七月の星達

【3.仰ぐ】

作:ロッカラビット

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織姫と彦星に間違えられた二人。
二人の運命は…。

七月の星達、第3話、【仰ぐ】


―――織姫屋敷―――

「失礼します。織姫様。」

「はい。」

襖が開き世話人が未夢の元へやってきた。

「姫様、こんな時に申し訳無いのですが急ぎの1着がまだ仕上がっておりませんので、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「え?何?」

「こちらなのですが、姫様がこだわっておられた桜色の糸が染め上りましたので続きの機織りをしていただきたいのです。」

「え?機織り?」

「???姫様?いかがなされたのですか?機織りは姫様のお仕事であり、誰にも変われぬ才能です。それはご承知のことと…。」

「あっ、うん。そうだった…織姫って機織りが得意なんだった〜。どうしよう。私やったことなんて無いし。織姫じゃないって言っても伝わらないし。困ったよ〜。」

「???今日の姫様はやはり何か調子が悪いようですね。無理を言いまして失礼しました。わかりました、こちらで仕上がり日を調整してまいります。姫様は数日ゆっくりと休まれてください。」

「あっ。はい。ごめんなさい。ありがとう。」

優しく微笑む未夢に世話人も少し安堵の表情を見せ、部屋を出て行った。

「私は織姫じゃないから仕方がないんだけれど、でも、私がもう少し器用だったらなぁ。彷徨だったらこういう時、きっと上手に立ち回れちゃうんだろうなぁ。はぁ、彷徨は何処にいるんだろう。もしかして私のことなんて見捨てて、元の世界に戻ってたり…さすがに彷徨はそんなことしないよね。いつもは意地悪だけれど、こういう時は絶対に助けてくれるもん。今までだって…。」

未夢の頭の中は彷徨でいっぱいだった。それはこの部屋の本当の主、織姫の想いと似ていた。大切な彼を想う一途な恋心に。


―――彦星屋敷―――

「彦星様、失礼します。」

「あぁ。」

世話人がスーっと襖を開くと、窓際に片膝を立てて座りじっと川を見ている彷徨の姿があった。

「あの、彦星様。」

「あぁ。」

窓の外を見つめたまま返事をする彷徨だが、もちろん此処に連れてこられる前も部屋に通されてからも、自分が彦星で無い事を説明したのだ。それでも誰も話を真実と受け取ることをしなかったのである。話をして無事に未夢と再会することは難しいと悟った彷徨は、これからどうやって抜け出し未夢を助けるかを考えていた。そんな彷徨の思いなど知る由もない世話人が話を続けた。

「あの、彦星様。わざわざお伝えすることでも無いかと思いましたが、一応ご確認をと思いまして。」

「?何か?」

虚ろな目でようやくこちらを向いた彷徨に世話人は続けた。

「今しがた、彦星様に会いたいという者が2名現れまして、その者たちが言うには『未夢様を救う術を知っている』とのことで。訳がわからない上に、その者たちが頭巾を深く被り布で顔も覆っており見るからに怪しい風貌だと門番が言っておりまして。すぐに追い返しますが、その前に彦星様に確認をと思いまして。」

「未夢を救う?すぐに通してくれ!」

「はい、それでは追い返し・・・え?お通しするのですが?」

「すぐにだ!」

「は、は、はいっ!すぐに。」

彷徨の勢いと鋭い眼差しに世話人も驚きバタバタと部屋を出て行った。

「未夢を救うって一体誰だ?未夢のことを知っている奴なんてこの世界にいるのか?」

彷徨は一人ブツブツと思案した。


しばらくして彷徨の元に怪しい二人が連れてこられた。

世話人に席を外すように言い、彷徨は彼らの前に立った。

部屋に彷徨以外に誰もいないことを確認した二人は、おもむろに頭巾と布を取った。

そこに現れた姿に彷徨は言葉を失った。

「・・・・・・・!!!!!!み、み、みゆ??俺が・・・!!!」

二人はその様子にクスリと笑った後、

「「申し訳ないことをしました。」」

と丁寧に頭を下げた。

「もしかして、あんたたちが彦星と織姫なのか?」

「さすがですね。こちらに来たのは正解でした。ぼくたちが隠れていた所にいきなり天からあなた方が降ってきて、あれよあれよと連れて行かれ…。未夢と叫ぶあなたの声ははっきり聞こえてましたので、こう申し伝えがあればあなたは会ってくれると思いまして。」

