作:ロッカラビット
無事に未夢に再会することが出来た彷徨。
二人の前に再び現れた時空のひずみ。
織姫と彦星に別れを告げ、時空のひずみへ飛び込んだ二人は…。
七月の星達、第5話、【共に】(最終話)
―――西遠寺―――
ドッシーン
「うっ!あいたたたたた。」
「おいっ未夢、大丈夫か?」
「ちょっと腰を…。って、ここ!!」
「「戻ってきた〜!!!」」
二人は辺りを見渡して、そこが西遠寺だとわかると思わず手を取り合って叫んでいた。
喜びも落ち着き冷静になると、二人は自分たちが手を繋いでいるのに気が付いて、ポッと顔を赤くしてお互いに顔を逸らした。それでも、手を放すことはしなかった。
火照った顔が少し落ち着いた頃、ようやく彷徨が声をかけた。
「それにしても、大変だったな。」
まだ赤い顔を隠すため、お互いに顔を背けたままだったが、自然と普段よりも優しい声音での会話になった。
「うん。なんだか彦星様と織姫様の切ない恋に胸が苦しかったよ。」
「まさか、彦星に間違えられるとはな。」
自嘲気味に笑う彷徨にクスッと笑う未夢。
「私も織姫様なんてね。でもね…。一人になって不安だったけど、七夕になったら彷徨に会えるってわかってからは、本物の織姫様みたいに七夕を待ってたんだぁ。」
小さく笑ってその時を思い出しているような未夢の姿に、彷徨は顔を真っ赤にしていた。もちろんそんな彷徨の様子を、反対を向いている未夢は知る由もないのだが。
落ち着いた彷徨が、はぁと深いため息をついて呟く。
「それ、わかって言ってるのか?」
「へ?何が〜?」
未夢の間延びした声ときょとんとした顔に彷徨は、はぁと再び深いため息をついた。
「いや、もういいよ。」
「???織姫様と彦星様、あの後どうなったかなぁ?」
「さぁな。傍にいられなくても、あいつらなら上手くやっていくんじゃないか?」
「…。そうだねぇ。」
未夢は一瞬ハッとしたが、すぐに元に戻って返事をした。
そんな未夢の様子を見逃す筈もない彷徨が続けた。
「お前、今、ルウやワンニャーのこと考えただろ。」
「え?な、な、なんでわかったの?」
「わかりやすすぎ。」
彷徨がベッと舌を出す。すると未夢もプウっと頬を膨らませたが、すぐに元に戻す。
「うん、ルウ君やワンニャーと別れる時、私は耐えられるかなぁって。1年に1度会えるあの二人だって、そのことを受け止めるのにあんなに苦労しているのに…。私たちは離れたら次に会える日が来るかどうかだって…。」
今にも泣き出しそうな顔を彷徨に見られないように、未夢は静かに俯いた。
その瞬間、繋いだ手をぐっと引っ張られて、気がついたら彷徨の胸の中にいた。
「俺がいるだろ。」
温かくて優しくて、大切な物を守るようにそっと呟かれたその声に、未夢はドキッっとして固まった。
「か、か、か、かなた?」
しばらくして真っ赤になった未夢がようやく状況を把握して、バタバタと手を振った。
けれど彷徨は抱きしめた腕をゆるめようとはしなかった。逃がさないようにしっかりと、でも壊れないように優しく未夢を抱きしめた彷徨は、胸の中にいる未夢の髪にキスを落とすと言葉を繋げた。
「いつか、未夢と俺も離れ離れになる時が来るだろ。でも、いつかきっと一緒にルウとワンニャーを待てる日が来るから。俺たちは1年に1度なんて決められてないから、会いたくなったら会えるんだし。今からそんな別れの時なんて考えるなよ。そんな寂しい顔するなよ。寂しくなったら俺が傍にいてやるから。」
彷徨の中で大人しくなった未夢は、その言葉に静かに頷いた。
その時。
「あの〜。とてもいい所なのを邪魔して悪いのですが…。お二人ともわたくしたちのことをすっかりお忘れではありませんか?」
