作:ロッカラビット
***グループ決めから一週間後***
「あら、おばたんも来てたの。」
「お、おばたん……もしかして……。」
「ももの木幼稚園だからな。」
右隣からは小さな女の子に「おばたん」と呼ばれ、その状況を目にした訳知り顔の彷徨が左側でボソッと呟く。
「うっ……。」
相変わらずの「おばたん」呼びにか、するどい彷徨のツッコミにか、未夢は言葉を詰まらせる。
「安心ちて、おばたん!もも組は昨日の担当だったから、今日は他の組がお相手するわ。ももかが相手じゃなくて残念だったわね。じゃあね、おばたん。」
それだけ言い終えると、そそくさと自分のクラスへ戻って行くももか。
「まぁ確かに、未夢の場合は“幼稚園児に遊び相手をしてもらう”の方が正しいのかもしれないな。」
「な!なんですってー!」
隣で聞いていた彷徨に追い打ちをかけられ、ぷんすか怒る未夢だったが、自分でも少しそうなりそうだと自覚していた。
先週のグループ分けは、今日行われる幼稚園訪問に向けてのものだった。
訪問と言っても何か特別なことがあるわけではなく、園児の遊び相手をするというものだ。
幼稚園の園長と水野先生が親しい間柄ということで、急遽このプログラムがたてられたらしい。
クラスごとに日程を分けて幼稚園を訪問することになり、ももかは昨日のクラスの担当だったようだ。
中学生同様に、幼稚園側もクラスの中でグループ分けをされており、今日はそのグループごとで遊ぶ。
「それぞれグループごとに分かれたわね〜。これから半日、幼稚園の皆と仲良く過ごすように〜!では、各自行動開始!」
水野の号令を合図に、グループごとにそれぞれスタートした。
彷徨たちのグループには、女の子と男の子がそれぞれ3人ずつの計6人が任された。
幼稚園児といえど女の子は、しっかり女の子で。
簡単な自己紹介を終えるとすぐに、三太をほったらかして3人で彷徨の周りを囲んでいた。
「うぅ…。どうせ俺なんて…。」
しゃがんで地面にいじいじと変な絵を描きだした三太に苦笑いしつつ、ななみが提案をした。
「じゃあ、それぞれペアを決めよう!それで、ペアごとに手を繋いでチームになって、皆で“だるまさんがころんだ”をやろう!」
「おっ!いいねぇそれ!じゃあ、ここにあみだくじを描いてっと…。」
先程まで落ち込んでいたのがウソのように、三太が地面に線を引く。
あみだくじの結果は…。
三太と組むのは、妖怪大好き“カイト君”。
ななみの相手は、食いしん坊の“タイチ君”。
綾は、おしゃべり好きな“リサちゃん”と。
彷徨が、ちょっとおませな“ミクちゃん”に。
未夢は、大人しい“ナナちゃん”と寡黙タイプの“ハヤト君”の二人を相手することになった。
ペアも決まり、中学生が代表でじゃんけんをした結果、最初の鬼は三太チームに。
「よ〜し、じゃあ始めるぞ〜。」
彷徨の掛け声のもと、鬼以外の全員が声を出す。
「はじめの一歩!」
掛け声と共に、勢いよく前に一歩ジャンプする園児に、中学生たちも笑顔で合わせた。
「だ〜る〜ま〜さ〜ん〜が〜こ〜ろ〜ん〜だ!」
三太とカイトの声が見事に重なる。
振り返って見渡して、また木の方へ姿勢を戻す。
「だ〜る〜ま〜さ〜 ――――――。」
「あいつら何か似てるな。」
未夢の隣で、いや正確には未夢と手を繋ぐハヤトの隣にいた彷徨が、三太たちを見ながら呟く。
「え?」
未夢が彷徨の方へ顔を向けた所で、ちょうど掛け声が止まった。
未夢も横を向いたまま動きを止める。
まっすぐ前をみつめる彷徨の横顔に、なんだか少しドキッとして顔が熱くなる未夢。
見つめられている彷徨もなんだか落ち着かなくて、心の中で『早く続けろよな、三太』と悪態をついた。
鬼がまた声を出し始めると、二人は何事もなかったかのように前を向き、ほんのり赤く染まった顔を戻すべくゲームに集中した。
そんなこんなでゲームは進み、鬼も何度か交代した。
子どもたちの楽しそうな笑い声に、中学生組もすっかり童心に帰っていた。
楽しいと時間が経つのも早い。
お昼の時間が近付いたこともあり、次のゲームで終了にしようという彷徨の提案に皆も同意した。