七月の星達

【4.想い】

作:ロッカラビット

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本物の織姫と彦星に出会い未夢救助作戦を練る彷徨。
無事に未夢を救い出し、元の世界に戻ることは出来るのか…。

七月の星達、第4話、【想い】


☆★☆七夕☆★☆


―――織姫屋敷―――

「せっかくの七夕、雨になっちゃった。」

「そうですね。今日は船での川渡りは難しそうですね。」

「え?じゃあ会えないの?かな、じゃなくて彦星様に。」

「???何をおっしゃっておられるのですか?雨の日は虹を渡って会いに行くことになっているではありませんか。昨年も雨でしたので、虹をお渡りになって。姫様は船頭もおらず二人きりで過ごせるから、雨の日の方が良いとご機嫌で帰って来られましたが…。」

「あっそうだったわね。なんだか遠い記憶のようで忘れていたわ。」

「はぁ…。ただ橋の途中まではお供の者がついてまいりますので、また逃げ出そうなどとお考えありませんように。」

「うっ。はい。」

「さて、それでは準備も整いましたので参りましょうか。」

はぁ。感謝の弁は何とか暗記出来たけれど、その後彷徨に会ってどうやって逃げればいいのか…。彷徨は何か考えてくれているのかな?きっと彷徨のことだから上手く逃げ出す方法を考えているとは思うけれど…。

未夢は一抹の不安を胸に七夕の儀へと足を向けた。


―――彦星屋敷―――

「さて、彷徨、織姫、参ろうか。」

「えぇ。行きましょう。」

「ちょっと待った!」

「「???」」

「10分だけ俺は部屋を開けるから、二人で過ごしたらどうだ?今日までせっかく二人で過ご
せたのに、世話人役の為に色々忙しくてゆっくり話もしてないんだろ?今日が終わればまた1年会えないのなら、せめて…。」

「ありがとう、彷徨。」

「じゃ、10分だけだからな。」

彷徨は静かに部屋を後にした。


「織姫、短い時間だったがそなたと過ごせて幸せだった。もしも願いが叶うならずっと一緒に居たいけれど、まだその時では無いのかもしれないね。」

「彦星、私も幸せだったわ。ずっと傍であなたを見ていたいけれど、今はまだ叶わないとわかっているわ。でも、またいつか必ず。」

「あぁ、いつか必ず二人で共に暮らそう。」

約束するように二人はそっと唇を重ねた。


その頃彷徨は、川が見渡せる廊下で織姫屋敷を見つめていた。

「想いが通じ合っていても離れて暮らさなければいけない…かぁ。ルウやワンニャーもいつか
オット星に帰る時がくるんだよなぁ。それに未夢だって……。」

彷徨の切ない呟きは轟々と流れる川に飲み込まれ、誰に拾われることもなく消えていった。


「さて、それでは彷徨、参ろうか。」

「よし、行こう。」

「えぇ、参りましょう。」

部屋に戻った彷徨を笑顔の二人が出迎え、そしていざ七夕の儀へ向かうこととなった。


―――虹の橋―織姫側――

「それではここで織姫様による感謝の弁を。」

「あっ。はい!」

緊張して手足の動きがおかしく、まるでロボットのような未夢が舞台にのぼり聴衆の前に立った。ふぅと一呼吸して辺りを見渡すと、目線の先に織姫の父親と思われる人がいた。未夢はその姿に自分の父親を重ねた。

私もいつか、パパの元を去る時が来るんだ。きっとパパは泣いて嫌がるだろうなぁ…でも最後は絶対に背中を押してくれる気がする。

ずっと傍にいたい織姫と彦星、でも二人でいると仕事が手につかなくなる。

そっか…。想いが強すぎる二人をわざと離しているんだ。1年に1度だけ会える、そのことの意味を。離れた分だけ成長する二人、仕事に対する思いと相手を愛し想い合う気持ちの二つを、上手に折り合っていける人になれるように。

しばらく織姫の父親を見つめながらそんなことを思った未夢は、優しく微笑むと心を込めて感謝の弁を述べた。

例年と違い父親への愛情がこもった感謝の弁に涙をする者もいた。心なしか織姫の父も目に涙を浮かべていた。


「姫様、今日のお言葉は本当に素敵でございました。」

「あっ、ありがとう。」

未夢は照れながらお礼を言うと言葉を続けた。

「いつもありがとう。あなたが傍にいてくれたから、寂しくなかったわ。」

「???いえ、そんな恐れ多い。」

未夢はここ数日、知らない場所に一人で居たことを思い出し、例え織姫だと思っていたとしても自分にとても良くしてくれた彼女に礼を言った。心細い時もあったけれど、彼女がいつも傍にいてくれたおかげで寂しい思いはしなかった。

未夢の優しい笑顔に思わず見惚れていた世話人は

「なんだか今日の姫様は姫様でないみたいです。女のわたくしでも思わず…。」

と少し頬を染めて笑った。


「さぁ、それでは姫様虹の橋へ。いってらっしゃいませ。」

世話人に見送られ、未夢はお供を連れて虹の橋へと足をかけた。


途中まで行くとお供の二人が足を止めた。ここから先は未夢一人で進むのだ。虹の橋を渡るなんて夢みたいに嬉しいことなのに、いざ一人になると心細くなってきた。本当に彷徨は来てくれるのかな?もし来なかったら?これからどうすればいいんだろう。元の世界に戻る方法だってわからないし。

そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていた。


その時、

「未夢!!」

聞きなれた声にハッとして顔を上げた。

そこには待ち望んだ人が立っていた。

「彷徨!!」

嬉しくなって小走りに彼の元へと走る未夢。

「未夢!大丈夫だったか?」

彷徨の不安げな顔にとびきりの笑顔で

「大丈夫だよ!」

と答える未夢。そんな姿に思わず顔を朱に染める彷徨。

「???彷徨???どうしたの?あっどこか具合悪い?」

急に黙り込んだ彷徨を心配して未夢が顔を覗き込む。

「わっ、いや、な、な、なんでもないって。」

慌てて顔を横へやる彷徨。

「変な彷徨〜。でも、元気そうで良かったよ〜。」

といつもの未夢に、こいつまったく俺の気持ちに気付いてないな…と安心したような少し寂しいような想いを抱いて苦笑いする彷徨。

「「あの、お二人さん。」」

「あっ悪い。忘れてた。」

「え?彷徨、お供の人たちここまでついてきたの?」

未夢が不思議そうに二人を見ている。

二人は顔を見合わせて、それから頭巾と布をはずして未夢に対面した。

「あぁぁぁ!!!」

未夢の叫び声が響いた。

「ごめんね、未夢さん。私の代わりに織姫を演じてくれてありがとう。」

「迷惑をおかけしました。今日でそれも終わりですから。」

深々と頭を下げる二人に未夢は慌てた。

「いや、いえ、そんな、そんな、大丈夫ですから!何も怖いことも無かったですし。それに…。」

顔をあげる二人にニコッと笑って未夢が続けた。

「それに、織姫様になれるなんてちょっとロマンチックでドキドキして、素敵な時を過ごせたから、こちらこそありがとう。」

織姫と彦星は顔を見合わせると、プッと噴き出して笑った。

「未夢さんはとても素敵な方ですね。」

彦星が小さな声でそっと彷徨に告げると、彷徨は顔を赤くしてプイッと顔を逸らした。

そんな彷徨に?顔の未夢を見て、また二人は笑った。

「さて、それではここで交代しなければなりませぬな。」

彦星が言うと織姫も頷いた。そして二人は両手を繋ぐと何やら呪文を唱え始めた。するとみるみる二人の衣服が変化をし、未夢と彷徨が着ている衣装と同じ物になった。ボサボサだった二人の髪も綺麗に整っている。その様子に呆然とする未夢と彷徨。

「これは秘密なのですが、僕たちは二人揃うと不思議な力が使えるんですよ。」

「ただ、問題もあって…。この力を使うと不思議な暗闇が現れて吸い込まれそうになるので気をつけないと…あっほら、あそこに!」

織姫が指を指した虹の橋の下、轟々と流れる白銀色の川に黒い闇が現れていた。

「彷徨!あれ!」

「あぁ!間違いない!時空のひずみだ!」

「「時空のひずみ?」」

?顔の織姫と彦星に苦笑いの彷徨が続けた。

「俺たちも帰る時が来たみたいだ。短い間だったけど、楽しかったよ。ありがとう。」

「織姫様、いつかまた織姫様と彦星様が共に暮らせる日がくると信じているから。」

未夢の言葉にびっくりした織姫だったが、すぐに笑顔に戻って未夢に告げた。

「あなたも大切な人と離れることのないように。願っているわ。」

「大切な人?」

きょとんとした顔の未夢に、織姫はチラッと彷徨の顔を見た。その様子に未夢は気付いて顔を赤くした。

未夢と織姫の会話が聞こえなかった彷徨は?顔で首を傾げたが、時空のひずみに目をやると慌てて未夢の手を掴んだ。

「急ぐぞ。もうひずみが閉じかけてる。」

「あっ。うん。じゃあ、お二人ともお元気で。」

未夢と彷徨は時空のひずみに飛び込むと、あっという間にひずみは消え、後には轟々と流れる川だけが残った。


「不思議な二人だったわね。」

「あぁ。不思議だったな。」

「でも、少しわかったような気がするの。」

川を見つめて話す織姫に首を傾げて尋ねる彦星。

「あの二人は想いが通じ合っているからこそ、強いのね。離れていても傍にいてもきっと彼らはお互いを高め合えるのよ。今の私たちはまだ彼らのようになれないわね。」

ニコッと笑って彦星を見る織姫。

「そうだな。彼らのようにならなければな。」

二人は手を握り、もう一度川を見つめた。



この作品の彷徨くんは、自分の気持ちに気付いているようですね…。(何故か他人事なロッカラビットです 笑)

そして未夢ちゃんも、少しずつ気付きかけてはいるようですが…彼女はいい意味で鈍いですからねぇ…。(そんな未夢の鈍さが好きなロッカラビットです 笑)

さて、やっと4話まで来ましたね。次で終わりにしますので、長いですがお付き合いいただければ幸いです。

第4話、読んでくださりありがとうございました。

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