで。
「え?」
未夢が不思議そうに彷徨を見上げる。
すっかり幼稚園での思い出話に花を咲かせる三人をよそに、彷徨が話を続ける。
「ナナちゃんのこと。俺、水野先生に聞いてたのに何も出来なかったし。」
「あぁ、そうなんだ。」
「まぁ、未夢よりもナナちゃんがしっかりしてたおかげかもしれないけど。」
「んなっ!ん〜〜。確かにそうなんだけどさ〜。」
彷徨の言葉に、いつものように反論出来ない未夢。
「まっ、でも未夢じゃなきゃ、きっとナナちゃんもあんなに心を開かなかっただろうし。
未夢のおかげだな。」
前を向いたまま話す彷徨に、驚いたように顔をあげる未夢。
彷徨の顔を見つめてしばし呆然の未夢だが、ハッと気が付いて頬を染める。
「そ、そ、そういえば、彷徨。お姫様って何のこと?」
予想していなかった彷徨の褒め言葉にドキドキしつつ、話を変えようとする未夢。
しかし、話を振られて驚いたのは彷徨の方で。
「えっ?………。あ〜、あ、あ、あれは……。」
彷徨が言いよどんでいると。
「ミクちゃんとお姫様ごっこでもしてたの?確かに抱き上げてる姿は、王子様みたいだったもんね。」
少し治まった赤い顔に笑顔を浮かべて、その時を思い出すように話す未夢。
そんな未夢に、先ほどとは違い落胆の表情を見せる彷徨。
はぁぁ〜、と大きなため息をつく。
「え?彷徨、どうしたの?」
そんな彷徨の心情などまったく理解していない未夢が、不思議そうな顔をする。
「おまえなぁ……。俺の気持ちにも少しは気が付いてくれないかなぁ〜。」
嘆くように呟かれた彷徨の言葉は、未夢には届かなかったようで…。
そんな二人に、後ろから声がかかる。
「お二人さん、そろそろ離れた方がいいですよ。」
緊張した声色に二人が振り返ると、言葉を発したななみとその両隣に居た三太と綾が逃げ出すところだった。
「やべっ。」
その緊急事態に瞬時に気が付いた彷徨が未夢の手を握る。
「ふぇ?」
事態を飲み込めていない未夢が、握られた左手にびっくりしてまぬけな声をもらす。
「参りましょう、お姫様。」
そんな未夢にニヤッと笑って彷徨が告げる。
一瞬の出来事に理解できないまま、未夢は彷徨に引っ張られつつ走り出す。
逃げ出した後ろの方で、クリスが電信柱を引っこ抜いて大暴れする声が響いていた。
しばらく走って角を曲がると路地に隠れるように身を潜める。
息を整えつつ地面に腰をおろす。
隣で未夢も疲れ切ったように座り込む。
繋いだままの右手に目を向ける彷徨。
「あっ……。」
その視線に気が付いた未夢が慌てて手を離そうとする。
「え?」
離そうとした手を逆に強く握られ、未夢が驚く。
何も言わずに握り続ける彷徨に、未夢も言葉が出てこない。
しばらく手を繋いだまま、言葉も発せずにいる二人。
先に口を開いたのは彷徨だった。
「未夢の隣は居心地がいいな。」
「え?」
「だ〜か〜ら〜、…………。はぁ…。」
もう一度口を開いた彷徨だったが、未夢の反応に言葉を止めてまたため息をつく。
「幼稚園児に負けてるな。」
呆れたような切なそうな眼差しで未夢を見る。
「な、な、なによ〜!彷徨が訳わからないこと言うからでしょ〜?いきなりお姫様って言われても意味わかんないし。それに、手だって握ったままだったし…。」
どんどんと声を小さくして俯く未夢。
そんな様子に、フッと笑うと左手を未夢の頭に乗せる。
「難しいか?とっても簡単だぞ?」
彷徨の優しい声につられるように顔をあげる未夢。
自然に見つめ合う二人。
「俺は未夢が好きだ。…………。だから、未夢の隣は俺のものにしたいってこと。この手も他の奴に繋がせたくないの。………。わかったか?」
ゆっくりとそう告げて、いたずらそうに笑う彷徨。
未夢の頭に、彷徨の言葉がスーッと入ってくる。
ドキドキと激しい鼓動が響いて胸が苦しくなる一方で、そんな自分をまるで他人事のようにも感じる。
彷徨の言葉に動揺する自分と、冷静に受け止めている自分。
ふと、見つめ続けていた彷徨の瞳の奥に、微かに不安の色を見つけた未夢。
よく見ると繋がれた彷徨の手が少し震えているのにも気付く。
普段は余裕たっぷりの彷徨のその姿に、場違いだと思いつつも少し安心を覚える。
「私でいいの?」
思わず口から出た言葉に、彷徨が答える。
「おまえじゃなきゃ、ダメなの。………。俺じゃダメ…か?」
未夢を求めるその瞳が揺れる。
「私……、私も、彷徨が好き。彷徨の隣にいたいよ。」
最後は顔を隠すように、彷徨に抱きついた。
未夢を抱きしめて、優しく頭を撫でる。
ドキドキと響く鼓動は自分の物なのか未夢のものなのか、もうわからない。
しばらくじっと抱かれていた未夢が、ごそごそと動き顔をあげて彷徨を見る。
「王子様、そろそろ戻らないと。」
頬を染めつつ、ニコッと笑う未夢。
そう発せられた言葉は、この状況に対しての照れ隠しなのだろうが、彷徨には逆効果なようで…。
「それ、誘ってるとしか思えない。」
ボソッと呟くと、見上げる未夢の顔に自分の顔を近付ける。
「んっ……。」
目を開いたままだった未夢が、突然口を塞がれて声をもらす。
「ちょっちょっと彷徨。」
慌てて彷徨を押して、体を放す。
恥ずかしそうに顔を赤くする未夢を、もう一度引っ張って自分の元へと寄せる彷徨。
「もうちょっとだけ。」
抱きしめた未夢の耳元で囁くと、もう一度未夢の顔を自分の方へ向かせて口づけをする。
今度のキスは深く長く…。
遠くで二人を呼ぶ声がする。
もう少しだけ……身を隠す二人は秘密の甘い時を過ごした。
またまたお題をいただきまして、嬉しくてルンルン♪しつつ書いてみたら…。
なんだかお題から大きくそれてしまいました。
お題は、【家庭科の実習で保育園に行くみたいな、夫婦感が出ちゃう感じのもの】だったのですが…。
あれ?夫婦っぽい感じが全くないですね(汗)
ご希望にそえずすみません。
幼稚園にしたのが失敗だったかな…。
1歳児くらいを相手にしないと、ルウ君との絡みのような夫婦的な二人にならないのかも。
子どもって案外しっかりしてますよねぇ…。←自分の無能さを棚に上げ言い訳(笑)
とは言いつつ、反省してますよ!←この反省が生かされないのが問題ですね(笑)
短編でアップの予定が長編になってしまったし、なんだかグダグダですみません。
お名前が無かったのですが、リクエスト下さった方ありがとうございました。
お題自体はとても素敵だったのに、生かせなかったのが悔しいです…。
長くなりましたね、ではでは。
ご覧いただき、ありがとうございました。