「「ワンニャー!ルウ!(ルウくん!)」」
気付いた二人はバッと離れて、思わず正座してワンニャーの方を向いた。
「いえいえ、いいんですよ〜。お二人が仲がよろしいのは、ルウちゃまにとっても素晴らしいことですし。」
「え?いや、ワンニャー違うのよ!!」
「そうだぞ〜ワンニャー!これには色々と訳が!」
「いいのですよ。昼寝から目覚めてみればお二人が仲良く抱き合って…コホン。仲良くお話をされていただけですから〜。」
「え?昼寝からだと?」
「えぇ?昼寝って?そんな…。」
「???お二人ともどうなされたんですか?それに、その服、どうなさったんですか?先程までは着てらっしゃらなかったと…。」
「時間が経過してなかったってことか。」
「そんな、だって3日は向こうで過ごしたはずなのに…。」
「時空のひずみだから時間軸も歪むし、こういうこともあるんじゃないか?」
「そうなのかなぁ。」
「あの、お二人とも時空のひずみって、何かあったんですか?」
「ル?」
「いや、いいんだよ。ワンニャー。なぁ未夢。」
「そうだね、説明するのも大変だし。それよりルウ君にお話読んであげよう。」
「そうだな。とっておきの七夕物語をな。さぁルウ行こう。」
「ル?ルゥ〜♪」
「あっそんなぁ。…う〜ん、気になりますねぇ。でも、なんだかいつもよりお二人が仲良しさんでルウちゃまもご機嫌ですしね。それではわたくしは、おやつのみたらし団子とお茶を準備して参りますねぇ。」
お団子を食べながら七夕のお話をする4人の姿は、まるで本物の家族のようだった。
***その夜***
縁側で空を見上げていた未夢。
「何見てるんだ?未夢。」
「え?あっ彷徨。……。うん、星をね。」
「ん?」
彷徨も隣に座ると空を見上げた。
「あっ、今日の…。ありがとう。あの、傍にいるって言ってくれて嬉しかった。」
ほんのり顔を赤くして、それでも目線は空を向いたまま話す未夢。
「あのね、彷徨が私のことをルウくんやワンニャーと同じように大切な家族と思ってくれてるってわかって、嬉しかったよ。」
ニコッと微笑んでこちらを向く未夢に、ドキッとしつつも、まったく自分の気持ちに気付かない未夢に思わずため息をつく彷徨。
「はぁ…。」
「え?彷徨?何?どうかしたの?体調悪い?」
「いや、まぁいいよ。今はまだ家族でも。いつか必ずわからせてやるから。逃げるなよ。」
「へ?逃げる?何が?」
首を傾げて、本当にわからないという顔の未夢に、思わずククッと笑い出す彷徨。
「???んん?なんですかー?おーい、彷徨さんやー。どうせわからないかもしれないけど、一人で納得して〜。う〜〜。」
プクーッと頬を膨らませて言う未夢が可愛らしくて、彷徨はまた笑った。
そんな二人の姿を空の向こうで織姫と彦星が微笑ましく見守っていた。
☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆
完結しました〜!!!
なんとか無事に終わりを迎え安堵しております(笑)
結局二人を完全にくっつけることはしませんでした。
ルウ君とワンニャーと共に暮らしている間は、原作やアニメ通りに関係を曖昧に…。
でも、この好きなのに進展しない感じの初々しい恋って、個人的にはとても好きです。
お話を書くのは難しいですが、やっぱり楽しいですね。
もっと上手に、素敵に、作品を作り上げられると良いのですが…。
また次回作でお会いできれば幸いです。
次回作アップ出来る日が来ると良いのだけれど…(汗)
最終話、第5話、読んで下さりありがとうございました。