作:杏
「宴の日、日没の頃に屋敷の庭に招待客が集まります。 挨拶と乾杯が済めば、奴はひたすら酒を呷る。
常に奴のそばには、側近がふたり。 勿論、周辺を警備する部下、傭兵はいるけど、使用人の動きは厨房と庭の往復がメインとなり、人は疎らになる。
そこで合図を出します。 …作戦は基本、半年前と同じ」
「なんだと…?」
「な、何か策があるのか!?」
「前回の半分も居ないんだぞ!?」
宴を四日後に控えた夜、町の劇場に反乱軍の有志が集まった。
カナタの説明に、大人たちがどよめく。
「東西の使用人の出入口から中へ入り、一部屋ずつ制圧。 一対一じゃ敵わないから、チームを組んで確実に一人ずつ捕まえます。
…それが今回のカギです。 ひとつ、チームが乱れれば、全員が危険に晒されます」
順に、大人たちの色を確かめるように瞳を合わせる。その数は僅か二十人程度。
「前回の敗因は、多すぎた軍の統率力のなさ、個々の意志の弱さだと、俺は思います。 だからこそ今回は町中に募らず、ナナミとアヤの親父さんに人選を任せたんです。
この人数だから結託できる、俺はそう思います」
「カナタ…」
「カナタくん…」
サンタと一緒に、隅で見守っていたナナミとアヤの瞳には、涙が浮かんでいた。
「パパ! 今度裏切ったらわたし、許さないからね! もう踊り子に稽古つけてあげないから!」
「お父さんも! 焼き過ぎたパン作るくらいなら、その気持ちちゃんと見せてよ!」
「や、やるか…?」
「お、おう! このままじゃ英雄たちに顔向け出来ねぇ!」
「やろう! 半年遅れの弔い合戦だ!!」
おぉ――――!!!!
娘たちの喝が効いたのか、大人たちがひとつになっていく。
「――ひとつだけ、お願いがあります」
高まった士気に水を注すように、カナタが声をかけた。
「なんだ?」
「何でも言ってくれ!」
「そうだ! この命、お前らに預けるぞ!」
最後の言葉にカナタとサンタは顔を合わせて静かに首を振った。
「…いや、オレらはそんなことしてほしくない。 危なくなったら、逃げて欲しいんだ」
「全員の命があっての成功です。 生きる英雄となりましょう」
大人たちは戸惑いながらも、互いに頷き合った。
「よっしゃ! チームを作ろう! 何人で組むんだ? カナタ!」
「五人チームを2つ、三人を3つ。 あと、庭で踊りを披露する劇場メンバーに、オーナー…アヤの親父さんと、もう一人。
ナナミの親父さんはこっち、三人の方で。 それから…」
「おい、カナタ! …気付いてるか?」
屋敷の見取り図を囲んで、話し合いを始めた大人たちに気付かれないように、サンタが耳打ち。窓の外で動く影を指す。
「……ああ、密告者がいるんだろ。 いいよ、その方が有り難いし」
◇◇◇
「アンサダーグ様、下の者から暗号が届きました」
「何だと? …何と書いてある」
今宵もワインを手に寛いでいたアンサダーグが、その一報に眉を寄せた。部下から暗号を奪ったが、己には解読できない。
「町で反乱軍が立ち上がった。 宴の夜、奇襲をかけてくる…と」
「何ィ!?」
思わず力が入り、ワイングラスが音を立てて割れた。
「どうしましょう? 宴を中止に…」
「ガハハハハ! そうか、奇襲に来るか! 面白い!
宴は予定通り執り行う! 迎え撃ってやれ!」
「…はっ!」
部下たちが慌ただしく出て行く。メイドが用意した新しいグラスを傾けながら、アンサダーグは仰け反って笑っていた。
「ワシに逆らうとどうなるのか、まだわからないようだなぁ! ガハハハハッ! 思い知らせてやる…!」
◇◇◇
こうしてカナタとサンタは反乱軍を立ち上げ、その準備に明け暮れた。
何も知らない家族と、前日はゆっくり過ごすと決めている。
そして、ルクトとリオには、総て話しておく事を。