作:杏
「おやすみなさぁい! ゆうかさん、だいすけさぁん!」
「おやすみ〜未夢ちゃん」
「ゆっくり寝なさいよー?」
「はぁ〜い!」
大介と祐花の部屋のドアが閉じるまで、未夢は廊下でニコニコと見送っていた。
彷徨は大介から渡された荷物を部屋に運ぶ。
「足いたい〜〜〜ヒールつかれたぁ…」
未夢はよろよろとベッドの端に座ると、ポイっとミュールを脱ぎ捨てて、ボレロも肩から落とした。
「あ―――……かなたぁ…」
「なんだよ?」
「かみ…とって……」
「髪?」
「リボンと…へあぴん、いっぱい…」
未夢が力任せにリボンを引っ張るが、解けそうにない。
「髪切れるぞ。 …そっち向いて、じっとしてろ」
未夢のそばに片膝をついて、丁寧にリボンをほどく。
朝早くから綾とななみが来て、賑やかに用意をしていたのは知っているけど、この髪の中がどうなっているのか、わからない。
固められている上に、未夢は前後左右へ頭を揺らす。
「…動くなって」
「動いてなぁい〜〜〜」
(…つもりなんだろうけど…)
「どーなってんだよ、この頭…」
定まらない未夢を支えようと手を伸ばしたが、すぐにひっこめた。むき出しのその肩に触れることに躊躇って、強引に頭を引き寄せる。
「…寄っかかってろ」
「はぁい〜〜」
「…ほら、出来た。 寝るんならベッド入って…」
「……ん〜〜〜…」
彷徨が髪と格闘すること5分。
寄りかからせたはいいが、それもそれで、心身によろしくはなかった。未夢は半分寝てるから重みがかかるし、近すぎて見づらい。
柔らかいベッドでその体勢を保つのに、片膝も辛い。速めの心音は、酒のせいだと自分に言い聞かせる。
とにかく離れたくて身体を少しだけ動かしたのだけど、力の入っていない未夢の身体はそのまま落ちていく。
しかも。
ベッドではなく、床の方に。
「い…ったいぃ〜〜〜〜」
「…こっちのセリフだ」
酒のせいか、身体の動きが鈍い。いつもなら片腕で済みそうなことに、今は見事に未夢の下敷き。
「大丈夫か? 酔っぱらい」
「よっ…ぱらってないもぉん〜〜〜! 彷徨こそ、顔あかいよぉ〜? 大介さんにいっぱい、のまされてたもんねぇ〜」
「大した量じゃねーし…」
(……酒のせいじゃねーし)
未夢ごと上半身を起こして、慣れないネクタイを緩める。
「未夢ちゃんは酔っぱらってないでっすぅ〜!」
いつものように頬を膨らませながらも、彷徨の胸に寄りかかったまま、離れる気はないようだった。
(ぜってー酔ってるし…)
「ハイハイ。 じゃー早く寝ろ。 重い」
「なんですとぉ――しっつれいな〜! もぉ、かなたしらないっ!」
トンっと両手で彷徨の胸を叩いて、ふいっと顔を逸らした。指先でネクタイを弄ぶ。
「だから、どけってのに…」
自分で動いてくれるのは諦めて、未夢を抱えてベッドに運ぶ。
「ひゃあああぁっ! ちょっとぉ! なにするのぉ! かなたのえっち! へんたいぃ〜〜〜!!」
「ひとを強姦みたいに…。 ハイハイ、好きに言ってろよ」
「!?」
「きゃ…! …かなたぁ?」
ベッドの上で、両手を離した。未夢だけ落とすつもりで。
いや、落ちたのは未夢だけなんだけど、その手に俺のネクタイを握りしめてたらしく、俺もベッドに引っ張られた。
未夢の全体重が首にかかって、それでも何とかついた両手の間に、未夢がいた。長い一瞬。
「…悪い…っ」
身を起こした途端。今度は不意に腕を引かれて、倒れ込むしかなかった。
「えへへ〜うでまーくらっ! いっしょにねよ?」
そう言って、引いた俺の左腕に頭を乗せる未夢。
「…はぁ!?」
この一言で俺の体内の酒は全部吹っ飛んだ、と思う。
あの暴言は、酔いが醒めたのかと思ってたんだけど。シラフで言いそうだし。
「…だめ?」
さっきから、なるべく見ないようにしていた、赤らんだ頬に眠そうにとろんとした瞳。
上目遣いにシャツの裾少し握って、無邪気に微笑む。
…おまえ、肩出したドレスのままなんだぞ?
「早く寝ろっ!」
「やぁっ、あついぃ〜」
乱暴にかぶせた布団は結局、腰まで未夢に捲られる。俺は上を向いて、どうしてもそっち側に寄せられる意識と戦うことになった。
(…眠れねー……)
おやすみ、未夢ちゃん☆
ってな感じで杏でござーいっ!…え?杏は酔ってないですよ?(〃‘v‘〃)
この回の未夢ちゃんも彷徨くんも可愛いだろーなぁ…と妄想して萌えてます(笑)
さぁ、未夢ちゃんはどこまで思い出せたんでしょうか?
次回、楽しみです♪(書くのがw)
お読みいただきありがとうございました!