託された招待状

trick or truth

作:

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(…………ど、どんな顔して出ればいいんだろ…)

かろうじて思い出せたのは、帰り道。頭がクラクラして、ピンヒールの足も痛くて、道端にしゃがみこんだところまで。
そのあと自力で歩いたのかどうか、ホテルのロビーがどんなだったか、全く記憶にない。
そもそもこの部屋を目にしたのも、初めてな気がする。

そおっとドアを開けて、部屋を窺う。放られたミュール、床に散らばったヘアピンとリボン。
「はは………」
この惨状に、頬がひくひくと引きつる。
記憶にないのが良いのか悪いのか。覚えているのも、怖いと思う。
(あ、れ…?)
しんとした室内。家にいたって、彷徨と二人なら静かなものだけど、それにしたって静かすぎる。部屋のそとに出たのだろうか。
とりあえず今、顔を合わせなくて済むなら、ほっとするところだけど。

「………寝てる」
ベッドで静かに寝息をたてる彷徨。頼りない微かな記憶を手繰ると、確か、彷徨も飲まされていた。それも自分よりもたくさん。
それなのに酔い潰れた自分の面倒まで見てくれたのかと、気付く。起こさないように近付いて、そばに膝をついた。
「…ありがと」



TRRRRR TRR…
「はいっ!」
そのまま彷徨の寝顔をなんとなく眺めていたら、ベッドサイドの電話が鳴った。未夢は慌てて受話器を取る。
よっぽど疲れているのか、彷徨が起きる気配はない。
『もしもし、未夢ちゃん? おはよー』
「あ、えと……ゆうかさん?」
『そうそう! 覚えてる? 身体、何ともない?』
「あ、え、はい…っ」
相手の声に、聞き覚えはある。自分が“ゆうかさん”と呼んでいたのもわかっているけど、顔が思い出せない。
『そっか、よかったよかった! 彷徨くんも大丈夫そう?』
「たぶん…まだ寝てますけど…」
『そう! 未夢ちゃんと一緒だから眠れなかったんじゃない? 昨晩も代わろうかー?って電話したんだけど……』
受話器から転がる笑い声。その声が届いたのか、彷徨が薄く目を開いた。
「未夢…?」
「彷徨? …おはよ」
祐花の声を聞きながら、マイクを塞いで彷徨に声をかける。彷徨は眩しそうに目を細めて未夢を仰ぐと、また瞳を閉じてしまった。
『あ、彷徨くん起きた? じゃー朝ごはん、8時半くらいでもいいかな?』
「はい、…大丈夫です」
『じゃあその頃にそっちの部屋行くねー』
「はーい」



受話器を置いて、時計を探して壁を見渡す。
電話の周囲も確かめるけど、そのサイドボードの側面に埋め込まれたデジタル時計は未夢の目に入らなかった。
「…あ!」
彷徨が腕時計をしていたのを思い出し、荷物の置かれた化粧台を見渡すけど、ない。
ベッドの彷徨にもう一度目を向けるとその手首には腕時計。
(……時計、したままじゃない。 なんで?)
首をかしげながらまた彷徨に寄ると、時計の文字盤は下を向き、白いシーツにだけ時間を伝えている。
「ちょっと、ごめんね…っと。 時計ぐらい外せばいいのに…」
少しだけ袖をひっぱって、手首を反す。いつもより小さな声でぶつくさ言いながら、時間を確認。現在8時7分。

「彷徨ぁ〜そろそろ起きて準備しないとぉ。 朝ごはん、8時半だって〜」
「ん―――…あと5分…」
休日だって、未夢が彷徨を起こすなんてことはない。ましてや自分が毎日言ってるセリフを、彷徨の口から聞けるなんて、レア中のレア。
ちょっとしたイタズラ心が、未夢に芽生えた。
「早く起きないとぉ――…」
そこまで言って、言葉に詰まる。その先が思いつかない。
(……。 どーしよっかなぁ…)
長いまつげ、シャープな輪郭、襟元のボタンを開けたワイシャツ。
女の子のように可愛く見えて、そのラインから男の色を感じて。
「…おそっちゃうよ?」
…だから何をしたいというワケでもなく何気なくそう言って、とりあえずベッドに片膝をついて、柔らかい髪に手を伸ばした、ら。