「いや、元はと言えば私達が逃げ出したのがいけなかったのですが、関係のないあなたたちを巻き込んでしまって…本当にごめんなさい。でも、とにかく会えて良かった。」

「本物の織姫と彦星なら、あんたたちが世話人に説明してくれれば全てうまくいくんじゃないか。わざわざこんなまどろっこしいことしなくても。」

「いや、それが…。」

二人は顔を見合わせて困惑した。

「そうなのですが、事が大きくなり私の父上に見付かるとますます大変な騒ぎになってしまいますので。」

「どういうことだ?」

訝しげに尋ねる彷徨。

「ぼくたちを引き合わせたのは織姫の父親なのですが、ぼくたちが毎日一緒に過ごすあまり仕事をしなくなり、それに怒った父親が私たちを引き裂いて…。」

「あぁそれは知ってるよ。有名な話だし。」

「そうですよね。この世界でこのことを知らない人はいないですよね。」

「いや、この世界の人では無いんだけどね。」

「???え?」

「あっいや、何でもない。続けてください。」

「はい。それでも1年に1度は会えるように取り計らってくれたのです。ただぼくたちは、その
運命に逆らおうとしたんです。今までにも何度か屋敷を抜け出そうとして、その度に見付かり注意を受けました。前回失敗した時に、次こんなことをしたら二度と二人を会わせないと言われました。そして今回見事に成功して…。」

「そして俺たちが捕まった。」

「そうなんです。ただ今回の件は織姫の父には伝わっていないようなので…。」

「私たち、今回逃げ出したらそのまま遠くへ行き二人きりで暮らそうと決めていたのです。もし
父に見付かったら、もう二度と彦星には会えないことは覚悟を決めていました。」

「それでも、赤の他人のお二人を巻き込むことになって…。」


しばしの沈黙を破ったのは彷徨だった。

「戻ってきてくれて、ありがとう。」

「「え?」」

「だってそんだけ固い決意をしたのに、俺たちの為に戻ってくれたんだろ?」

「そうですが、でも巻き込んでしまったのに。」

「いいんだよ。巻き込まれてるのは慣れてるから。」

「「え?」」

「いや、こっちのこと。それで、どうやって未夢を助け出すんだ?」

それから3人は未夢救助作戦を入念に話し合った。


―――織姫屋敷―――

「姫様、聞いておられますか?」

「え?あっはい。ごめんなさい。」

「お疲れかとは思いますが、明後日は姫様にとって待ちに待った日ですぞ?普段でしたら、私が口を挟む隙が無いほど盛り上がっていらっしゃるのに。」

「あっ。うん、楽しみだよ。って、あっそっか!!七夕!!」

「そうです。七夕です。ですから先程から…。」

未夢はずっと上の空で話を聞いていたが、七夕と聞いてパッと表情を明るくした。

「七夕ってことは、彷徨…じゃなくて彦星様に会えるのね?」

「はい、その通りですが、どうなされたのですか?そんな当たり前のこと。」

「いいのいいの。気にしないで話を続けて。」

「はぁ。それでその際のお着物を選んでいただくのと、あとはその前にあるお父上への感謝の弁を覚えていただいて…。」

「え?何それ?」

「???だからお父上への感謝の弁ですよ。昨年もやったと思いますが。」

「あっ。うん、そうだっけ?忘れてしまったので、詳しくお願い。」

「はぁ。会うことを取り計らってくれたお父上への感謝を形式的に皆の前でご口上いただくのですが、こちらで用意したものを暗記していただくだけですので。」

「あ、あ、暗記?」

「そうですね。2分程度のものですし、明後日とまだお日にちもございますので。」

「2分も?」

明らかにパニックになっている未夢をよそに世話人は、口上が書かれた巻物を渡すと部屋を出て行った。

「う〜、長いよ〜。この巻物何処までつづいているの〜。」

未夢は巻物を広げながら、とても暗記出来そうにないそれをどうするか途方に暮れていた。


―――彦星屋敷―――

「彦星様、この者たちをここに住まわせるのですか?」

「あぁ、俺の世話人として雇うことにしたから。明後日の七夕の儀は、こいつらがお供として行くことにしたから。」

「え?そんな勝手に…。」

「何か異はあるか?」

「いえ……。わかりました。彦星様のことですから、何かお考えがあってのこと。それでは至急その者たちの着物を準備致します。」

「すまない。頼んだぞ。」

世話人が部屋を出ると、彷徨の見事な彦星ぶりに本物の彦星が思わず拍手をした。

「彷徨は演技が上手だな。」

「まぁ、慣れてるからな。小西に感謝しなきゃな。」

ボソッと呟いた言葉は二人には届かず、不思議そうな顔をしていた。




今回の【仰ぐ】は、天を仰ぐイメージからつけたサブタイトルです。

離れ離れになった二人がお互いのことを想っている様子を想像すると、私の中では空を見上げているような画になるので…あれ?全然そんな画は浮かばないですか?(笑)

ちなみに今までの【歪み】ひずみ、【代り】かわり、と、無駄に形式を揃えてきました(笑)
かわりって代わりが正しいのかしら?まぁいいか…。
サブタイトルつけるの難しい…あっ作品も駄作なんで駄目駄目ですね(汗)

拍手を頂き、ありがとうございます。
拍手後におまけ小話をつけてみました。ランダム機能があるようなので、これからいくつか付けてみようかしら…そこに力を注ぐなって話ですが(笑)

第3話、読んで下さりありがとうございました。


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