作:杏
「僕も行く!」
「ダメだ、お前にはリオたちを守って欲しい」
「でも…!」
「リオたちだけで大人に預けられるか?」
「…………」
カナタにそう言われて、ルクトは視線を下げて、大きく首を振った。
その答えに、ほっとしたようにカナタは息をつく。
「…ルクト、お前にしか出来ないことだ」
「わかった。 リオたちは任せて!」
突き出した拳に、カナタとサンタが拳を合わせる。此方の結託も上手くいった。
宴の前夜、メーサとシオンを寝かしつけてから、ルクトとリオに総てを話した。反乱軍の再興、作戦の全貌、そしてその後。
「カナ兄、ホントにこの町を出るの?」
「成功しても出なきゃいけない? この町が変われば、僕たちだって…」
「チビたちの為には、誰も知らない、新しい環境の方がいいと思うんだ」
「どんなに町が変わっても、大人たちの記憶からは消えねーしな。 奴らはオレたち子供と違って、ずっと覚えてて引き摺るから厄介だよなぁ〜」
炊いていた火に小枝を投げながら、サンタが呟く。
「大人たちには、それぞれに守らなきゃいけないものがある。 俺らにとってのお前らみたいに、な。 だから、失敗もなかなか消せない」
「…じゃあパパは、あたしを守ってくれなかったの…?」
泣き出しそうになるリオをカナタは膝に抱えて、優しく髪を撫でる。
「……違う、そうじゃない。 リオの父さんはリオやメーサを守るために戦った。 守る方法は一つじゃないんだ。
守るために戦った者もいれば、守るために退いた者もいる。 負けたからって、俺たちの親が間違ってた訳でもない。
…ただ俺は、ここにアヤやナナミまで、居なくてよかったと思うよ」
「いたら毎っ日、ケンカしてんだろーなぁ〜!」
「カナ兄とナナミさんだね! ふたりとも頑固だもん!」
「…………」
サンタとルクトが話を変な方に逸らし、そうじゃねーだろ、とカナタが憮然とした目で言っている。クスクスと涙を溜めながらリオが笑い出した。
「あたしは?」
「リオもメーサも、シオンだってルクトだって、ホントは居ない方がよかったさ。 英雄の子供なんて、ない方がいいだろ?
でも、お前らが居るから、俺は頑張れるんだ」
「あっ! ずりーぞ、カナタ! オレもオレも! チビたちの為に頑張ってるって!」
「僕だって!」
リオの頭には三人の兄の手。そのあったかさがくすぐったくて、リオはまた笑った。
「――ねぇカナ兄?」
「んー?」
「出ることを決めてるんなら、どうして反乱を起こすの? いなくなるんなら、もう関係ないんじゃ…」
「ここで暮らす子供の為? アヤねーちゃんやナナねーちゃんもいるし…」
満月に近い丸い月を見上げながら、床に入った二人が訊ねた。
「そう言えば、聞こえはいいんだけどなー」
「そんなカッコイイ事するつもりはねーよなぁ?」
カナタとサンタが茶化すように含ませる。
「じゃあ、なんで?」
「??」
「「憂さ晴らし」」
「…に決まってんだろ! やられっ放しじゃ男が廃る!ってな!」
◇◇◇
「どうした、珍しいな。 子供たちは眠ったのか?」
その後、家はサンタに任せて、カナタは警備隊の詰め所を訪れた。こんな所に顔を出したことはない。
他の警備兵が何事だとジロジロ視線を送る。
「…出ようか」
「こんな所に来るなんて…明日のことで何かあったのか?」
「……俺たち、これが終わったらこの町を出ます。 成功しても、失敗しても。
俺とサンタで住む所と仕事を見つけて、静かに暮らすつもりです」
ジークは目を丸くして聴いていた。
町を出るのを前提に、こんな大それたことをする意味が理解できないでいる。
「あてはあるのか? …これはただの復讐か?」
カナタはジークの問いに首を振った。後者の返事ともとっていいのか、解りかねたが、それは訊かなかった。
「…じゃあせめて、明日までに平和な町の目星くらいつけてやるよ」
「ありがとうございます…」
「礼には及ばん、英雄がいたから俺の命は今あるんだ。 これくらい、させてくれ」
カナタは黙って頭を下げる。
「――頼みたいことがあってきました」
「…? なんだ」
「もし、俺たちが戻れなかったら…、ルクトたちをお願いします。 出来れば、四人一緒に居られるように…」
「馬鹿を言うな!!」
カナタの頼みはその怒鳴り声に一蹴された。胸ぐらを掴んだジークの拳が、震えている。
「俺にガキのお守りはできねーよ!
帰って来い! 必ず!! ふたりで帰って来なかったら、一生許さねーぞ!」
「―――はい」
キッと睨みつけたジークに、カナタは初めて、勝気な笑みを返した。