「―――ひゃあっ!」

つかまれた。一瞬にして、形勢逆転。
その胸に押しつけられたかと思ったら、景色がまわってベッドに仰向けに転がされた。目の前には彷徨。
「何? 俺とナニしたいの?」
「〜〜〜〜〜!?」
「…なんだよ、まだ20分もあんじゃん。 おまえじゃねーんだから、俺は10分あれば余裕…」
何か言おうと口を動かすけど、言葉が出ない。真っ赤になって口をパクパクとする未夢はまるで金魚。


「なっ! な、なっ…どっ、どいてよっ!」

3分。
視線さえ解放してくれない彷徨に、未夢が声を発するまで、それだけの時間を要した。
「やだ。 まだ5分あるし」
「意味わかんないっ! なんなのよぉ〜〜〜」
力いっぱい彷徨の肩を押してみるけど、ビクともしない。
「何って…仕返し? 昨日は散々おまえに振り回されたしなぁー?」
「そんなこと…!」
ない、とは言えない。口を噤んで目を逸らしたら、察して呆れられた。
「覚えてねーの?」
「うっ……」
「だよなぁ、相当酔ってたし。 大して飲んでねーのに」
「しょーがないでしょ! お酒なんて、初めて飲んだんだからっ!
 ……わたし、なにしたの…?」
「知らないほうがいいんじゃねぇ?」
彷徨がニヤリと笑う。確かに知るのも怖いけど。
「だって、気になるじゃないっ!」

「じゃーまず、俺が着替えるどころか時計すら外せなかったのは? なんでだと思う?」
(き、聞こえてたんだ…)
「なんでよっ? 酔っぱらってたから?」
「…おまえが、な。 俺をベッドに引き摺りこんでー…」
「きゃあああっ! やっ、やめて! やっぱり言わないで!」

淡い瞳が濃く色づいて、視界から消えた。瞬間、彷徨の髪が未夢の頬をかすめる。
「知りたいんだろ? …教えてやるよ、昨日、何があったか…」
耳元でそう囁かれて、彷徨の指先が首筋をなぞった。
「ひゃ…! ほ、ほらっ! 早くシャワー浴びちゃって…っ!」
「一緒に入る?」
「!!?」
ようやく、反撃。枕を掴んで、彷徨の顔に思いっきり投げつけた。
くっくっと喉の奥で笑いながら、彷徨がやっと未夢を解放する。自分の荷物から着替えを出して、鏡に映るまだ真っ赤な未夢に、最後の悪戯。

「未夢、鏡見た?」
「鏡…?」
振り返って、トントンと自分の首筋を指した。
「ココ。 キスマーク」
「えっ……!?」
未夢が両手で首を隠して、彷徨のそばの鏡に駆け寄る。
その間に、彷徨はバスルームへ。ドアを閉める直前に言い逃げ。
「ばぁか。 嘘に決まってんだろ」
「――――!! 彷徨のばかぁ〜〜〜〜〜〜!!!」



彷徨くん、悪戯がすぎますよ…。。(笑)
杏はとっても楽しかったですけど?(≧▽≦)
いやいや、キャラ崩壊ですねww

ご覧いただき、感謝、感謝です。
一応、朝食はとりたいと思います。このまま終わっても…まぁそれはそれでアリかもしれないですけど。
タイトルはそのままです。悪戯か真実。ハロウィンみたい(^^;;
仮タイトルに日本語でそう書いてて、どっちかにするつもりだったんですけど、書いてみたらこのままうやむやにしちゃえー!みたいなノリになりました。

これ、高校生設定で書いてたら、確実にこの回R指定ですね(笑)(笑)

さぁ、あとは早見夫妻に遊んでいただきましょう!
ゆうかさぁーん!だいすけさぁーん!!(>0<)ノシ

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