作:杏
「よし、準備は整った! 宴は成功の前祝いだ! ひと暴れやろう!!」
おお―――――――!
サンタの掛け声とともに、軍の士気は最高潮に高まり、大人たちはそれぞれの持ち場につく。
「カナ兄、サン兄!」
「にーちゃん…」
「リオ、メーサ……シオン」
メーサとシオンも、この異様な雰囲気に何かあるのは察している。
小さな腕をめいっぱい伸ばしてギュッと抱きつく二人を、カナタは両手に抱える。
「おまえら、そんな顔するなよぉ! にーちゃんたちは大丈夫だって!」
「リオ、メーサとシオンを頼むな」
「大丈夫、任せて!」
トンと胸を叩いたリオの傍で、サンタがキョロキョロと何かを探している。
「あれぇ? ルクトはどこ行ったんだぁ?」
「外の様子見て来るって…。 …あ、あの、カナ兄!」
躊躇いがちに、カナタを呼んだリオ。
メーサとシオンを抱いたまま、カナタはリオの言葉に耳を傾ける。
「あたし、大丈夫だから! …だから、ルクトも一緒に…!」
リオは言葉を切った。サンタと目を合わせて、相談するが、やはり答えは変えられない。
「…いや、ルクトはお前らと一緒だ。 あの丘をこいつらふたり連れて上るのは、リオひとりじゃ大変だろ?」
「……で、でも、ルクトは…」
「リオちゃんたちは、わたしたちに任せて!」
「―――!?」
「アヤちゃん! ナナミちゃん!」
「出てくんでしょ? この町」
「何で知って…。 ……!」
周りの大人たちにも知られているのか、カナタの表情が険しくなる。
「大丈夫、誰も知らないよ。 わたしたちは…なんとなく」
「…小さい頃から一緒なんだから。 成功しても、出てくの?」
「あ、ああ…」
「この町はもう、居心地がよくない…こいつらにとって」
カナタはメーサとシオンを下ろして、頭を撫でる。
アヤとナナミも、カナタたちの覚悟を感じとった。
止められない、止めてはいけないと悟ると、寂しさが込み上げる。
「そっか…寂しくなるね」
そう言ったアヤのまなじりが光る。
「落ち着いたら連絡するさ、暗号でな」
「カナタの暗号解けるのはジークさんぐらいだろぉ?」
「じゃーダメじゃない! 返事書けないね、アヤ?」
「あはははっ! わたしたちも暗号作らなきゃね〜、ナナミちゃん!」
幼馴染み4人で笑い合ったのは、半年振り。4人の明暗を分けたあの反乱が、ずっとその間を隔てていた。
「お願い、わたしたちにも何かさせて?」
「ちゃんと出て行く姿見届けなきゃ、気が気じゃないもん!」
ひとしきり笑い合ってから、ずいっと迫る二人の少女にカナタもサンタも勝てない。
だからこそ、巻き込まないように敢えて距離をとっていたのだけど。
「どーするぅ? カナタぁ…」
「…わかったよ。 ルクトは連れて行くから、リオたちを頼む。 落ち合うのは月咲きの丘の上。 時間は一本杉の先に、」
「「満月が咲く時間!」」
「…流石」
声を揃えたアヤとナナミに、ニヤリとカナタが片方の口角を上げて笑う。
「サン兄! カナ兄とルクトをお願いね!」
傍で4人の会話を眺めていたリオが、サンタに向かって駆けた。
メーサがシオンの手を取って後に続く。
言われたサンタはリオの髪をクシャリと撫でて、にかっと歯を見せて笑った。横でカナタが僅かに眉を上げる。
「リオ、俺の面倒までサンタに頼むのか? 見縊られたもんだなー」
「あははっ! だってカナ兄が一番ムチャするんだもん!」
「あっ、言えてる〜」
「カナタは昔っからそーだよねー」
リオに加えて、アヤとナナミにまで言い当てられ、益々カナタは難しい顔をする。
「…ルクトの所に行ってくる。 ナナミ、アヤ、こいつら頼むな。 …サンタ、手筈通りに」
「おう!」
外では、夕焼けに染まっていた空が、黒い幕に覆われ始める。
一番見えにくい時間。そして屋敷では、使用人は勿論、武具を備えた屈強な男たちもが準備に追われる慌ただしい時間。
誰も居ない宿舎から、サンタは易々と剣を盗んだ。
「お、重ッ! これ扱えんのかぁ?」
まさかそれを一人のメイドが見ていたとは、知る由もない。