君の隣は誰のモノ?

3.

作:ロッカラビット

←(b) →(n)



未夢のペアを組んでいたナナは、先ほどから鬼がいる木の木陰で休みながら皆の遊ぶ様子を眺めていた。



最初は元気いっぱいだったナナがゲームを進めるうちに、疲れた顔をしているのに早い段階で気が付いた未夢は、1回だけゲームから抜けることにした。

そして木陰でナナとハヤトと少しお話をする。

ナナは、教室で絵を描くことの方が得意らしく、外遊びが苦手らしい。

それでも今日はとても楽しくてフルパワーで遊び、少し疲れてしまったようだった。


「みゆおねえちゃんとハヤトくんは、遊んでて。」

「え?でも、ナナちゃん一人じゃ寂しくない?」


眉を下げて、心配そうな顔で未夢がたずねる。


「あのね、ナナ、ここで見ているのも好きなの。いつもねここにすわって、みんなが遊ぶのを見てるんだ。それをあとで絵にするの。とっても楽しいんだよ。」

「………………。ナナちゃんには、ナナちゃんのたのしみがある。」


ずっと言葉を発することがなかったハヤトがぽつりと言った。

その言葉に、ナナがニコッと笑って続ける。


「うん!ナナはここで見ていたいの。だめ?」

「………。うん。わかった。じゃあ、ナナちゃんの分も二人で頑張ってくるから見ててね。また一緒にやりたくなったら、いつでも言ってね。」


未夢は優しくナナの頭を撫でると、ちょうど区切りのついたゲームへ再び戻って行った。


ゲームの区切りごとにナナに声を掛けていた未夢が、次が最後だから一緒にやらない?と誘ったのだが、ナナはここで見ていると笑顔で答えた。


「じゃあ最後のゲーム、ナナちゃんの分も気合を入れてやろうね!ハヤト君!」


右手はハヤトと手を繋ぎ、左手に拳を作った未夢が屈んで目線を合わせると、ハヤトも嬉しそうにニコッと笑った。


「「がんばるぞ!オー!」」

「ふたりとも、がんばってね〜!」


二人で声を合わせて拳をあげると、木陰から可愛い声援が聞こえた。

二人はその声援に手を振って答えると、スタート地点へと戻って行った。




水野からナナの体があまり丈夫ではないと聞かされていた彷徨。

クラス委員長ということもあり普段から頼られることの多い彷徨は、今回もナナの相手を任されることになっていた。

けれど他のメンバーはそのことを知らない為、ペア決めでは未夢が相手をすることになってしまった。

ゲームをしながらナナの様子を気にかけていたのだが、自分より早く未夢の方が行動に出ていた。


「ごめんね〜、私ちょっと疲れちゃったから1回だけゲーム休ませてね〜。」


そう言ってゲームから抜ける未夢。

両手に繋がれた子どもたちを連れて木陰へ。


「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

「未夢ちゃん大丈夫?」


リサと綾の言葉に、大丈夫だよ〜と手を振って答える未夢。



普段はそそっかしくて見ているこっちがハラハラする事の方が多いのに、こういう時の未夢は頼りがいのある顔をしている。

訳を知っている彷徨は、未夢の顔に母親のような強さを感じて、思わず見つめていた。


「お〜い、西遠寺く〜ん。そろそろ続きをしませんか〜?未夢ちゃんが心配なのもわかるけど〜。」


声を掛けられてハッと振り返ると、ニヤッと笑うななみと目が合う。

よく見れば、他の連中もニヤニヤとこちらを見ていた。

理由を知らない友人たちに、上手い言い訳も思いつかず無言でかわすしかなかった。


「よ〜し、じゃあ続きやるぞ〜。」


もう一度ちらっと横目で未夢を見て、楽しそうに会話する3人に安心しつつゲームを再開した。




鬼役のななみとタイチの声を聞きつつ、思い出す。


ルウが熱を出した日のこと。

なんだか今日は機嫌が悪いなぁくらいにしか感じていなかったルウの様子の変化に、一番に気が付いたのは、やっぱり未夢だった。

幸い、微熱が出ただけで大事に至らずに済んだが、それもきっと未夢が早くに気が付いたおかげだったんだと、今ならわかる。


自分のことは何でも後回しにするくせに。

俺の気付いて欲しい想いには鈍感なくせに。

あいつ自身が自分の気持ちに鈍感だから、仕方ないか。


無意識のうちにフッと笑ってしまい、それを隠すように左手を顔にあてた。


「はいっ!そこ動いた〜!西遠寺君ペア失格〜!」


ななみの嬉しそうな声にハッとする。

右手の先を見るとプーっと頬を膨らませて怒るミクの姿があった。


「あっ、わりぃ。」


その姿に、今まで思い返していた彼女の姿が重なって、思わず顔を背けて素っ気なく謝る。


「もう!かなたお兄ちゃん、ちがうことかんがえてたでしょ!しっかりしてよね!」


幼稚園児とは思えぬ口ぶりに苦笑いを浮かべつつ、鬼のもとへつかまる。


「で、何考えていたのかな?あっ、“誰のこと”の方が正しい?」


小声で囁かれた言葉に、顔を赤くしつつ抗議の視線を鬼へ向ける。


「じゃ、続けるよ〜。」


その視線をかわしつつ、ななみがゲームを続けた。



←(b) →(n)


[戻る(r)]