作:杏
宴が進み、アンサダーグが3本目のボトルを空けた頃。
「これが弔いの花だ! みんな、頼む…!」
踊り子たちの華麗なダンスに合わせて一発の花火が打ち上げられた。
打ち上げたのは、アヤの父。アンサダーグが酔ってきたことを示す、突入の合図である。
「―――やあ、ご苦労さんです。 おたくの料理長から、パンが足りないんで至急持って来いと言われたんだが…」
「…そうか、では、預かろう」
「頼みます。 確かに、お渡ししましたよ!」
ナナミの父も、職を生かした大役をかっていた。山盛りにパンの入った大きなカゴを、門番に抱えさせる。
手を離すと同時に、底に仕掛けた紐を引き抜いた。
プシュ――――――ッ!!
パンの隙間から白煙が立ち込め、門番は煙に包まれた。
「なっ……!」
声を上げたときには、背後から首を一突き。
「悪いね、反乱軍だ」
後ろから聞こえた声を微かに耳に入れながら、門番は意識を遠くした。
「よし、一丁上がり!」
「英雄になっちまった友人たちに、手向けてやりてーんだ…お縄についたアンサダーグをな!」
「キレイな花じゃねぇが、一番の餞だよな! 行こう!」
「――――来たらしいな」
突入チームは全部屋敷に入った。カナタたちも、西出入口の最後尾を行く。
これからだというのに、重たい剣に早くも手が痺れてきた。
「こんなに、人いないもんか…?」
気絶して、縛られている傭兵は所々にいるが、その数が余りに少ない。念の為、一人ひとりの懐を探って、武器を奪っていった。
「…金払いが悪くて、傭兵にも反発派に入りそうな奴は何人かいたらしい。 奴の側につくのは、多く見積もっても五、六人だ」
「へぇ…」
「カナ兄、そんな情報何処で…」
「さぁ? ちょっと、な」
結局、一階をくまなく回っても、誰にも会わなかった。
厨房と庭を結ぶ使用人通路以外、一階は総て制圧され、仲間の殆どは、既に二階に上がっている。ここまでは作戦通り。
「…じゃあ、俺たちもやるか!」
「おう!」
「ルクト、サンタを頼むな!」
「うん! カナ兄こそ、無茶しないでよ!」
手分けして始まった、三人だけの作戦。
(サンタの発明がここで役立つとはなー…)
一階の至る所に仕掛けたサンタの発明品。今回の為に二人で改良した、あの煙噴出マシーン。
手動のものを時限式にするのは、骨の折れる作業だった。
パタパタパタ…
「!」
(ひとりか…サンタたちじゃない…。 男じゃないな、メイドかなんかか?)
装置を仕掛け終えた無人の部屋を出ようとした矢先に、足音。
扉の陰に息を潜めて、やり過ごした。
遠ざかるのを確かめてから廊下に出たが、足音が戻ってきて、またそこに隠れた。
◇◇◇
「おい、あれを見ろ!」
二階に向かって大階段を駆け上がっていた大人たちが、踊り場の窓に張り付いた。
窓から見下ろした庭は、賑やかなパーティーの真っ只中。
陽気に酒を飲むアンサダーグの両脇には、予想通り、側近が二人ついている。
そして、その背後。反発派と思われるアンサダーグの部下や傭兵。今にも襲い掛かりそうな雰囲気で、剣を構えている。
「ひーふーみーよー……七人もいる!」
「どうしたんだこりゃ…!」
「――反発派が動き出したんだ」
「だ、誰だっ!?」
上からの声に、その場にいた全員がヒヤリとして振り返る。相手はひとり、大丈夫だと互いに目で話して、慣れない武器をそれぞれに構えた。