作:杏
お色直し。
未夢はようやく料理に向かう。
式からずっと、上機嫌だった未夢。フォークを口に運ぶことすら、楽しそうで。その頬は緩みっぱなしだ。
「わぁ、美味し〜!」
「楽しそうだな、おまえ」
「え? そう? だって、こんなの初めてだし…憧れちゃうよぉ〜」
「女の子の夢だよねー!」
「ですよね〜! わたしもいつか…」
「早見くん! 今日は来てくれてありがとう!」
「岩崎教授、おめでとうございます!」
「ありがとう、祐花くんも、相変わらず綺麗だね」
「やだ、教授も相変わらずお上手で! ご無沙汰しております」
未夢が祐花さんと盛り上がりかけたところに、岩崎教授。早見夫妻にお酌をしに来られたらしい。
「…おまえもあーゆーの着たいんだ?」
一気に俺たちは蚊帳の外、俺は夢うつつな未夢を現実に引き戻した。
「?」
「ドレス」
「そ、そりゃ、いつかは………。 和装でもイイケド…」
「ふーん…まずは相手だなー」
最後の小さな独り言も逃さなかったけど、それには触れなかった。
「まだ先の話だもん! なんとかするわよ!」
「無理、無理! 10年経っても何とかならねーって」
いつものからかいに、案の定、未夢は怒る。頬を膨らませて、唇を尖らせた。
ただ…いつもと違う、淡いピンクの口紅。つい、手が伸びてしまったのは…酒の勢い。って訳じゃないけど。呑まれてねーし。
未夢の顎をさらって、その唇まであと数センチ。俺の視界には未夢の瞳しか入らない。
「…しょーがねーから俺が貰ってやるよ」
「―――!? なっ…!?」
直ぐに未夢が俺の手から離れたから、助かった。
呑まれてねーけど、飲んでなきゃ言ってねぇな。……酒の力、か…
「かっ、彷徨!? お酒でも飲んだ!?」
未夢はついっと彷徨から顔を逸らして、手近なグラスを取る。
熱くなった身体を冷ますように、一気に飲み干した。
「…何コレ? おさけ…?」
「……うすーいカシスオレンジ」
大介が気まずそうに一言。さすがに一気飲みは想定外だったのか、心配そうに未夢を見る。
「ちょっと大介! いつの間に…!?」
「あ、いや、9割くらいオレンジジュースだから平気だろーと…」
大介は祐花に威圧されてたじろいで見せるが、それでもどこか楽しげに口元が笑っている。呆れた祐花が未夢を覗き込んだ。
「未夢ちゃん、大丈夫?」
「ほら、水」
「あ、ありがと…」
大丈夫かと訊かれても、未夢もわからないから答えられない。とりあえず彷徨から水のグラスを受け取って、これも飲み干す。
トンとグラスを置いたところで、照明が暗くなった。
衣装を替えた新郎新婦が再び登場し、キャンドルを持ってテーブルをまわり始める。
「わぁ…ステキ……!」
表情は輝いたが、キャンドルの灯りだけでは顔色がわからない。その後も新郎友人の漫才に笑い、新婦友人の歌を一緒に口ずさむ。
彷徨も祐花もしばらく未夢を注視していたが、いたって普通なので、やはり一杯くらい大丈夫だったのだろうと安堵していた。
本人はそんな二人の心配もどこ吹く風。終始ニコニコとご機嫌に、初めての宴を楽しんでいた。
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「じゃあ時間はぁー……あれ? 未夢ちゃん?」
帰り道、用意されていたホテルに向かって、早見夫妻と歩いていた。
彷徨と大介の手には、ジャケットと引出物。
明日の朝食の時間を一緒に、と祐花が振り返ると、未夢がそばにいない。
「あ、あれ…」
大介が指差したのは50メートルくらい後方。歩道の真ん中で、うずくまる未夢。
祐花が身を翻して未夢に駆け寄る。
「すみません、大介さん! 荷物お願いします!」
大きな紙袋を大介に預けて、彷徨も祐花に続いた。スーツに革靴と言えど、高いヒールで走る祐花に追い付くのは容易い。
未夢のもとに辿り着いたのは、ほぼ同時。
「未夢!」
「未夢ちゃんっ? 大丈夫?」
未夢はそこにしゃがみこんだまま、動かない。
二人が顔を見合わせていると、未夢がやっと絞り出すような声をあげた。
「ゆうかさぁん〜〜〜、もぉあるけな…」
「未夢ちゃん、もーちょっと! もうホテル着くから、頑張ってー!」
祐花に支えられて何とか立ち上がる。その目はもう半分以上閉じていた。
こんにちは!
ご覧いただけて嬉しいです!
やっと未夢ちゃんが思い出したワード1と2が出てきました!
あと2つ、順調に出せるように頑張ります。おー!
そろそろ英語の(日本語も)苦手な杏は、タイトルに後悔してます。
英語ってだけでカッコいーので、意味は単純明快でもいいかなーとw
“憧れ”で検索したけど、なんかピンとこなかったので、望む、願う、の意味で“desire”に。
結果的に、彷徨くんの暴走シーンとも上手く(?)合いました(^^*)
次回から、酔っぱらい未夢ちゃんワールド全開です!
ワタシの立ち位置はもちろん、常に楽しんでいる元凶、大介さん(笑)
出番少ないけどね!んふふ♪
もう1、2話、今日中に上がるかな!?
またお待ちしております。