作:ロッカラビット
時空のひずみへと吸い込まれた二人。
二人の行き着いた先は…。
七月の星達 第2話、【代り】
「おい!未夢!未夢!大丈夫か?」
「え?彷徨?あっ、いったーい。」
「どっかぶつけたか?」
「うん、ちょっと腰を……ってここ何処だろう?」
辺りを見回してさっきまで居た西園寺じゃないことに気が付いた未夢。
「時空のひずみに吸い込まれたのは間違いないだろうけれど。」
「また吸い込まれたんだ〜。今度はどんな世界だろう。なんだか日本じゃないみたいだけれど。」
「というか、地球なのか?此処。」
時空のひずみから落とされ尻餅をついた地面は、まるで雲のように真っ白でふわふわしている。しかしそれは見た目だけで、実際は固く感触は地面その物だ。辺りはこの真っ白な地面が広がるばかりだが、遠くの方に朱色をした建物が微かに見える。
見たこともない景色に二人が困惑しているとバタバタと人が走ってくるのが見えた。
「こんな所におられたのですかー。おーい!こっちだ!こっちにおられたぞー!!」
未夢や彷徨と同じような服を身にまとった人たちが近くまでやってきて、後からくる人たちに叫んでいる。
未夢と彷徨は顔を見合わせ、今日何度目かの?マークを頭に浮かべていた。
「まったく、こんな所におられたのですか!こんな所をお父様に見られたら大変ですぞ。さあ行きますよ!織姫様!」
「え?何?わたし?」
「まったく、会いたい気持ちはわかりますが、今は大事な時期ですのでここは控えていただかなければ困りますよ!彦星様!」
「はっ?俺?」
二人はそれぞれ両脇を掴まれると、有無を言わさず別々の方へ連れて行かれた。
「え?ちょっと待ってよ!何?彷徨〜〜!!」
「おーい!未夢〜〜!!」
二人の叫び声がこの不思議な世界に響いていた。
―――織姫屋敷―――
「姫様。お気持ちはわかります。確かに彦星様と離れ離れになり心痛めておられた姫様をずっと見てきたわたくしですから、姫様の今回の件を頭ごなしに注意することは出来ませぬが、ですが姫様。」
「ちょっと待って!話を聞いて!私はその織姫様じゃないんだってば!」
未夢が慌てて話に口を挟む。
「姫様、いかがなされたのですか?先程からそのようなことを…。困りましたねぇ。それでは落ち着かれるまで、しばらくわたくしは席を外しますのでまた御用があればお呼びください。しかし姫様、見張りの者がおりますのでくれぐれも再度逃げ出すということはお控えくださいませ。次は隠しおおせぬやもしれませぬので。」
「え?あっちょっと待ってよ〜!!」
未夢が慌てて呼び止めるが、そんな未夢を置いて部屋を出て行ってしまった。
「はぁ。かなたぁ…。」
小さく息を吐き、窓の外を見つめて彼の名をつぶやいた。
―――彦星屋敷―――
おとぎ話の竜宮城を朱色で染めたような建物の最上階に彷徨はいた。窓からは雄大な川とその向こうにこの建物と同じような屋敷が見える。しかしその川はいわゆる川と違い白銀色をしており、所々でキラキラと光を放っている。
「彦星様、聞いておられますか?先程から何度もお伝えしておりますが、今回は織姫家には内密に事が済みましたがもし伝わるようなことがあれば、もう二度と会えないかもしれません
のですぞ。そのようになれば、彦星様だけでなく織姫様とて辛く悲しい思いをなされることに…。たった1年に1度でも会える、このことが如何に大切なことなのかよく考えていただかないと。聞いておられますか?」
「あぁ。うん。」
「まぁ彦星様も反省なさっておられるようですので、わたくしは一旦席を外させていただきますね。また御用があればお呼びください。」
「あぁ。うん。」
窓の外を見ながら生返事をする彷徨。
その姿に小さくため息をつきながら世話人は部屋を後にした。
「困ったことになったな、未夢。」
小さく呟き川の向こうの屋敷を見つめる彷徨だった。
―――未夢と彷徨がつかまった場所―――
「もう行ったみたいだよ。」
「うん、でもなんだか違う人が連れて行かれたみたい。」
「あぁ。さすがにまずいことになったな。」
「うん。あの人たちには関係の無いことなのに。」
「それにしても僕たちに」
「「よく似てたね。」」
未夢と彷徨がつかまった場所のすぐ近くに身を潜めていた二人は、辺りが静かになったのを確認すると立ち上がった。
「あなたに会いたくて、やっと会えて、こんなにも幸せなのは本当なのよ。でも…。」
「あぁわかっているよ織姫。見ず知らずの彼らを傷つけてまで幸せになっても意味がないと言
いたいのだろう。」
「彦星…。もうすぐ七夕がやってくるわね。1年に1度でもあなたに会えることを幸せと思わなければね。ずっと一緒にいたいけれど、こうやって運命に逆らおうとすると必ず…。もうこの定めからは逃れられないのかもしれないわね。」
「織姫、そんなこと…。確かに今までも何度も逃げ出そうとして失敗したし、やっと今日成功したのにこんなことになってしまったけれど、僕は決してこの運命に甘んじたりはしない。君と一緒に居たいんだ。1年に1度会えることは幸せなことだけれど、いつか必ず昔のように君とずっと一緒に過ごせる日が来ると…。」
「ありがとう彦星。いつかきっと一緒に。」
「あぁ。いつかきっと。」
「さぁ、彼女たちを助けなければ。行きましょう、彦星。」
「行こう、織姫。」
二人は彦星屋敷へと走り出した。
七夕の話を知らなくて色々調べてみましたが、この作品で七夕物語をどういう形に持っていくか、まだ決定しておりません(汗)
でも七夕って子供の頃からなんだかドキドキワクワクして好きなんです。
特にお祝い?お祭り?とかはしないのですが…。
なんだか心惹かれる七夕。皆さんは、七夕好きですか?
第2話、読んで下さりありがとうございました。